第8話 おのれルクレツィア……!

 マローダーが、轟音を上げて光の中に突進する。

 巨大な装甲車の出現に、門の前に立っていた兵士たちは、驚き、逃げ出した。


「エレナ、突っ込むぞ! 頭を下げて!」

「はい!」

 僕は、アクセルを限界まで踏み込んだ。


 分厚い鉄の壁に、マローダーが激突する。

 激しい衝撃。

 車体どころか、フロア全体が大きく揺れる。

 マローダーは周囲の石壁ごと粉砕し、扉を吹き飛ばした。

 

「!! リョウ! 避けてくださいっ!」

 突然、エレナが叫んだ。

 扉を抜けた先、マローダーの真正面で、若いエルフの衛兵が、腰を抜かしてへたり込んでいる。


 ハンドルを切る。

 と、同時に、アクセルをブレーキに踏みかえる。

 激しい摩擦音を上げてドリフトする車体。


 かろうじて、エルフの衛兵を轢いてしまうことは避けられた。

 マローダーは大宝物庫の中央で止まる。

 前方10メートルほどのところに、台座の上で真っ赤に輝く宝石が見えた。


「行けっ! エレナ!」

 僕が声を上げるより前に、エレナは助手席を飛び出した。

 祭壇に向かって走るエレナ。

 混乱に陥った衛兵たちは、もはやエレナの行く手をさえぎろうともしない。


「忌まわしい魔石め……砕け散れ!」

 エレナが、武田さんから借りてきたハンマー(げんのう)を、妖しく光る石に向かって振り下ろす。

 パキンッという乾いた音が響いて、赤い宝石は砕け散った。


「……やった……のか?」

 周囲の雰囲気にも、エレナの姿にも変化は見えない。

 ややあって、門のあったところから、人の影が近づいてくるのが見えた。


「残り15秒といったところでしょうか……」

 どこかうれいを含んだような、女性の声。

 エレナが絶望を顔に浮かべながら、その声の方を振り返る。

「おのれルクレツィア……!」


 アクセルを踏もうとする僕の足に、何かがするりと絡みついた。

 見ると、それは水!

 まるで蛇のように足を締め付け、僕はたちまちマローダーから引きずり下ろされた。


「城の倉庫に魔女が現れたという報告から、1日……あくまで、念のため、というつもりでした。まさかここまで短時間で宝物庫に突入できるとは。しかし、結果として正解でしたね。本物の魔石はこちらです」

 ルクレツィアと呼ばれた女性は、豊かな胸の谷間から、ブローチを取り出して見せる。

 そこには、さっきエレナが砕いた宝石と同じ姿の石が嵌められていた。

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