第7話 ここから先は、私一人で行きます
「よかった! よく帰ってきましたリョウ! さすがは私の見込んだ男です!」
現代世界に戻ると、エレナが大喜びで抱き着いてきた。
「消費時間45秒、残り時間46秒! 上出来だろ?」
「はい! これで勝ったも同然です!」
喜ぶ僕たちに、武田さんが苦笑いして声をかける。
「コラコラ、まだ最後の仕上げが残ってるでしょ。すぐに移動するわよ」
移動といっても、目的地までは1分たらずだった。
そこは高級外車専門のディーラー……だが、当然ながらすでにお店は閉まっている。
そして、懐から怪しげに光る鍵を取り出すエレナ。
「エレナ、好奇心から聞くんだけど、その鍵って」
僕の問いに、エレナは笑顔で答える。
「はい。ミノタウロスのいた倉庫からゲットした、魔法の鍵です。3回まで、どんな鍵でも開けることができるのです!」
「ちょっと待って、もしかして……」
慌てる僕に、武田さんが平然と言う。
「そう。購入はできていないわ。忍び込んで、盗み出すのよ」
かまわず魔法の鍵で扉を開けるエレナ。
武田さんはペン型の赤外線ライトを監視カメラに照射しながら、ずんずん進んでいく。
「あの……盗みとかって……」
「犯罪かしら? でもね、こう考えてみて」
武田さんが、独特の落ち着いた声で語る。
「例えば、あなたが山でクマに襲われて逃げているとき、山小屋を見つけたとするわ。小屋に鍵はかかっていない。あなたは身を守るために小屋に避難する。これは不法侵入ね」
「……」
僕たちは展示されている高級外車には目もくれず、さらに奥へと進んでいく。
「それでもクマは諦めず、小屋に入ろうとしている。そこであなたは、小屋に飾られた高価そうなライフルを見つける。これでクマを撃たなければ、あなたは食い殺されてしまうかもしれない。あなたはライフルのケースを破壊し、それを無断で使う。これは窃盗だけれど、犯罪にあたるかしら?」
「……犯罪では、ないと思います」
武田さんは、僕を安心させるように、続けて言った。
「もちろん、持ち主の損にはさせないわ。アタシがあとでちゃ~んと手を打ってあげる。エレナちゃんが異世界から持ってきてくれた大量の宝石もあるしね。けど、1日やそこらで手に入れるには、ちょっと特殊すぎるのよ、コイツは」
そうして武田さんが立ち止まったところには、巨大な、本当に巨大な、まるで戦車のような車が置かれていた。
「南アフリカ製装輪装甲車『マローダー』。市販車両ながら地雷にもロケット砲にも耐えるっていう、まさにバケモノみたいな車よ。つい3日前、テレビ番組の撮影で使われたばっかりで、ガソリンも十分、走行可能な状態になってるわ」
エレナが再び魔法の鍵を使って、マローダーの扉を開けて言う。
「リョウ、ここから先は、ついてきてと無理強いすることはできません。もし万が一、3分を経過してしまったら、この世界へのゲートは開けなくなってしまうかもしれない。そうなったら、あなたは二度と元の世界に戻れなくなってしまう。だから、ここから先は、私一人で行きます」
武田さんが、続けて口を開いた。
「……アタシも、立場としちゃ止めるべきなのよね。でも、異世界を救うなんて、そんな少年の大冒険の機会を無理やり潰しちゃえるほど、トシ取れてもいないの。リョウくん、どうする?」
僕は聞いた。
「エレナは、車運転したことあるの?」
きょとんとして答えるエレナ。
「いえ……ないです」
「僕、レースゲームとかは得意なんですよ。最後に石を割るのはエレナでしょう? なら、運転は別の人間がやったほうがいい」
僕は、マローダーの運転席に座る。
「リョウ……」
迷うエレナの肩を、武田さんがポンと叩く。
「男の子がここぞって時に見せた勇気、無駄にするもんじゃないわよ!」
「リョウ、ありがとう。私、必ず勝ちます!」
エレナが、ステッキでマローダーの前に大きな魔法陣を描き、助手席に乗り込む。
僕はエレナからキーを受け取り、エンジンをかける。
「行ってきなさい。そうして、もし負けそうになったら、逃げて戻っておいで。帰ってくる場所は、用意して待ってるんだからね」
武田さんが笑う。
「行くよ、エレナ」
「はい! ラスト・ミッションです!」
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