第3話 次は! 渋谷に行きます!

「さて、今回の宝物庫攻略にかかった時間は、最初の3秒と合わせて計1分29秒でした」

 城の廊下を駆け抜けて、人の目につかない場所に魔法陣を再展開。再び現世に戻った僕たちは、僕の部屋に腰を落ち着けて作戦会議に入っていた。


「もう半分近くも時間を使っちゃったのか……って、ちょっと待てよ! 僕はまだ手伝うって決めたわけじゃないぞ!」

 僕が抗議すると、エレナは眉をへの字に曲げて、不満げな声を出した。


「えぇ~ここまで来てそりゃないですよ~。こんな美少女と一緒に世界を救うなんてステキ体験ができるんですよ? この上に何を望むのかって感じです」

「それが世界を救ってくれとお願いするヤツの態度かよ……」

 エレナのあまりの厚かましさに、僕は悪態をつく。


「うう~、私に魔力があれば! 憎き魔王ルクレツィアの操る水を一瞬で凍らせ! 世界を魔の手からビシッと救って見せるのです! でも今はその魔力がないんですよぉ~!」

 エレナは急に涙目になる。腹黒であっても、美少女に涙ぐまれるのは居心地が悪い。


「……わかったよ。それで、次は何をすればいいんだ?」

僕がそう聞くと、エレナは花が咲いたみたいに明るい笑顔になって、喜んで話し出した。

「さすがリョウです! やる気になってくれたのですね? それでは次のミッションをお伝えしましょう! 次は! 渋谷に行きます!」


「は?」

「渋谷です!」

「いや……ふざけてんの?」

 僕が真顔で言うと、エレナはいかにも心外という顔をした。

「いやいやいやいや! 大真面目ですよ! そもそもリョウは私がこっちの世界に詳しすぎると思いませんでしたか? 実は私、以前この世界に来たことがあるんです! 驚きましたか? 驚きましたよね? しかも! 渋谷には有能な協力者がいるのです!」


 さくっと重要な情報を提示されたような気がするけれど、問題はそういうことではないのだ。僕は、事実をエレナに伝えた。

「エレナ、ここは秋田だ。渋谷までは新幹線を使っても5時間以上かかる」


 エレナはしばらく、僕の言うことが理解できないという顔で呆然としていた。

「えっ……あの、もう世界を救うのは”飽きた”とか、そういうギャグじゃないですよね? ぜんぜん笑えませんよ?」

「エレナ、ギャグじゃない。ここは秋田県秋田市だ。お米の産地なんだ」

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