第3話 「おせっかいな奴ら」
あの後、俺は受付の係員に新人に与えられる自室の場所を聞き、俺の自室となる部屋の前に来ていた。
そして、躊躇わずに扉を開けた。
「……へぇ、意外とちゃんとしてるな」
部屋は洋室で、1人用のベッドとタンス、机と椅子が置かれていた。 奥にもう1つ扉があるが、あれは風呂だろう。
…それにしても、この時代に1人部屋とは、封鬼兵は優遇され過ぎではないだろうか。
外の世界では、その日寝る場所を確保するのも大変だったというのに。
「…ふぅ」
俺はベッドに腰を下ろし、刀を出し、握る。
……本当に何もない場所から現れるんだな。
「……皆、やっと封鬼兵になったぞ。 皆の夢は、俺が絶対叶えるから…」
昔の仲間を思い出して呟く。
封鬼兵になった、武器も手に入れた。 これでバケガミと戦える。
「…絶対に殺してやる…ナーガ…!!」
俺は刀を消し、ベッドに横になる。 すると、思ったより疲れていたのか、すぐに眠ってしまった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『ねぇコウ? 今日は何食べたい?』
……またこの夢だ。
『美空に任せるぜ? 美空の料理は全部美味いからな!』
『ん〜…どうしようかなぁ…あっ! じゃあカレーにしようか! コウはカレー好きだもんね』
これは、俺が10歳の時の出来事だ。 この時が一番平和だった。
10歳の時、俺は汚い廃墟に5人の仲間と住んでいた。
『おいコウ! 』
『お、どうしたタツミ? そんなに急いで帰って来て…』
『侵入者だ! 食料を全部寄越せって言ってきた! 真姫とカインが対応してるんだけど…』
この時は、子供だけで住んでいる俺達の元に、こうやって馬鹿な大人達が攻めてきたりしたんだ。
「任せろ!」
俺は、こうなった時は何時も木刀を持って馬鹿な大人達の元へ向かう。
『よぉ? お前がここのリーダーか? ガキが5人で生活していけるわけがねぇだろ? ほら、大人に食料を渡しな』
『真姫、カイン。 あとは俺がやるよ』
目の前の3人の大人は、完全に俺を見下している。
この頃は、こういう事が多かった。 俺が…俺達が、この地域で有名になるまでは。
『ここは、俺達の家だ。 勝手に入ってくるな!』
そう言って、木刀で大人の顔を殴る。
殴られると思ってなかったのか、大人は頬を抑えて蹲る。 そして、残りの2人の大人が襲いかかってきたが、全員ボコボコにした。
ボコボコにされた大人達はゆっくりと去っていった。
『ありがとうコウ。 助かったわ』
『コウ君ありがとう! 僕も男なのに…情けないな…』
真姫とカインがそう言ってくる。 俺は笑顔で
『気にすんなって! 仲間だろ? 仲間は助けるのが当たり前なんだよ!』
……仲間。 この頃の俺は馬鹿みたいにこの言葉を言いまくっていた。
このまま5人であの廃墟で生活していればよかったのに、俺のくだらない正義感によって、他人をバケガミから助けたりしていた。
そのせいで…皆死んだ。 俺のくだらない正義感が、皆を殺したんだ。
『コウ…お前は…何があっても生きろよ…?』
タツミ……
『ごめんコウ君…僕…最後まで役に立てなかったよ…』
カイン……
『コウ…私…まだ生きたかった…! まだ…コウと生きたかった…』
真姫……
『仲間を守るのは…当たり前…でしょ…?』
美空……
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「………」
目を覚ますと、俺は涙を流していた。
……この夢を見るといつもそうだ。
「腹…減ったな」
そう言えば、試験から何も食ってない。 柊班とは食堂で別れたしな……
あの時は昼だったから、今は夕方くらいか。
「……食堂行くか」
俺は、寝癖も直さず、顔も洗わずに部屋を出て、食堂へ向かった。
食堂へ着くと、封鬼兵が沢山居た。 服は皆違うが、封鬼兵は胸にバッヂをつけているからすぐに分かる。
食堂では、食べたい物をメニューから選んで、飯を作る人に言って作ってもらう仕組みだ。
「……すみません。 カレーライスを下さい」
「はーい! カレーライスね! ちょっと待っててねー。 あ、辛さはどうする?」
「甘口で」
「はーい!」
受付のおばさんはそう言うと、皿に白米をのせ、そこにカレーをかけて、テーブルに置いた。
「はい! アンタ新人だろう? 席は自由だから、好きな場所で食べな!」
新人の封鬼兵は、バッヂの色が違う。 だから気を利かせてくれたんだろう。
「はい。 ありがとうございます」
お礼を言い、食堂の端にある誰も座っていない席に座った。
…カレーライス。 昔は、よく皆で食べてたな…
「…いただきます」
カレーライスを一口食べる。 ……懐かしい、カレーライスを食べるのは何年ぶりだろうか。
…だが、やっぱり……
「…美空のカレーの方が美味いな…」
「美空って誰だー?」
急に横から声をかけられ、驚いてスプーンを落としてしまった。 幸い、床には落とさなかったから替える必要はないな。
それにしても…なんで天野がここに来るんだ…それに日向も…
この2人、こんなに仲よかったか?
「あ、悪い、驚かしちまったな!」
「ここ、座ってもいいかしら」
日向が俺の前の席を指差して言って来る。
…いや、席は他にもまだまだあるんだが……
天野は勝手に俺の隣に座ってるし…
「…勝手にしろ」
「そう。 なら座るわね」
そう言って、日向が目の前に座る。
天野はとんかつ定食で、日向はざるそばか。
「コウはカレー好きなのかー?」
「…だったらなんだ?」
「いや、甘口って意外だなーと思って」
「あら、意外と可愛いところもあるのね」
2人が微笑みながら言ってくる。
「は…? なんで甘口って分かるんだよ」
「いや、皿に書いてあるぜ? 甘口って」
そう言われ、よく見ると、確かに甘口と書いてあった。 ……全然見てなかった。
「…悪いか? 辛いの苦手なんだよ」
「いやいや! 悪くねぇよ! 俺も酸っぱいの苦手だし!」
「私は苦いのは無理だわ」
「…お前らの好みなんて聞いてねぇ」
なんなんだ? 馴れ馴れしくしないでほしいんだが。
「あ、そうだ! コウ、明日は朝9時に第1会議室に集合な!」
「…なんかあるのか?」
「柊班のミーティングよ。 これからどういう風に活動していくのかを決めるらしいわ」
ほう…まぁ、ミーティングなら行かないわけにはいかないな。 9時に第1会議室。 よし、覚えた。
「分かった」
それだけ言い、無言でカレーを食べる。
天野達ももう話す事がないのか、黙々と料理を食べ続けた。
「おーおー新人3人組! 一緒に食事とは仲がいいねぇ感心感心!」
そこに、柊タイガがやって来た。 柊は俺の横にどかっと座り、俺と肩を組んできた。
「失礼しますね」
どうやらジュリエルも一緒だったようで、ジュリエルは日向の横に座った。
柊はカレーの辛口で、ジュリエルはメロンパンを食べている。
「おやおや? コウは甘口を食べてるのか。 辛いのは苦手なのか〜?」
「だったらなんだ。 アンタには関係ないだろ」
「お〜怖い怖い。 そんなに睨むなよぉ〜ただの会話だぜ?」
「俺は会話なんてしたくな…むぐっ…むっ!!??」
俺が口を開いた瞬間に、柊が自分の辛口のカレーを俺の口に入れてきた。
辛口のカレーが俺の舌に触れ、どんどん味が分かっていく。
「〜〜〜っっ!! 」
俺はその場でジタバタする。 …くそっ! 甘口だから水を持ってくるの忘れた!
「あははははっ! 涙出てるぞー!」
「お、おい…だ、大丈夫か…ぶふっ!」
柊と天野は2人とも笑っている。 くそっ…!!
「はぁ…ほら、水よ。 口はつけてないから、飲みなさい」
前の席の日向が水の入ったコップを渡してきたので、躊躇わずに全部飲む。
…だいぶマシになったが、まだ口の中がヒリヒリする……柊の奴、なんて物を食ってんだ。
「はぁ…はぁ…! 柊…てめぇ殴るぞ…」
「ははは、いや悪い悪い。 ちょっとイタズラしてみただけだ」
「ぶふっ…コウ、顔真っ赤で涙目…! あははは!!」
「天野…! てめぇも殴るぞ…!」
「まぁまぁ、コウさん落ち着いてください」
目の前の女子2人は苦笑いしている。
…ったく、この男2人はガキなのか…?
その後は、俺以外の4人が軽い話をしながら食事をした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「……なんでついて来るんだよ」
食事が終わり、部屋に向かっていると、天野と日向もついてきた。
「なんでって、隣だからに決まってるでしょう?」
「は…? 隣…?」
「おう! コウの右の部屋が俺の部屋! コウの左の部屋が日向さんの部屋だ!」
……マジかよ…隣とか…面倒臭いな。
「でさでさ! 提案なんだけどさ!」
歩きながら、天野が大きな声で言う。
「俺達これから長い間一緒に活動するわけだろ? だからさ、苗字呼びやめて、名前で呼び合わないか!?」
…何かと思えば…
「くだらねぇ…俺はやら…」
「いいわねそれ。 コウとタクヤ? でいいかしら」
「うんうん! よろしくな有栖! …で」
天野と日向が俺を見てくる。
「……なんだよ。 俺はやらねぇぞ。 仲良くするつもりもないしな」
そう言って歩き出すと、天野に肩を掴まれた。
天野は、さっきとは違い真面目な声で
「なぁコウ。 俺、お前と友達になりたいんだ。 上手く言えねぇけど…なんか…無理してるみたいに思えるんだよ」
俺の身体がビクッとなる。
「…過去に何があったのかは分からないけどさ、俺達は同じ班の仲間なんだぜ? だからさ、仲良くしようぜ?」
「………」
…似てる。 こいつは……昔の俺に似ている。 いや、全く同じだ。
他人に気安く話しかけ、強引に友達になろうとする。
……そして、後悔する。
天野はまだ誰も失ってないから、こんなに明るいんだ。 このままだと、天野も絶対に公開することになる。
だから…
「余計なお世話なんだよ」
俺が教えてやろう。 過去に同じ事をして後悔した先輩として。
「仲間とか、友達とか、そんなものがいてもなんの得にもならねぇ。 失った時に後悔するだけだ。
失って後悔するくらいなら、仲間なんていらねぇ。 …天野、お前はまだ誰も失ってないからそんな綺麗事が言えるんだ」
「……俺さ、昔は、”今の”コウみたいな性格だったんだよ。 友達とか要らないと思ってた。 自分がよければそれでいいって思ってたんだ」
……なに…? 天野が…今の俺と同じ…?
「そんで、弟が居たんだけど、弟は逆に「友達は大事! 他人も大事!」って考えてる奴でさ。 その弟が、俺をバケガミから庇って死んだんだ」
「…は……?」
天野も…失っていた…?
「俺さ、母親と妹がいるんだ。 その2人の事を考えたら、”自分さえよければ”なんて考えが出来なくなってさ。 だから、弟みたいに人を守れるような強い人間になりたいって思ったんだ」
……天野は、俺と全く逆なのか…?
「だから、お前を放っておけないんだよ! 仲間なんていなくていいなんてのは間違いだ! 」
…やめろ。 俺を否定するな。 俺がそれを認めたら、今までの後悔し続けた5年間はどうなる…?
俺は間違ってない。 仲間なんていらない!
「理解出来ねぇな」
俺はそう言って、逃げるように自室に入った。
「諦めねぇからな! 絶対友達になろうな!」
扉越しに天野の声が聞こえるが、無視してベッドに入った。
神殺しの鬼 皐月 遊 @bashi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。神殺しの鬼の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます