羽合ノ衆

弔い合戦やまびこ太郎

プロローグ

「『天使とは、死者を天の国へ導く。皆から愛されるべき存在である。』

例として、ガブリエルやミカエルなどがいらっしゃる。」

教科書を読んだ後にどこか誇らしげに例を挙げた教壇に立つ先生も、かつては天使になることを夢見ていたのだろうか。天使の輪を貰って天界から地上へと羽ばたく自分の姿を想像しては溜息をついてなりたい等とぼやいていたのだろうか。


天使とは、人間から愛される天界の者なら誰もが憧れる職業だ。天界から天使の輪を授かり、地上へと降り立つ。そして死者を天界へ連れていく。勿論言葉で言うだけならそう難しくはないが、人間界には欲望もそれはそらは多数渦巻いているし、こちらの世界のように悪魔との隔たりがある訳では無い。悪魔に殺され帰ってこなかった天使だって少なくはないのだ。だが人間界にはもっと怖いものもあるのだと天使は口を揃えていう。それが何かは教えてはもらえないが、兎にも角にも天使という職業は危険と隣合わせで、死ぬ事さえ覚悟して欲の渦巻いた人間界へと降りて行く。それでも天使になりたい人が多いのは、天界でも人間界でも天使は皆から愛されるからだろう。

勿論天界の者が全員天使になれるわけでは無く、人間でいう例えばバスの運転手や工事現場に働く者もいる。勿論彼等は人間界に降りることなんてない。一生この天界から出ることはほぼ無い。だからこそ天使になりたいと誰もが1度は夢を見るのだ。そんな簡単に誰もがなれる訳ではないが。

サルマクという少年も昔から天使になりたいと願って生きてきた訳だし、人間界でいう幼児の頃は、彼自身もいつかは誰からも愛されるような存在になれるものだと根拠のない自信を持っていたはずだ。それがいつから彼自身がが愛されるような性格ではないことを知ったかは最早覚えてはいない。それ程当たり前に気づいてしまった事柄である。

「彼等のような立派な天使となるよう励め」

先生の激励とも取れる言葉を最後に鐘が鳴る。生徒の1人が起立、と号令をかけた。


ここは天使になるための学校だ。ここに通う生徒達は立派な天使となるためにこの学校に通っている。この学校は現四大天使であるガブリエル、ミカエル、ラファエル、ウリエルが卒業したために倍率も相当高い。他にも天使となるための学校は何個かはあるのだが、やはり四大天使が卒業した、というステータスが高い。そのためにこの学校はエリート高ともされている。サルマクはここの生徒である。そんなエリートの学校にどうして彼が入学することが出来たのか、サルマクを知る者達は甚だ疑問であると口を揃えた。他の学校は落ちたというのに、この学校が受かるとは思わないだろう。本人でさえ驚き戸惑っていた。

サルマクは根暗で不器用だ。エリート校に入学することなどゼロに等しいと、言わずもがな記念受験だったはずだが、どこに適性を感じたのか。そのお陰で彼は天使となる夢を捨てられない。

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羽合ノ衆 弔い合戦やまびこ太郎 @yamadiko00

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