第2話 密輸パンダ北へ
第2話:「密輸パンダ、北へ」
雪が舞い、白い湯気がたちこめる、時代から取り残された温泉街。
錆色にくすんだ看板がまばらにならび、切れかかった街灯の黄色い光がチカチカとちらつきながら通を照らしている。
田舎の夜は早く、歓楽街なのにいま開いているのは、演歌らしき歌声がもれ聞こえる「めろでぃ」というカラオケスナックと、かつおだしのいい匂いを漂わせる「富士見そば」という古びたそば屋だけ。もちろんここから富士山が見えるわけわなく、ただ主人の名前が富士見だからその名が付いた小さなそば屋だ。
そんな街をゆく一人の男。
場違いな紫色のスーツに白いエナメルの靴を履いたその男は、寒そうに体を振るわせながら、そのそば屋の暖簾をくぐる。
演歌歌手の営業か、はたまた典型的なその筋を思わせる衣装。入ってきたその男を見る、そば屋の親父のいやそうな目をみれば、それがその筋のほうだとわかる。たしかに春田幹男29歳、独身、恋人募集中は、この辺ではちょっと知られた筋金入りのチンピラだった。
「あぁー、くそ、さみーー。」
わざとらしく、大きな声を出したちょっと若い頃の阿藤海に似ているこの男は、開いている錆びたパイプ椅子に、どかっと座ると、あたりを見回しす。実は彼はさっき隣町のスナック「鳳仙花」のホステス、あさみに振られたばかりでイライラしていた。グッチやらプラダやらさんざ買ってやったのに、いや、正確には、観光にきたバカカップルからまきあげたものだが、それでもムカツク。腹が立つ。ほんとうは腹いせにスナック「鳳仙花」をめちゃくちゃにしたいところなのだが、そこのママが兄貴の女なので、そんなことをすれば間違えなくたたき殺される。だからできない。
「あー、くそ、親父、そばだ、そば、はやくしろ。」
どなる彼。と、彼の視線が隣のテーブルの大きな男をとらえる。
猫背のやたらデカイ背中だ。ライトブラウンのトレンチコートに同じ色の狭い縁のある帽子。ハードボイルド探偵を演じるときのハンフリー・ボガードのような、時代がかった格好だが、横にも縦にも、とにかくでかい。立てば身長は2m近くになるだろうか、体重もかるく100kgはありそうだ。そして、そのコートと帽子の間からのぞくのは、フサフサの白い毛に覆われたデカイ頭。袖からも鋭い爪を持つ黒いけむくじゃらの手がのぞき、その大きな手で器用に箸をあつかっている。そして、湯気を上げながらそばを勢いよくすすぐその顔は・・・。
「パンダ!?・・・・・。」
そう、それはまぎれもないパンダのそれだった。 そんなバカな・・・。パンダがそば食ってる・・・・・。いや、そんなはずはない。そうだ、きぐるみだ。きぐるみに違いない。くそ、ふざけやがって。そう考えた彼は、びっくりさせられたことに無性に腹が立ってくる。
「おい、そこのパンダ、あー、きこえてんのかオラ。」
からむときは最初が肝心。それをモットーにしていた彼は、いつもの調子で声を張り上げると、そのデカイ背中を精一杯眉間にしわを寄せてにらみつけた。やっかいごとが起きそうな気配にあわてて調理場にさがるそば屋のオヤジ。しかし、その背中は微動だにせず、あいかわらずそばをすする音だけが響く。
「オイ、テメー、無視すんじゃねーよ!」
「パンダじゃねえ・・。」
デカイ背中が振り向きもせず、そうつぶやく。
「あーんだとーー。」
さらに声を張り上げる彼。と、 その声にデカイ背中が不意に箸をおき、ゆっくり立ち上がる。そして次の瞬間、コートがひらりと落ちる。だが、パンダの姿はない。
「なに!?」
といった彼の首に、いつもまにか後ろにいたパンダの太く黒い毛むくじゃらの腕が巻き付いた。強烈な締めが彼を襲う。遠くなる意識。
「俺はパンダじゃない。俺の名は”密輸パンダ”だ。」
彼の最後の意識は、自分のズボンの股間が濡れていくのを感じながら、そんな声を聞いた。崩れ落ちる紫のスーツ。唖然として調理場からでてくるおやじ。パンダは自分の相手が完全に気を失っているのを確認するとコートをとり、ゆっくりと肩にかける。
「死んではいない。気絶してるだけだ。床を汚してすまなかったな、おやじ。代金は置いてゆく。そば、うまかったぜ。」
パンダはそういうと、きしる引き戸を開け、暖簾をくぐって颯爽と出ていった。まだ呆然としているオヤジの目の前を銀色の小さな物体が横切る。その物体はオヤジの足下にすーっと落ちると、カラカラと音を立てて回った。その小さな丸い物体には500円と書かれた銀色の文字が、キラリと光っていた・・・。
そうゆうわけで、俺は、ついに北海道に足を踏み入れたわけだ。
もちろんそれまでの旅も、簡単じゃなかった。ジンザブロウじいさんの言ってたとおり、俺の旅に、追っ手はかからなかった。俺も後で知ったことだが、動物園はスキャンダルをおそれ、俺は急死したことにし、客よせのためにその葬式までおこなっていたらしい。そんななか、俺自身は、最初は昼間は公園の茂みなどに身を隠し、夜になるとひたすら北を目指す旅をつづけていた。メシはその辺に生えてる草や、何故か綺麗に並んで植えられている野菜(畑とか言うらしい。野菜を綺麗に並べて何が嬉しいのか、俺にはわからない。)で何とかなった。しかし、隠れるのにも限界があった。ある日俺は旅の疲れから公園で寝入ってしまい、子供に発見されてしまった。
「わー、パンダだ。パンダがいるよ、ねえ、ねえ。」
無邪気に黄色い声を上げる半ズボンの子供。その声に飛び起きる俺。焦る俺。どうする、逃げるか、いっそのこと食ってやるか、腹も減ってるし。しかし、考えている間にその子供の親らしき人間がちかづいて来た。
「だめよ、タカシちゃん。近づいちゃいけません。」
通報される!!さらに焦る俺。どうする?殺るか?だが、あわてた俺は弁解してみた。
「いや、これには深いわけがあって・・・・・。」
しかし、その人間の母親は意外な言葉をはく。
「いい、タカシちゃん。これは、パンダじゃないの、きぐるみなの。人が入っているのよ。こんなところで、なんできぐるみきてるのかしら気持ち悪いわねえ・・・。」
「はぁ~?」
ポカンとする俺を尻目に、さっさとその場を離れる親子。そう、まさか本物のパンダがこんなところにいるとは思わず、その上、俺がが日本語を話したものだから、その母親は”きぐるみ”だと思ったらしい。”きぐるみ”なら知っている。人間が着る動物の皮のことだ。動物園でも俺とは似てもにつかない口をぽかんと開けた、間抜けな目をした”きぐるみ”がパンダと呼ばれているのを聞いて、俺はおおいに傷ついたものだった。
「なるほど、そうか、きぐるみの振りをすればいいのか。」
そう悟った俺は、その日から隠れるのをやめた。昼間に堂々と進むことにしたんだ。みな人間はまさか本物のパンダが白昼堂々道を歩いているとは思わないらしく、誰にも邪魔されず進むことが出来るようになった。それどころか女子高生とかいううるさい人間類は、いっしょに写真をとってくれなどよってくる始末だった。まったく人間というのはあきれた動物だ。また、じいさんにもらった人間の顔かかれた紙切れの使い方もおぼえ、食い物を買えるようになった。しかし、なんでただの紙切れを食べ物に変えてくれるのか理由は全然わからない。この紙切れにかかれたフクザワとかいう人間がよほど人気あるのだろう。なんでも「人の上に人を作らず・・」とか言った人間らしいが、人間の小さな体の上で子作りをやろうとする人間がいるんだろうか。だから人間の考えることはよくわからない。
また、ある日、国道をひた走っていたとき、突然、側面いっぱいに和久井絵美(これも有名な人間らしい。)の似顔絵がかかれたカラフルなライトいっぱいのトラックが止まり、ねじりはちまきの口ひげ運転手が急に話しかけてきた。 「なに、テレビ?カメラどこ?ヒッチハイクだろ。乗せてやるよ。」 それ以来、意味はまるで分からないが、「テレビ」「ヒッチハイク」という魔法の言葉を唱えると?何故か人間達は車とかいう乗り物に乗せてくれる事がわかり、俺の旅は飛躍的に早くなった。
だが北へ向かうに連れ、さすがに寒さがこたえるようになってくる。
「あの、人間がつけてる服とかいう布は暖かそうだ。」
そう思った俺は、服を手に入れる事にした。しかし、俺の身体に合う服を着ている人間はなかなかいなかった。酒とかいう臭い水を飲んで赤くなっているオヤジを襲い、いろいろな服をてにいれてみたが、どれも小さすぎた。そんな時、俺は青森とかいう町で、夜、子分らしき人間を引き連れた俺ぐらい体の大きな奴を見つけた。俺は腕試しも兼ねて猛然と襲いかかった。子分たちは問題じゃなかった。あっという間に5人を打ちのめすと、親玉に迫った。身体は俺より大きい。強いのか。 しかしそいつは、おかしい日本語で、 「カネナラヤルヨ~。タスケテヨ~。」 といって座り込んだ。拍子抜けした俺はそいつの車の付いたでかい箱を奪うと、すぐにその場を後にした。箱の中にあった服はぴったりだった。服には全て”KONISHIKI”と刻まれていた・・・・。
そんな俺の最後の難関は関門海峡だった。さすがの俺でもあんな距離を泳ぐのは無理だ。そこでフェリーとかいうでかい船の港での荷降ろしを観察した俺は、いい方法を思いつく。荷札を自分で付け、剥製のふりをしてフェリーの貨物室に紛れ込んだんだ。父さんや母さんのことを思い出しチョウブルー(ジョシコウセイからおしえてもらった言葉)になったが、それでついに関門海峡を越え、北海道にたどり着いたのだった。
「どこいいるんだ。ゲンゴロウとかいう熊は。もっとじいさんに詳し聞いとくんだった。」
遥か彼方まで広がる、雪の白と木の黒が霞む、北海道の大平原。
悠然と地平線に鎮座する大雪山。
あまりの広大さに、呆気に取られ、立ち尽くす俺。
「まっ、行くしかないか。」
しかし、わりと楽天的な俺は、そう思って雪原にのりだす。
最初、深い雪に覆われた山道はかなり歩きづらかった。歩いているうちに手足にドンドン雪がつき、すぐに白熊になるありさまだった。だが、そのうち何とかコツをつかんできた俺は、延々と続く林を縫って、四本足で駆け続ける・・・。しかし、広大な大雪山の麓のに近づくにつれ、俺は俺を付ける何者かがいることに気づく。
「確かにいる・・・。」
白と黒の色彩しかない森の中で、そいつは気配を消し、雪原に足跡を残さぬよう地上を避け、回りの木々を飛び移ってつかず離れず、追ってくる。
「いた・・・。右に1頭、いや左にも・・・。」
あの、時より見える影は熊だ。間違いない。だが、その体の重さにかかわらず、信じられない身軽さだ。飛び移った木も微動だに揺れていない。手ごわい。あれのどちらかがゲンゴロウなんだろうか。疑問はすぐに聞くにかぎる。いつもそう思っている俺は、立ち止まり、影にむかって叫ぶ。
「おい、そこの熊!こそこそしてしてないで出てきたらどうなんだ。」
すると俺の前と後ろの太い木の枝に二匹の熊がすっと姿を現した。降りてくる気はないらしい。上の方が有利だと思っているんだろう。首のところに白い部分が見える。あれは月の輪熊だ。
「お前はだれだ。どこからきた。なにしに俺たちの山にきた。」
前の熊の野太い声がこだまとなって森に響く。
「おいおい、質問ばっかりだな。どれから答えればいい。だいたい、そっちから名のるが礼儀ってやつじゃないのか。」
俺が余裕たっぷりをよそおい、そう答えると、だまっていた後ろの熊が話した。
「なあ、アニキ。こいつ、パンダってやつだぜ。間違いないよ。俺、テレビってやつでみたことあるよ。」
「るさい、だまってろ!」
アニキと呼んだ前の熊に叱られ、しゅんとなる後ろの熊。なんとなく気の毒になった俺は名乗ってやる。
「そう、俺はパンダだ。だがただのパンダじゃない。俺の名は”密輸パンダ”だ。」
「密輸パンダ?」
怪訝そうに答える前の熊。
「そうだ。」
パンダと分かって、得意そうな後ろの熊が聞く。
「で、その、密輸パンダさんが俺たちの山に何のようだ。」
「ゲンゴロウって熊に会いに来た。」
「なに!お頭に!」
お頭か・・・。やはりジンザブロウじいさんの言ったことは本当だったようだ。疑っていたわけじゃないが、ちょっと安心する俺。
凄みをました、前の熊がいう。
「お頭に、何のようだ!」
「そらー、まー、決まってるだろ。」
「なに!」
おれはニヤリと笑って答える。
「戦うためさ。」
「なぁに!!」
殺気だつ2頭の熊。やる気かだろうか・・。まあそうだろうなあ・・。
「それじゃ、このまま通すわけにはいかんな。覚悟してもらおう。いくぞサンパチ!」
「おう!」
そういうと2頭は木からさっと飛んで俺に向かってくる。おれに上空から迫る黒い二つの影。
コートを脱ぎ捨て、構える俺。
「やっぱ、こうゆう展開か・・・・。疲れるねえ・・・。」
俺はそうつぶやくと、やつらが着地する前に前の熊の着地点を予想し、そこにむかって足から思いっきり滑り込む。上から攻撃するのは悪くはないが、飛び降りるのはまずい。飛んでいる間は、体の自由がきかないからだ。案の上、アニキと呼ばれた前の熊は、俺の動きに対応できず、着地したとたんに俺の足払いで体制を崩し、倒れこむ。すかさず俺は倒れてくる熊の後頭部に、自慢の石頭で頭突きをくらわせた。そのまま意識を失い、思いっきり雪の中に倒れこむ熊。ONE・DOWN。あともう一頭。
「あ、アニキィ~~~~・・・!!!」
叫ぶ後ろの熊。複数の敵と戦う時は、強い方を先に倒すのが喧嘩の鉄則だ。
「さあ、どうする。おまえじゃ相手にならん。逃げた方がいいぞ。」
だが、その熊は向かってきた。ファイトはあるらしい。
「くそ~~!!ダァ~!」
しかし、ファイトだけじゃダメだ。ただ向かってくるだけじゃ勝てない。俺は向かってくる熊をふわりと飛び越えると、空中で一回転して向きを替え、その熊の後ろに降り立つと、右手の爪をそいつの首に突きつけた。
「どうする。まだやるか。」
「くそ~・・・・。」
「すまないが、そこまでにしてもらいましょう。」
「ん???」
どこからともなく聞こえる落ち着いた声。
あたりを見回す俺。
しまった、調子にのりすぎた。気がつくと俺は数十頭の月の輪熊に囲まれていた。
「私に会いにきたようだが。なんのようですか。パンダ君」
居並ぶ熊のなかでも、比較的小さな体の熊が穏やかな声で話し掛けてきた。
「私?おまえがゲンゴロウなのか?」
疑い気味に俺が聞く。
「そうです、わたしがゲンゴロウです。ところで、その、サンパチを離してもらいませんか。」
なんか調子を狂わされた俺は素直に答える。
「え、あ、分かった。」
俺はサンパチと呼ばれた熊から爪を外す。その熊は、俺を警戒しながらゆっくりと仲間の方へ戻る。他の仲間4頭がゆっくりと進みでて、俺が気絶させた熊を仲間の方へ引きずっていく。
「ありがとう。ところで私になんのようですか。」
こんな小さくて穏やかそうな目をした熊が、本当にじいさんを倒したゲンゴロウなんだろうか。信じられない俺。
「ほんとにあんたがゲンゴロウか。」
「そうだ」
「あんたと戦いにきた。俺と戦ってみてくれ。」
「戦う?困りましたねえ。やめませんか。もっと、穏やかにいきましょう。」
「そうはいかない。あんたと戦うために、長い旅をしてきたんだ。そっちが、嫌でもやらせてもらうよ。」
俺はそういうと、両手を前に出し、ゲンゴロウに向かって構える。
「しかたないですね。みなさんは、手をださないように。」
ゲンゴロウはそういうと静かに目を閉じる。構えるでもなく、体の力を抜き、両手をブランとさせる。殺気のかけらも無い。やるきあんのか?と俺は思う。
「それじゃ、こっちから、いかせてもらう!!」
そういうなり、正面から攻撃にでる俺。動かない、ゲンゴロウ。もう避けるには遅い!そう確信したおれは右こぶしを勢いよく、奴の腹に叩き込む。いや、叩き込んだつもりだった。
「な、なに!」
当たらない。なぜか俺の間合いギリギリで届いていない。俺のこぶしは奴の腹、約1ミリメートル足りなかった。
「そんなはずは・・。」
次々に繰り出す俺のパンチ。だが、みなそれは奴にとどかず、空を切る。避けてる!そうゲンゴロウは俺の動きを読みきり、見事な必要最小限の動きで避けているのだ。
「くそ~!何でだ。」
どんなパンチも、キックも当たらない。
「なかなか、いい動きですね。ただし、無駄が多い。それじゃ、私には当たりませんよ。」
すずしい顔で、俺の攻撃をかわしながらそんな台詞をはくゲンゴロウ。焦る俺。
「それじゃ、そろそろ行きますか。」
そういうと、ふっと、ゲンゴロウの気配が消える。いない。いや、いた、上だ。
「上か!!」
そう思った時には、ゲンゴロウの姿はない。
「いや、残念!」
その声は、右、いや左、早い、追いつけない。
「そこまで。」
その声は正面だった。そして、いつのまにかゲンゴロウの爪が俺の額に突きつけられている。
「負けた・・・。」
「パチパチパチ・・・。」
拍手する周りの熊。笑顔で答えるゲンゴロウ。
「ところであなた、なんで私の事を知っているのです?」
質問するゲンゴロウ。
「じいさんに聞いたんだ。」
「ジイサン?」
「ああ、ジンザブロウじいさんにな。」
「ジンザブロウさん!」
「そうだ、あれがあった」
おれは脱ぎ捨てたコートのポケットから、ジイサンの爪あとがついた木切れを取り出す。
「たしかにジンザブロウさんの爪あとだ。生きているんですねジンザブロウさは。」
「ああ、元気だよ。」
俺はそういうと、額の”密”の文字の由来と、ここにきたいきさつを話した。
「なるほど、仇討ちがしたいと・・・・。」
「そう、それで、ジイサンを倒したっていう、アンタに戦い方を教わろうとここまできたわけだ。」
ゲンゴロウは、ジイサンの爪あとのついた木切れを感慨深そうにしみじみ見ながらいう。
「倒してはいません。確かに戦いましたが互角でした。いや、負けていたでしょう。
たぶん。」
「倒してない?」
「そうです。」
ゲンゴロウは顔をあげ、穏やかな顔で話す。
「あれはお互い全力でたたかった後でした。戦いに夢中になっていた私たちは猟師が近くにきたことに気づかなかったのです。気づいたときには手遅れでした。それに、ジンザブロウさんとの戦いで消耗しきっていた私に、逃げる力は残っていませんでした。ジンザブロウさんはそんな私をかばってわざと猟銃の弾をくらい、おとりとなってとらまったのです。」
「ん~、ジイサンらしいな。」
なっとくする俺。うなずくゲンゴロウ。
「それで、あんたが強いのは分かった。たのむ、俺を弟子にしてくれ。」
俺は、生まれて初めて頭を下げる。また、うなずくゲンゴロウ。
「ジンザブロウさんが見込んだあなたなら、間違いないでしょう。いいでしょう。私の技、お教えしましょう。」
「たすかる。いや、助かります。よろしく頼む。いや、頼みます。」
「どういたしまして。」
こうして、俺の大雪山での修行生活がはじまった。
憎き親の、いや動物の仇、『・・・平安号。責任者:ヤン・エイセン・・』を倒すまで、
俺の戦いはつづくのだ・・・・・。
第2話「密輸パンダ、北へ・・」 完
第3話「密輸パンダ、炸裂!!必殺回転白黒拳!!」につづく
密輸パンダ 桐島佐一 @longshoter
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