Thusのきみ
@ehecat
第1話やるじゃないか君
「僕は、とても有名な陰陽師なんだけれども、知ってるかな?」
僕は、そのようにして、まるで自分をその道では有名であるかのように見せようとしていた。なぜ、そうしているかというと、僕の職業柄名前を売らないと生きていけないからだ。まったく困ったことだ。まあそれは今はいい。現在の状況を確認すると、まず僕は自己啓発セミナーをやっている海瓦という知り合いがいる。そして今、そのセミナーの現場にいるのだ。自分の名前をより多くの人に知ってもらうために海瓦の講演に出させてもらっている。つまり、僕はこれから、講演に来ている人たちに僕のことを知ってももらわなきゃならない。海瓦に与えられた時間も多くないので、どんどんやっていくつもりだ。
「うーん、みんな僕の名前を知らないみたいだね?そうしたら、みんな覚えておいてくださいね~。僕の名前は重岡ホウシ。由緒正しき陰陽師さ!」
みんな、目をキラキラさせて僕を見ている。誰一人ドン引きなどしていない!……きっと。
よし、場の空気をつかんだ。ここから後はサブリミナル的に僕の名前を出していけば、きっと覚えていてくれる。とりあえず僕の連絡先を書いたプリントを配ろう!
「このプリントまわしてください」
プリントが隅々まで染み渡るように行き届くのを確認した。
「まあ、陰陽師といってもね、何をするのかわからないという人もいるとおもうんだけど、基本的には健康管理と未来予測です。昔は戦争とかで活躍したみたいなんだけど、今はそういうのやりませんね」
健康管理と聞いてとある女性が反応した。
「あの、陰陽師がなんで健康管理をやるんですか?」
「それはいい質問だね。簡単に言うと、人の健康をよくする力をもってるからだよ。特にこの僕、重岡ホウシはそういうことができる陰陽師なんだ。この中でだれか、のどが痛いとか、頭が痛いとか、体の不調がある人いるかな?」
「あ、自分、のどがちょっと痛いです」
そう言って筋骨隆々の男性が手を上げた。
「じゃ、少し立ってみて?今から君ののどがよくなるような手続きをするから」
自分は、のどを見て、そして適切な呪文を唱え、手で印を結んだ。
「どうかな、よくなった?」
「うーん……。うーん?ちょっと、1割くらいよくなった気がします。でも気のせいかな」
「それは気のせいじゃないです」
「え?」
「気のせいなんかじゃないよ!」
「それはどういうことですか?」
次の言葉を紡ごうとした瞬間、海瓦がさえぎってしまった。
「ああーみなさん!彼は先ほど紹介したように私の知り合いでして、まあなんかあったらこいつを頼ってやってください。連絡先は、プリントに書いてありますのでね」
僕は、なんだよーといいながらも、そういえば講演の主役が海瓦であることを思い出して、しぶしぶ引っ込んだ
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「お前さ、ほんとは有名でもなんでもないだろ。」
「は?うるせーよお前お前、俺は有名なんだぞ!」
「そもそも、有名なんだったら、なんで売名なんてする必要があるんだ?この間、自分の力でもって、この業界のてっぺんを取るとか息巻いていたけど、そんな様子じゃ厳しいんじゃないか?」
「……そんなことないぞ!きっと大丈夫だぞ!」
「はーーーー。その自信はどこからくるんだよ?その”技術力”ってやつか?俺は信じてねーぞ?」
「ひどいぞ!もう絶交だぞ!」
そういって僕は駆け出した。一ヶ月前、僕が道端で餓死しそうになっているところを、おまわりさんに補導されるより先に見つけて拾ってもらった恩はあるが、自分の力を信じてないなんて許すことはできない!
これからは一人で有名になって、あいつを見返してやるんだ。
走りながら、僕はなぜこんな仕事を選んでしまったのか、と昔の自分を責める。しかしそんなことをしても何もおきないからやめた。
Thusのきみ @ehecat
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