第百三回 文碩は李國を殺す
羅尚は二人の投降を許し、さらに李雄を破って
間諜が成都に駆け戻って告げ報せる。
「羅尚の軍勢が宜陽を抜いて攻め込んできます」
李雄が愕いて叫ぶ。
「軍師が涪城に向かったにも関わらず、羅尚が宜陽を抜いて進むとはどういうことか。成都より軍勢を発して防ぐよりあるまい。涪城にある李離の軍勢を呼び返せば、羅尚を前後より挟撃して
将を選んで軍勢を発しようとしたところ、涪城の
「羅承、張金苟の二人が総帥と軍師を刺殺して羅尚に降り、郷導となって軍勢を宜陽から成都に進ませたとのことです」
報告を受けた李雄は
「閻公と離弟(李離)は国の柱石、小人のために殺されるとは。あの二人は決して許さんぞ」
二人の仇に報いると誓い、即日三万の精鋭を揃えると、
羅尚は李雄が自ら来たと知ると、李離と閻式の死を嘲弄するとともに羅承と張金苟が語る軍中の虚実を評して
軍士がそれを李雄に届け、一読した李雄は罵って言う。
「羅尚を擒として羅承と張金苟の心臓を
すぐさま出戦して羅尚の軍勢を挑発すると、羅尚は向奮に対陣を命じた。李雄の先鋒を務める張寶は陣頭に馬を進めて叫ぶ。
「兵卒向奮よ、命乞いして死ぬのを免れよ」
向奮が答える間もなく羅承が鎗を挙げて突きかかる。五合もせぬうちに張寶の一刀を受けた羅承は馬下に斬り落とされ、馬上の張寶は首級を挙げんと斬りかかった。
向奮は馬を進めて張寶の刀を支え止め、その間に羅承は
そこに張金苟が鎗を引っ提げ加勢に向かう。
李雄の陣より厳楡が駆け出し、張金苟の鎗を防いで押し止めた。厳楡と張金苟の戦いが始まるや、忽然として狂風が吹き寄せて風塵が巻き上がり、互いの姿も認められない。
両軍はそれぞれ戦を切り上げて軍営に引き返したことであった。
※
それより数日にわたって戦い、それぞれ勝敗があったものの互いの軍を破るに至らない。
李雄は
張金苟は書状を羅尚に呈して言う。
「李國が攻め寄せてくれば吾らも危うくなりましょう。今、羅承の妹婿である
羅尚と張金苟は向奮にも書状を見せて言う。
「密かに文碩に金幣を送ってその心を買うのがよいだろう」
向奮も計略に同意すると、羅承は手下の者を文碩の許に遣わして密約を取り交わした。
文碩は密約に従って李國を刺し殺すと、巴西の地を以って羅尚に投降する。羅尚は文碩を巴西の太守に任じ、即座に軍勢を率いて李雄を挟撃するよう命じた。文碩は日に夜を継いで宜陽に向かうと、李雄の軍勢に背後より攻めかかる。
不意を突かれた李雄は大敗を喫して三十里(約16.8km)も逃げ、ようやく軍勢を立て直した。この時ようやく文碩が李國を殺して羅尚に降ったと知り、心中大いに怖れを懐いた。
「閻司徒はまさしく国の柱石でありました。吾らは今や賊人のために閻司徒を喪い、さらに李離、李國の二将軍まで奪われました。軍勢の士気は低く、このままでは羅尚に敵し得ません。まずは成都に戻って態勢を整えるのがよろしいのではありませんか」
李雄はそれを聞いても俯いて答えない。そこに、成都より楊褒が兵糧を届けてきたとの報が入った。李雄は喜んで出迎えると言う。
「吾は閻公の復讐のために自ら出戦したが、李國まで文碩めに害され、さらに背後より挟撃してきおった。そのため、陣営を破られてここまで軍を退いたのだ。王懐は成都に戻って態勢を立て直すように勧め、吾もこの意見に従おうかと思う。楊公はどのように考えるか」
「戦う前と比べると随分と弱気になられたものです。
「どのような計略を用いればよいのか」
「愚見によれば、二重に計略を用いるのがよろしいでしょう。まずは軍士に命じて士気低く戦意を欠いたように見せかけ、軍勢を返す用意をさせて『二将軍と閻司徒を喪って官兵に敵する術もなく、成都に引き退く』と噂を流すのです。勝ちに驕った羅尚は疑うことなく向奮と軍勢を合わせて追撃してきましょう。それに先んじて帰路に伏兵を置き、待ち受けて四方より囲み止めるのです。羅尚を擒にするまで至らずとも、多くの将士を死傷させて敵の士気を挫けましょう」
「吾は司馬が到着したと聞き、必ずや良策があろうと思っておったが、案の定であったわ」
李雄はそう言って笑うと、軍士に命じて計略の準備を始めさせたことであった。
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