第六十九回 漢主劉淵は平陽に都を建つ
漢の
漢主は大いに悦び、
劉聰はそれを聞くと軍勢を率いて城外十里(約5.6km)の地点まで迎えに出る。漢主は城に入って将士に恩賞を与え、慰労して言う。
「卿らが一戦にして平陽を奪うとは、中興の機運はすでに成ったと言ってよかろう」
王彌、劉霊をはじめとする諸将が言う。
「この勝勢に乗じて
▼太行山の西とは、現在の山西省一帯を指す。
「そうではありません。『兵は神速を貴ぶ』と申しますが、今は緩やかに進めるのがよろしい。兵法にも『甚だしく急がばその上将を喪う』と申します」
張賓も諸葛宣于に同じて言う。
「晋陽の奪取も難しくはありませんが、吾らが大郡をつづけて奪えば、晋朝とて必ずや大軍を興して奪還を図りましょう。そうなれば、臣と諸葛丞相は晋兵に対抗すべく従軍せねばなりません。その時には防戦に追われて陛下を
劉淵はしばらく軍議を休め、張賓が
「臣にも薦め挙げるべき人物がおります。
諸葛宣于が言うと、劉淵は
※
趙藩と廖全の二人は張掖の地に到り、まずは王伏都に会って漢主の意を述べ、張賓からの書状を手渡した。伏都の快諾を得ると、二人は陳元達の家に向かう。この時、陳元達はかつての
趙藩は棲鳳岡を離れて十余年、左國城に兵を練った事情を述べて言う。
「今や晋朝は内に乱れております。この機に乗じて兵を出し、すでに平陽から太原に到るまでの三十余城を収め、漢主は平陽に居を移されました。このため、主命を奉じて張謀主(張賓)の書状を持参し、公に漢室を輔けて頂けるようお願いに参った次第です。何卒お受け頂けますように」
そう言うと、幣礼の品とともに張賓の書状を呈した。陳元達は書状を一読して頷く。
「お二人はすでに吾と出逢って久しく、吾が心中を知らぬわけでもありますまい。生来の
廖全が言う。
「本来なら漢主が張謀主とともに自らここに足を運び、先生の
二人は言葉を尽くして願ったものの陳元達の意志は固く、ついに諦めて平陽に帰って行った。崔瑋と許遐の二人は陳元達の底意を知らずに問う。
「
陳元達は笑って言う。
「吾は久しく元海が人に優れた器量を持ち、天下を網羅する志があると知っております。その麾下の諸将も国家を創業する才を持っており、大事の成功は目前にありましょう。今になって一使の書状により麾下に加わっては『ただ利名を欲して身の軽い者よ』と世人に
その言葉を聞いてもなお崔瑋と許遐の二人は半信半疑の様子であった。
※
それから一月を過ぎずに漢主は張賓を使者として隠者を招聘する
郡境に入ると
陳元達たちは近づいてその様子を見ると、車から下りて歩行して進み、遥かに離れたところで俯伏して言う。
「山野の愚夫が陛下の膝下に加わる時機を誤って安車での招聘を蒙り、さらに忝くも
漢主は自ら扶け起こし、その手を執って言う。
「
陳元達も深く謝意を述べると、二人は車を並べて城に向かった。
「薦める者があり、
「晋陽は晋国に応じる陽運があり、平陽は晋を平定する陽運があります。陛下は晋を平定する陽にあたられます。晋陽を都としてはなりません。平陽を都となさるのがよろしいでしょう」
この一言によって漢主は平陽を都とすることに意を決したことであった。
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