第六十五回 成都王司馬穎は職を辞して鄴城に還る
齊王に加えて
「先代武帝の御世より藩鎮の制度では官職の新設を許しておらぬ」
上奏を
「近頃の時勢を観るに、成都王の配下に人が多く、誰もが
「
齊王はそう言い、篤く餞別して送り出したことであった。
※
同じく洛陽にある長沙王は、齊王が国政を
「早いうちに成都王と結んで身の寄り所とせねばならぬ」
そう考えた長沙王は、成都王に告げて言った。
「今や齊王は国政を専らにし、百官はすべてその命に従っておりますが、齊王が
▼齊王の司馬冏は
成都王はその言葉を聞いて動揺したものの、頷いて
「長沙王の言葉は妄言と片付けられません。臣の観るところ、大王と齊王は両立できますまい。先の戦にあって大王は先陣切って黄河を渡り、それを潮目に洛陽は陥落いたしました。その功に並ぶ者はおりませんが、齊王の首唱した功を重んじて謙退されました。また、たとえ齊王に大王への疑心があったとしても、非常時なるがゆえに捨て置かざるを得ませんでした。今や趙王は滅びて目前に敵なく、疑心を捨て置くことはございますまい。これが禍の本となれば、民は身の落ち着け所もございません」
「齊王が孤を謀ろうとした際にはどのように身を処するべきであろうか」
「何も難しいことはございません。ただ洛陽から身を離せばよろしいのです。さすれば、齊王は意の
成都王は盧志の献策を喜び、その策をおこなおうとした矢先に来客を受けた。
その客は漢の
「齊王には大王を斥ける心があると聞き及びましたため、決断が遅れては害を蒙られる
成都王はその言を親愛の表れと感じ、上表して劉淵を
▼後漢に降った南匈奴は南北左右中の五部に分けられて山西各所への散居を命じられた。そのため、匈奴五部と呼ばれる。
※
成都王が劉聰の帰国を決めかねているところ、にわかに報告が入った。
「齊王の命により
成都王は衆人を召して評議を開いたが、諸説紛々として方策が立たない。この時、劉聰もその場にあって事情を知り、成都王に次のように言った。
「大王の功高く威重きにより齊王が
「それが事実であれば、どのように処するべきであろうか」
「御心配には及びません。臣が左國城に戻って匈奴五部の軍勢を掌握し、情勢を観て大王のために出兵いたしましょう。果たして観るとおりであれば、大王の下知に従って二人を中途に食い止めます。五部の精兵があれば、司馬騰、王浚の首など日を限って大王の軍門に懸けて御覧に入れましょう」
成都王は劉聰の画策を信じ込み、密かに劉聰、胡延攸に言った。
「ともに左國城に還って五部の兵を整えよ」
盧志も賛同して言う。
「興奮した百人は冷静な一人に及ばず、劉聰の言は
盧志の言葉が終わらぬうちに、長沙王の使いが駆け込んで来て言う。
「聞き及ぶところ、齊王が上奏を行い、『成都王は功に比して官職が軽く、
それを聞いた盧志が成都王に勧める。
「愚見のとおりです。齊王が大王より奪おうとしたところで権柄を齊王に譲って鄴に還れば、何ら害を被ることはありません。他に手立てはございますまい」
成都王は盧志に命じて上奏文を起草させ、鄴への帰還を願い出た。その文は哀切を極めて王太妃の病に侍することを願い、かねて齊王の功徳を讃えて万機を掌るように勧めていた。
齊王は大いに喜んで次の詔を下すよう晋帝に願い出る。
「成都王に
晋帝はそれに従い、送別の宴を開いて餞別するよう齊王に命じた。
成都王は上表して九錫を辞退し、趙王を討った功臣への加封を願い出る。また、水運の便により黄河沿岸に集積した穀物を
この恩恵により遠近の士民は成都王の
これらはすべて盧志が画策した愚者を
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