第五十六回 姜氏の兄弟は陳摠と趙模を斬る
「吾の調べたところ、山上には水がなく兵糧もまた限られている。今夜囲みを破って逃げ延びるつもりであろう。険隘の地勢を欠けば、陳摠を再び
言うと、
「ここは西の路を
つづけて下知すると、全員が肯って持ち場に向かって走り去る。
姜飛は山麓に留まって陳摠の軍勢を待ち、まさに
姜飛は大いに鬨の声を挙げてその前を阻み、陳摠は刀を抜いて斬りかかる。二人は刀鎗を交わして武勇を奮い、三十合を超えようとする頃に
姜飛は敢えて
※
陳摠が谷口に着くと、大木が倒れて道を塞ぎ、その先に進める様子ではない。思案していると砲声が鳴り響いて矢が雨のように降り注ぐ。趙瑛が率いる五百の弓箭手によるものであった。
「ここに配置された兵は少ないようです。大木で道を塞いで油断したのでしょう。これらの木を除けば逃げられます。矢が尽きる時を見計らい、
趙模が言うと陳摠はそれに同じ、自ら矢を冒して先頭に立つ。
そこに許弇の軍勢が現れ、趙瑛を助けて斬りかかる。陳摠は新手が来たと見るや、刀を振るって迎え撃つ。許弇はそれを支えきれず、兵を返して逃げ出した。
そこへ姜飛が馬を駆って斬り込み、先に向かおうとする趙模の前を塞ぐ。
「これほどの厳戒ではここからの脱出は難しい」
陳摠はついに西南の谷口からの脱出を諦め、東南の隘口を目指して軍を返した。
※
まさに隘口を抜けようとした時、砲声が鳴り響いて費遠の率いる一軍が斬りかかる。陳摠は大いに怒って霜を吹いたが如き白刃を振りかざし、攻め寄せる兵士を斬り散らす。
費遠は陳摠に追いすがり、隘口からの脱出を許さない。
陳摠が全軍に命じて一斉に突き進めば、常俊もその前に軍勢を出して進ませない。怒り狂った陳摠は
ついに費遠の包囲を抜け出すとすぐさま常俊が前を塞ぎ、さらに駆けつけた許弇も合力して前進を阻む。費遠、常俊、許弇の決死の抵抗を受け、陳摠は西に軍を返そうとした。
「吾らは西より来たにも関わらず、また西に帰っては益がありません。北に向かって
趙模はそう言って諌めたが、陳摠は聞き入れず西を指して二里(約1.1km)ほど進んだところ、杜淑率いる一軍が駆けつけて前を塞いだ。
兵士たちは大いに愕いたが、陳摠は物ともせずに迎え撃つ。
姜發は陣営より虚勢を張って杜淑を援護し、その鬨の声が地を揺るがし砲声は天を震わせる。陳摠はこの囲みも破り得ず、歯噛みしながら北を指して逃げ奔る。
※
時刻はすで未(午後二時)を過ぎ、人馬ともに疲弊しつつあった。ようやく西北の隘口に到着すると、張燦と衛玉の伏兵が起ち、隘口の先を塞いで進ませない。
陳摠が西北に奔ったのを見届けると、姜發は杜淑を呼んで指示する。
「陳摠はまだ疲弊しておらず、手強いことに変わりない。お前は軍勢を率いて少城に到る途上に備え、陳摠を少城に入れるな」
杜淑は命を受けて走り去っていく。さらに、姜飛を呼んで指示をする。
「北に向かった陳摠は怒り狂っている。張燦、衛玉の二将では敵し得まい。お前は彼らを助けて陳摠を食い止めよ。吾もまた軍勢を率いてそちらに向かう。それで陳摠を擒にできよう。すみやかに行って陳摠を取り逃がすな」
姜飛は馬腹を蹴って北に向かった。
※
西北の谷口では陳摠と張燦が鋭鋒を競い、衛玉と趙模がそれを助けて戦っていた。
張燦と衛玉は破られまいと前を塞ぐが、陳摠と趙模はついに囲みを破って切り抜ける。三、四里(1.5~2.2km)も奔ったところ、背後から砲声が聞こえ、
姜飛が声高に叫んだ。
「
「
陳摠がそう言うと、姜飛は鎗を引っ提げ突きかかる。陳摠も刀を振るって迎え撃ち、二人は武勇を奮って威力を尽くし、三十合を超えても勝敗を決しない。
姜飛が叫ぶ。
「この老いぼれめ、お前が飢え疲れて苦しんでいるのはお見通しだ。馬より降りて降伏せねば、命まで喪うぞ」
「小童めが、いまだ生死の境も知らずに妄言するか。吾は
「すでに魂が体から離れているというのに、自らの勇を誇るか。吾と百合まで戦えるものなら戦ってみるがいい」
「小童が吾に敵うとでも思ったか。三百合であってもお前など物の数にも入らぬ」
二人は罵りあいながらもさらに三十合を超えて戦い、互いに一歩も譲らない。
その時、にわかに砲声が響き鬨の声が挙がり、張燦、許弇、衛玉の三将が三路より駆けつけてきた。陳摠もこの劣勢では勝ちを拾いがたく、先頭に立って刀を振るい、一條の血路を拓いて落ち延びていく。趙模もそれに従って逃げ奔り、姜飛たちは逃がすまいと追いかける。
※
背後の鬨の声が遠ざかると、陳摠は悦んで言う。
「幸いに山路を逃れた。ここまで来れば賊兵が来たとて怖れるに足りぬ」
その言葉が終わる前に、砲声が響いて伏兵が一斉に起ち上がる。姜發が先に伏せておいた常俊、費遠、杜淑の三将であった。
「賊どもめ、どこまで吾を
陳摠はそう叫んで斬りかかったものの、十合もせぬうちに背後より姜飛たちが追いついてくる。さすがの陳摠も怖れをなし、馬頭を返して逃げ奔る。
姜飛、張燦は軍勢を率いて追いすがり、陳摠は怒って趙模に言う。
「吾は若年から三国の平定に至るまで敗れなかったにも関わらず、このような事態に陥ったのは痛恨の極み、お前は吾を援護せよ。この小賊を
すぐさま馬頭を返して姜飛たちに斬り込んだが、五合ほどで姜飛の鎗を
趙模は救出を諦め、北を指して逃げ延びていく。
杜淑、費遠はその背後に追いすがり、二里(約1.1km)ほど行ったところでその背に追いついた。趙模も馬頭を返して力戦し、二将はともすれば斬りたてられ、劣勢に陥る。
そこに張燦が追いついて攻めかかり、ついに趙模も杜淑の鎗を受け、馬より落ちて擒とされた。趙模の兵の多くが降伏したものの、一部は少城を指して落ち延びていった。
「哀れなことよ。陳摠、趙模のような謀勇の将であっても運が窮まれば一朝にして敵刃の下に命を落としてしまうものだ」
世の人はそのように言って二人の死を惜しんだことであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます