第五十五回 姜發は計を設けて陳摠を破る
かつて
陳摠は
「西夷校尉の陳摠が問罪の軍を率いて進攻しており、日ならず州境に到着します」
趙廞は大いに愕き、
「難しいことはございません。他郡の軍勢を召集した陳摠を相手にするならば、多勢に無勢の理により吾らに勝機はございません。しかし、今、陳摠は孤軍で山を越えて進軍しており、吾らは安逸にその到着を待って戦えます。ただ、州内に入れてはなりません。明日、まずは精鋭を要害の地に伏せて不意を突き、一戦して陳摠を擒にするべきです。そうすれば、他郡の兵は畏れて攻め寄せますまい。この一戦に力を尽くさねばなりません」
趙廞は姜發の計に従い、姜飛を
▼前部将軍は先鋒の将と解するのがよい。
姜發が伏兵を率いる三人を誡める。
「吾も軍勢を率いて後につづく。陳摠には用心せよ。ゆめゆめ
三人が出ていき、
※
三将は狭隘で見通しが悪い場所を選んで兵を伏せ、陳摠の到着を待ち構える。
その日の午時(正午)にかかる頃、
姜飛は軍勢の半ばが通り過ぎた頃合を見計らって号砲を挙げ、伏兵が一斉に襲いかかる。陳摠は伏兵を知ると後軍が劣勢になると読み、馬を返して叫んだ。
「趙廞は妄りに朝臣を殺し、朝命に違背した。吾はその罪を問うために一軍を率いてここに来たのだ。お前たちは晋の禄を
「晋朝の奸人は集まって不道をなし、名分もなく他人の国を滅ぼしてその祭祀を絶った。天理はこれを容れず、自ら相損なって妻は姑を殺し、母は子を害し、忠臣は族滅して奸人が権を専らにしている。これは天が晋を滅ぼそうとしているのだ。お前たちは死が
姜飛が叫び、聞いた陳摠は大いに怒って刀を舞わせ、姜飛に斬りかかる。
「老賊め、無礼である」
姜飛は鎗を捻って迎え撃ち、馬上で戦うこと二時(四時間)になっても勝敗を決さない。許弇、費遠が左右から軍勢を率いて斬りかかる。陳摠はそれにも怯まず力戦するが、さらなる鬨の声とともに張燦、
ついに晋軍は総崩れになり、陳摠もここで戦を捨てて奔走した。
成都の兵は勝ちに乗じて追い討ちに討つ。山道は狭く
成都の兵がさらに迫ろうとしたところ、陳摠の参軍を務める趙模が軍勢を率いて駆けつけ、車輪を
※
そこに
「すみやかに
その時、すでに日は暮れかかっていた。
張燦、常俊の二将はそれを聞くと、趙瑛とともに馬に鞭打って先を急ぐ。三人とも山道を
陳摠と趙模の二人はようやく成都の兵を防ぎきり、軍を止めて協議する。
「趙廞めの詭計に嵌って危うかった。参謀の救援がなければ、被害が大きくなったであろう」
「
陳摠はすぐさま号令して軍勢を返すこととした。
その時、砲声が響いて趙瑛、常俊、張燦の軍勢が大道を遮る。
「伏兵が前を阻んでおる。参謀はどう対処する」
「敵の精鋭は後ろにあり、前を阻む兵は数も多くはなく、怖れるに足りません。明公はしばらく追撃の兵を防いで下さい。吾はこの伏兵を蹴散らして道を開きます。道が開けばそのまま
趙模の言葉に陳摠は従わない。
「いや、そうではあるまい。日はすでに暮れて山路は険難、吾が兵は人馬ともに疲弊しておる。その上、先の敗戦で士気も下がっておろう。おそらく戦っても勝機は薄い。山に上がって険要に拠り、夜半に至って敵が退いてから兵を返すのがよい。それならば無用の戦を避けられよう」
「賊は吾らを逃がさぬと決死の覚悟、一戦なくして軍を返すことはできません。前を塞ぐ軍勢を斬り破って退くのが上策です。山に登って麓を囲まれれば、吾が軍の兵糧は尽きて汲む水もなく、苦しんだ果てに擒とされましょう。さらに隣郡も吾らがここにあるとは知らず、外援も望めません。おそらくは
趙模は言葉を尽くして諌めるが、疲れ果てた部隊長たちも陳摠に
「道は険しく、すでに日は暮れてしまいました。敵の多少も分からず、暗夜では号令も行き渡りません。おそらくはこれより戦となっても不利になるばかりです」
それを聞いた陳摠は、ついに趙模の策を捨てて山に上がって陣を布いた。
※
趙瑛たちだけでは陳摠を防ぎ切れないと観た姜飛、杜淑も遅れて包囲に加わった。
「陳摠は山に入って陣を構えました」
それを聞くと、軍士に命じて道を塞ぎ、人を遣わして趙廞、姜發に報告を入れる。
姜發はすぐさま戦地に向かうと、四方の道を確認して平と険を見定め、各所に兵を部署して山麓に二つの陣営を築く。小路の出入りもすべて封じ、ただ西南の谷口にある要路だけは樹木を切って柵を設けた。
姜發は西南の守兵を次のように誡める。
「この柵を油断なく守れ。ただし、なるべく戦は交えずただ通るのを妨げるのだ。そうすれば、数日中に敵はことごとく餓死しよう。外に救いを求められぬよう一人たりとも抜けさせるな。それ以外のことはどうでもよい」
翌日、陳摠は趙模と軍議を開いた。
「今から山麓の守りを斬り破って廣漢に引き返す。ただ、賊は鋭気を養っていようから、被害も軽くは済むまい。参謀は吾がために
「吾が兵は落ち着いており、敵には疲れが見えます。しかし。まだ山を下ってはなりません。一日を山中に過ごし、今夜になってから精鋭を選んで山麓の敵陣を抜けさせるのです。
「賊兵は山麓を厳重に固めておる。人を出しても通り抜けることは難しい。さらに、陳恂の兵は数千に過ぎず、すでに耿縢を失ったところに吾らが救援を求めれば、必ずや畏れて救援に出ることを
「敵を侮ってはなりません。隘口を一時には通り抜けられません」
「たとえ賊兵が守っているとて何ほどのことがあろう。吾が怖れるはずもあるまい」
ついに、部隊長たちに下知して言った。
「
山麓の陣中から張燦が夜半に山を見ると、山中の陣に無数の火が見えた。さらに人馬の声も
「山上の陣に無数の灯りがあり、軍兵たちが騒いでいます。その勢は山を攻め下ろうとしているようにも思われます。二公はどのように観られましょうか」
張燦は軍営に戻って姜發、姜飛に報告したことであった。
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