第二十三回 諸葛宣于は徐光と別る
それより以前、
実のところ、この宣于という者は、蜀の
その後、
「お前たちが知るところではない。彼らを観るに、みな将軍宰相の器量を備えておる。いずれは世に頭角を現すこととなろう」
周囲の者たちが迂遠なことと
※
ある日、人々が
「吾が家の客人たちは揃ってその素性を明かさないが、その様子を観るに、必ずや蜀漢の遺臣であろう。吾はこれより客人の許に行き、そのことを探ってみようと思う」
そう言うと、徐光は宣于たちの許へ顔を出した。
「今、
宣于は笑って応じない。徐光も重ねては口にせず、黙ってその場を後にした。宣于は徐光を見送ると、魏氏の三兄弟、馬寧たちと郊外の人がいない場所に行って議論した。
「天下には同姓の者も多く、必ずしも同一人と言い切れません。劉氏、関氏、張氏の生存者がいれば、勇猛であるとはいえ齊萬年が独りで復讐の兵を挙げるとは思えません」
馬寧が口火を切り、それぞれが意見を述べる中、唐突に一人の男が現れた。
目深に被った笠で顔を隠した男は、一言も発さず五人の許に近づく。五人も言葉を切ると、立ち上がって男を避けようとする。
「魏家の旦那に馬家の長男ではないか。こんなところで何をしている。吾はお前たちの背後に潜んですべて聞いていたんだぞ」
男はそう言い、五人は顔色を失う。しかし、笠を取った男をよくよく見れば、
「この数年どこにおられたのか。様子だけは日に焼けてすこし痩せ、鬚が伸びたようですが」
「齊萬年が挙兵して張氏、黄氏、趙氏の遺児も陣営に加わった。しかし、まだ消息が分からない遺臣の裔も多い。それゆえ、この数年は劉皇子(劉淵)の命を受けて各地を探し歩いておった。諸兄に出会えた喜びで、ここ数年の苦労も報われたようだ」
▼指摘により「齊萬年が挙兵して関氏、張氏、黄氏、趙氏の遺児も陣営に加わった。」と述べる原文から、まだ劉淵に合流していない関氏を省いた。
五人打ち揃って柳林川に向かうべく、旅装を整えると徐光に拝謝して別れを告げた。
「諸兄の面に喜色が溢れているのは、これより長い旅に向かうためでしょう。そう急がず、酒を整えて餞別の宴を張るのをお待ち下さい。それから馬を走らせても遅くはありません。先ほど、心にもなく募兵に応じられるように勧めたのは、まさにこのためです。齊萬年が叛乱したとあれば、その首謀者は蜀漢の旧主であるはず。いずれ諸兄が大業を成し遂げる際には、吾も
徐光がそう言うと、宣于たちは愕いて言った。
「公の慧眼には万里の遠くもお見通しなのですね」
すぐに酒肴が運ばれ、五人は歓飲を尽くした後に旅立つこととなった。旅立ちに際して徐光は馬を贈り、それより数日で
※
州境では逃げ出す民が荷を満載した荷車を引いて陸続と道についている。廖全は逃げる民に理由を尋ねた。
「羌族が叛乱して秦州の守将を殺し、次に涇陽を攻撃しようとしているんでさ。ここから五十里(約28km)ほど行ったところに羌族の軍営があるらしいですぜ」
一同はさらに進んでほどなく軍営に到った。廖全が案内に立って齊萬年に引き合わせ、久闊を叙すると蜀漢の滅亡より多年にわたる悲喜こもごもを語り合う。
翌日には宣于たちを
諸葛宣于を首座に張、趙、黄、魏、馬、楊をはじめとする勲家の序列が定まると、劉淵の子の
このようにして、蜀漢の遺臣たちは方々より来たり会して龍が水を得たかのごとく、蜀漢を再興する軍勢はいよいよその兵威を増したことであった
▼秦州は長安の西にあたり、州治は
▼まめ知識:第二十三回までの蜀漢の遺臣たちの所在は以下のとおり
第一集団 成都城の西門から突破、漢中から安定を経て柳林川へ到着
第二集団 酒泉地方から第一集団に合流
第三集団 酒泉地方から第一集団に合流
第四集団 馬邑縣に滞在
第五集団 馬邑縣に在来、第四集団と接触
第六集団 安定から第一集団に合流
第七集団 長安北方の河套地方に蟠居、第一集団と接触
第八集団 黒莽坂の山賊、第二集団と接触
第九集団 第八集団との接触の際に第二集団と逸れて逃亡中
第十集団 酒泉地方、第二集団と接触
第十一集団 棲鳳崗、第二集団と接触するも残留
第十二集団 酒泉地方、第三集団と接触するも残留
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