二章 流浪する遺臣たち
第十回 関防と王彌は靳準の店に到る
李祐は四人の言を謹聴し、翌朝の出発に際して言う。
「みなさんの忠義の
その後、四人を送って道をともにし、手を握って約束した。
「大願を成就されれば、甥の李珪を私の
別れを惜しみつつ李祐は引き返し、王彌たちは先を急ぐ。
李珪、
▼「梓潼」は
▼「馬邑」は
この靳準という人は
その靳準が王彌たち七人を観るに、いかにも
※
ある日、暇ができた靳準はささやかな宴を開き、王彌たちを誘った。
「私はみなさんの居住まいや容貌からして
靳準は率直にそう言った。
その言葉を聞いた王彌は靳準に異心がないと感じ、成都から馬邑に到った経緯を語り、旧知の人を頼って来たが、いまだ出会えていないと打ち明ける。さらに、その人の姓名を
王彌が成都からの脱出を語った際、関氏の兄弟は目に涙を浮かべていた。それを見た靳準は彼らを
▼馬邑は同じ山西でも晋陽より北にある。漢中から馬邑に向かう場合、関中に出て潼関・
※
同伴の者たちが左右に侍り、
たまたま関防が通りかかって様子を見れば、上座の男は長身に雄偉な体躯、
「店にいるお客は体躯も容貌も群を抜いていますね。どういう人なのでしょう」
靳準に問うも答えず紛らわせようとする。関防は食い下がって諦めない。やむなくその人の来歴を語ったところ、おおむね次のような話であった。
※
この二人は尋常の人ではなく、上座の方は
かつて孔融が
幼子は成長して
▼孔融の子の名は伝わらない。
かつて、この近くの
背丈は七尺(約217cm)ばかり、爪は鉄に劣らず硬く、力は三百斤(約180kg)の獣をも軽々と背負うほどです。
▼『
この獣は朝から姿を現し、昼前に姿を消して夕刻にまた現れます。姿を現すと山道に座り込んで人を待ち、運悪く通りかかった者を食い殺すのです。
人々は怖れて昼前から夕刻までの間に限って山中を通り抜けるようになりましたが、
ついに昼は隠れて夜に出てくるようになり、人家を襲うまでになりました。さしもの縣令も手の打ちようがなく、役所に
孔萇は高札を見るや縣令に面会し、
▼魏晋の一両は13.92g、著述された明代は37.3gに相当、以降、明代に従って併記する。
「怪しい獣が人を喰らってその害が甚だしいとあれば、必ずや除いて民を安んじて御覧に入れます」
「日夜憂え、このことばかり考えている。人民の害を除こうと猟師を集め、官兵を遣わしたものの、この獣は
「非才の身ではありますが、生命を捨ててかかれば、この獣を斬ることも
劉縣令の問いに、孔萇は仔細を述べずにそう応じるばかり。縣令は決意を知って意に任せ、革を油に浸して切れにくくした軽い鎧と鉄鎖の
縣庁を退いた孔萇は家に戻り、鎧を着込んで二本の刀を提げ、遣い慣れた六十斤(約36kg)の
夜叉を探して深い森に分け入り、山中を巡ること数里ばかり、樹木が茂って昼なお暗い深山の中、夜叉が住むと思われる岩穴を見つけます。
入口に近づいて聞き耳を立てれば、岩穴の奥から骨を
迎える孔萇は鉄鎚で頭を狙い撃ちましたが、獣はそれを避けて組みつき、孔萇を組み敷きました。ただ、鹿を食べて満足していたのか、その上に座ってもすぐさま喰おうとはしません。
組み敷かれた孔萇はその隙に
さすがの夜叉も所詮は獣、刀を奪って孔萇を刺し返すようなことはできず、ただ鋭い爪で孔萇の鎧を引き裂こうとするばかり。その爪の鋭いこと、鎧の肩や肘が裂き破られてしまいました。
孔萇はさらに一刀を抜いて夜叉の
孔萇が鉄鎚を背負ってそれを追えば、獣は大きな洞穴の前で力尽き、二本の刀を突き刺したままで座り込んでいました。鉄鎚を挙げて一撃に撃ち殺すと、首だけを提げて山を下り、縣庁に出頭しました。
劉縣令は大いに喜んで高札のとおりの賞を与えようとしましたが、孔萇はこう言って辞退します。
「ただ民のために害を除いただけのこと、賞を受けるには当たりません」
劉縣令は何とか
孔萇の右に座る方は、河西の武威の出身で、姓は
桃豹もまた弱きを助けて強きを挫く義侠の士、ふたりとも義心の強さは実の兄弟のようによく似ています。
かつて武威の本郡に豪族があり、庶人の妻を犯そうとしてその妻が従わなかったことを恨み、ついに
さすがに武威には身の置きどころがなくなり、幼い弟を伴い出奔して馬邑に身を寄せたわけです。
弟は二人おり、それぞれの名を
世の人々は、
私とも
あなたがたはいずれ彼らに逢うことになるとしても、今日この場で逢ってはなりません。此処を離れ、表の声が聞こえない奥の離れに
万一、彼らの
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