第三回 呉将は郴嶺に晋兵を破る
数日後、晋の
呉の残党など怖れるに足りぬと意にも介さず
「郴嶺の関塞には
羅尚は進軍を停めて平地に軍営を置いた。
※
翌日には自ら一団の将軍、
その
羅尚は将佐とともにその様子を眺め、天を仰いで
「
突如、
その後ろにつづく
※
羅尚が軍列を整える暇もなく、早くも
晋軍から
晋兵はその様を見ると怖れてさらに軍列を乱す。
ついで晋将の
羅尚は劣勢に
主将を失った晋兵は動揺して
ようやく軍を立て直して敗卒を集め、点呼してみれば兪賛をはじめ万余の兵を喪っていた。
▼「里」は距離を示す単位、一里は千八百尺(約560m)に相当、尺は明の基準で換算して併記する。
※
羅尚がいきり立って叫んだ。
「
それを先鋒を務める
「
▼「聖上」は臣下が皇帝を指して言う場合に遣う。
▼「明公」は部下が刺史や元帥などの上官に呼びかける二人称。
※
晋の諸将は軍議を開き、出戦の可否を
「明日の戦では
居並ぶ諸将は膝を打って賛同し、それぞれの役目を確認して翌日の
▼「五更」は夜を五つに分けたうちの最後にあたり、一更は午後八時、二更は午後十時、三更は午前十二時、四更は午前二時、五更は午前四時に相当する。以降、これらはすべて時刻を併記する。
※
翌日、周旨と羅尚が率いる軍勢は郴嶺に向かい、兵に命じて大いに周處を罵らせた。さらに山も震えよとばかりに金鼓を鳴らして呉兵を挑発する。
周處は怒り
「敵兵が叫んで将を罵るのは、戦を誘っているのです。計略に陥れるため、何とか吾らを怒らせようというのでしょう。山上の関塞にある吾らは意に介するに及ばず、ただ険要の地を守って敵の進軍を阻めばよいのです。
周處は諸葛愼に抑えられて出戦できず、そうとは知らぬ周旨は呉兵に戦意なしと観て、
呉兵はただ戦意を抑えて日が高くなるのを待ちかねている。一方の周旨は兵に命じて甲冑を解き、
※
周處は我慢がならず、諸葛愼に詰め寄って言う。
「晋兵の無礼に
諸葛愼は心中で晋兵の
「打って出られるのがよろしいでしょう。将軍が晋将を斬れば、晋兵は戦意を失います。その時は
出撃を許したものの、敵の計略を見破る方策を伝えて無謀を
「お二方はそれぞれ一万の兵を率い、山を下って周先鋒(周處)の後詰について下さい。周先鋒が勝ちを得て追撃するようなら、その後ろから整然と軍を進めて晋軍を威圧し、伏兵があれば挟撃して攻め破るよう願います」
周處はすでに戦仕度を終えて門を開き、五千の精鋭の先頭に立って山道を駆け下っている。その姿は天神が空から飛び下ってくるかの如く、猛然たる勢いを見た周旨は兵に
※
周處の
「そこなる将は周子隠ではないか。吾は
「まず申してみよ。言が理に
「格別の話というわけではない。今や呉の
▼周旨が言う「二十八人の名将」は雲臺二十八将を指す。
「主上はその性残虐ではあったが、国を破るほどの悪行は犯していない。それにも関わらず、晋は恩徳によらず兵威により征服した。吾らは東南の
周旨の
※
周旨が刀を振るって斬りかかり、二人は
周旨は偽り逃れる頃合と見て周處の刃を止めようと試みるも、周處の
周旨は刀を捨てて逃げ奔り、呉兵は鬨の声を挙げて
周旨の後詰を務める羅尚と劉弘は、連日の合戦に晋将を斬ってなお矛を収めない周處の勇猛を思い知り、
主将を失って乱れたところに呉兵が襲いかかり、
兵を伏せる弓欽、陶鎔は合図もなく現れた周處に不意を突かれた上、逃げる羅尚と劉弘の軍勢に引きずられ、伏兵を発することもなく風を望んで逃げ出した。
周處の後詰となって伏兵を警戒していた莞恭と帛奉もつづいて到着し、晋兵が算を乱して何の策もないと見切るや、周囲への警戒を解いて追撃に専念する。
奔走する晋兵は互いに踏みあって死者は数え切れず、呉軍はそれを三十余里(三十里は約16.8km)も追って晋軍の
羅尚が兵馬を点検したところ、この一戦でまた一万余の兵士を喪っていた。
それに加えて、輜重を奪われては戦のつづけようがない。諸将は相談すると、兵を慰撫して守りを固める一方、洛陽に使者を遣わして増援を願い、朝廷からの指示を待つと定めたことであった。
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