7. 変な男
「今日はお集まりいただき感謝します。
Mr,ベギの就任前祝いということで、食事の場をご用意しました。
忙しく会えない皆様の良き交流の場となりますよう期待しております。
まず――」
大統領は会場に入るやいなやマイクを取り上座のテーブル前に向かった。
筋肉質で大きな体に紺のスーツがまるで貼り付いているようだ。
焼けた肌に坊主頭で、笑うと眼尻にしわができる。
愛嬌のある顔とは裏腹に観客を置き去りにするようなスピード感が
会場の空気を一気に変え視線が集まる。
その後ろ(テーブルの後ろ)にベギ氏、ヤヌコイ氏が入ってきて
側には数名サングラスをかけた黒服がいる。
「大統領の体がまた大きくなられたようだ。
Msイザミ、ああいう男性はいかがかな?
地位も権力も、金もある。」
「素敵だと思いますわ。
それらを適切に扱える“信念”があれば。」
会場出入口付近にイチカワ議長と少佐
奥側にはチュウジョウ議員とイザミ、少し離れてオオツカがいる。
ジャッドの操るマクロバグは全体を見渡した後
FBIのバッヂを付けた黒服の男達を観察する。
《少佐、こいつら一応FBIだ。
この顔がマスクじゃなきゃ顔認証も一致してる。》
《…そう。演出の線は薄いか。》
ジャッドのサングラスのレンズにはマクロバグ越しの会場内映像と
検索にかけたFBI捜査官のデータが簡易的に表示されている。
数は5名、顔認証が一致した。
《ちなみにFBIは俺たちが来ることを分かってんだよな?
たかがマフィアの残党処理に何でこんなに神経質にならなきゃいけねーんだ?》
《分かってるだろうけど、俺達の顔は知らないはずだよ。
“現場責任者がいない”ってだけさ。
やることは変わらない。》
大統領の挨拶が終わるとマイクは外交大臣に渡り、ベギ氏就任の進行を始めた。
椅子がないので手短に、簡潔に進められ
ヤヌコイ元大臣のスピーチが終わったところで料理が運ばれてきた。
食事の後に大統領のスピーチで締める段取りは
今のところ順調に来ている。
チュウジョウ議員の外交封じにはイザミが上手く応え、
彼はほとんどその場を離れなかった。
オオツカは少佐と一時合流し秘書の情報を渡す。
それからは出入り口付近に張り込み不審者を洗っている。
「こんにちはヤヌコイ大臣、英断をなされたようで。」
「これはこれはイチカワ議長、英断なんてとんでもない。
自分の尻を拭けなかった哀れな人間の末路ですよ。」
「“選択できると思う”ことと、“選択する”ことは大きく違いますよ。
…で、彼はトーマ少佐です。
今後身辺で困ったら私の部下がお助けしますから。」
イチカワ議長は少佐を連れてヤヌコイ元大臣の所にいた。
ふくよかな体と親しみのある笑みからサラッと営業トークが出たが
少佐は聞き慣れているのだろう、鼻息をついて
笑顔で元大臣と握手を交わした。
《外には動きなし、一切なしだ。
俺もエビが食いてぇよ…。》
《ハハ、美味しいですよここのエビ。
…ん?》
《どしたぁ?エビにホネでも入ってたかぁ?》
《…いや、変な男が廊下で電話してるんです。》
《変な男ぉ?どんな奴だよ。》
《ちょっと見てきます。》
少し前から退屈に痺れを切らしたジャッドは必要以上に語尾が長かった。
無線で話せるフリーのオオツカはエレベーターホール近くの廊下で
腹を触りながら電話をする若い男を発見する。
明るすぎず暗すぎず、間接照明が壁に並ぶ白い廊下で
グレーのスーツを身に纏った男は色黒で黒い手袋をしている。
変なのは胴回りだった。
細身の彼から想像も出来ないほど胸や腹が出ている。
オオツカは死角に潜み拳銃を手に取った。
銀河鉄道プロジェクト 西書 @nishiwrite
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