6. チュウジョウ議員


――ガヤガヤ…



予定の時間が近づくにつれて

スーツや軍服に身を包んだ人たちが次々と会場に入ってくる。

天井が高く広々とした空間に丸いテーブルが互い違いに配置され

シミ一つないテーブルクロスが白く存在感を放っていた。

椅子はなく、部屋の左右に長方形の机が長く繋げられていることから

立食バイキングが予想される。





~時は少し遡り少佐が議長に会う前~



「初めましてチュウジョウ議員、一課(国際機密機構捜査一課)のオオツカです。

本日護衛に当たらせていただきます、よろしくお願いします。」


「やぁ、ウワサは聞いているよ。本当に存在する組織なんだね。

今日はヤヌコイの飼い犬がこのホテルの中に紛れているそうじゃないか。

しっかり仕事してもらわないと、この星の未来を拝めなくなる。

よろしく頼むよ。」


「もちろんでございます。こちらはイザミです。」



チュウジョウ議員は広いオデコを隠さず

左右に白髪を生やした特徴的な髪形をしている。

背は低い方で160cm前半といったところ。

やせ形で左目の下に500円玉ほどの大きなアザがあるのも特徴。

分かってると思うが今回注視されてるマフィアはヤヌコイ大臣の飼い犬ではない。

ニヤリと笑みを浮かべながらオオツカに応答した。



「初めましてイザミです。チュウジョウ様の護衛に付けることを光栄に思っております。」


「おぉ、なんて美しい。貴女が来ているドレスはカモフラージュのため?

それとも私を誘っているのかな?」


「ちょ、チュウジョウ議員!?」


「(いいのよ)…機会があればご一緒しますわ。」


「うむ、機会は待つのではなく作るものだよお嬢さん。

未来は待っていたって思うようにいかないからね。」


「深いお言葉…この仕事が終わったら是非続きを聞かせてください。」



会場にドレス姿の女性は珍しくなく、むしろ普通だった。

あくまで“会食”なので女性の政治家たちも着飾って来ている。

黄色より少しオレンジがかったタイトなドレス姿のイザミは

ブロンドヘアーを結い上げてまるで別人のようだ。

慣れた手つきでごく自然に彼女の腰へ手を回すチュウジョウ議員

慌てるオオツカを制止させ(小声で)イザミは笑顔で応対する。



「おー、手荒いご挨拶だこと。

いかにもスケベそうな顔してやがる。

…しかしやけに電波シェルターの弱い会場だな。

これじゃ盗聴してくれって言ってるようなもんだぞ。」



会場の上座と下座の壁にある嵌め込み式の大きなショーウィンドウ、

上座側は長い屏風で封じられその前に机が並んでいる。

その上、排気用の窓が並ぶすぐ隣の微かな死角に身を潜めるジャッド。

超小型の赤外線カメラを搭載したマクロバグを操り

ゴーグルタイプのサングラスのレンズで会場内を観察していた。

上下(かみしも)に分かれた出入り口から往来する人たちは

濃色のスーツや茶や灰の軍服に身を包んでいたり

黄や紺のドレスで着飾っていたりで皆それぞれの存在感を放っている。

そしてしばらくするとイチカワ議長と少佐が入ってきた。




――ピッ!



《少佐、電波ジャックは無さそうだ。

FBIが張ってる網が三基、あとはヘリが一機と湾岸線出入口にパトカーが二台。

ライフルレーザーも今のところヒット無しだ。

…っても軍とマフィアじゃ戦り方が違うだろうけどな。》


《分かった。ヤヌコイ大臣は確認した?FBIが“ホンモノ”か調べてくれ。》



ジャッドはフリーになった少佐を見つけると電波通信に出た。

ある程度人数が入ってきたところでテーブルの上に飲み物が運ばれてきて、

少佐は選びながら顔色変えずに返事をする。

それほど広くはないが人が多いのでイザミたちは目視確認できない。

少佐はあたりを軽く見渡す。



「(…天井は高いけど白い壁で真っ平、死角は無いな。

机の下、出入り口、屏風の裏…ふむ。)」



挨拶回りで離れたイチカワ議長は上座で会話が弾んでいた。

今会場を俯瞰視できるのはジャッドだけである。



《了解。今ヘリが一台来た、おそらく主役の野郎どもだろう。

着陸したら確認する。

ところでイザミたちは放っておいていいのか?

エロオヤジに手荒く歓迎されてるぜ?》


《大丈夫、ああ見えて結構根性あるよ。》


《少佐、“銀河鉄道”のこと調べればいいですか?》


《おっ、ウワサをすれば。あんまりがっつくなよ?後で痛い目会うぜ。》


《…心配無用よ。今回はオオツカもいるし。》


《なら結構。》


《そうだな。でもジャッドの言ったとおり、安売りするなよ。

この会場で聞き出せるレベルでいい。》


《お言葉感謝します。では後ほど。》


《オオツカ、チュウジョウ議員の秘書は見た?》


《いえまだです。》


《もし可能なら人物を特定しておいてくれ。後でスコイに調べさせる。》


《了解しました。》



電波交信なので実際お互いに顔を見ていないが

賑やかで視線の多い会場の中でも落ち着いた会話ができるのは

メンバー同士がある程度の信頼と経験を積んできたからなのだろう。


そしてついにジョーカー大統領をはじめヤヌコイ大臣らが入ってきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る