5. ヤヌコイ大臣


「“銀河鉄道”と接触したらしい。

出所はよく分からんが“友好的だった”と

タレコミが流れてきとる。」


「へぇ、モノ好きな政治家さんだ。」


「少佐も知っとるだろうが、ジョーカー大統領は現実主義で

“銀河鉄道”にかなり否定的な人だ。

今日の会食で二人は久々に顔を合わす事になるが

メインイベントはヤヌコイ氏の左遷。

大統領はマフィアの動きが気になるところだろう。

他の出席者と密な交流を“封じ”彼を孤立させろ。

可能ならウワサの真偽も確かめたいところだ。」


「了解。イザミとオオツカには改めて伝えておく。

ちなみにマフィアは壊滅されたハズだけど?」


「若い残党が散り散りに影を潜めているらしい。

今日は特例でFBIが付くと言っていた。」



「なるほどね。

…忠誠心の高い犬は飼い主を失っても吠え続ける、

って昔ジャッドが言ってたな。」


「軍属時代にか?」


「いや、ウチに来てすぐくらいだった。

心配ないよ、過去はちゃんと割り切れる男さ。」



「…心配しとらんよ。そろそろ向かう時間だ。

準備はいいな?」





~~



部屋を出て、廊下のすぐ先にエレベーターホールがある。

フロアを一つ降りると立派なパーティ会場になっていて

そこに国連の大臣ら含め多数の政治家が集まり

長く短いランチタイムを送る予定になっている。

各人の護衛や秘書に加え、FBIがヤヌコイ大臣に付き

各階には警備員に扮した地元警察も応援に来ているので

かなりの人数が動いている。

これら全て“会食”なのでメディア関係者には知らされず、

出席者のみがこの歴史的な人事異動を目の当たりにすることになる。




ヤヌコイ氏は自国マフィアの大麻密輸を長期間黙認した罪で

会食後、逮捕される予定だ。

同氏は環境大臣として、自国のある中東アジアを中心に

地球環境問題に取り組む国連幹部の一人だった。

密輸について詳しい経緯は明かされていないが

関係者によると「天然の大麻が育つ自然環境の地域で育ち

“節度を守れば薬草にもなる”という寛容な考えを持つ人なので

その性格を利用して密輸に成功していたのでは?」と推測されている。

同マフィアは賭博場経営などで武器や戦闘機を買い揃えられるほど

強大な経済力がある組織として知られ、組員も多かった。

後にマフィアは街の治安統制に協力的になっていったため、

収拾のつかなくなった善悪に自身もろとも刃を突き刺す(検挙する)よう

ベギ氏に命じたのである。

程無くしてマフィアの幹部たちは逮捕され壊滅状態になり、

ヤヌコイ氏は書類送検された。



内部告発の折、部下に裏切られたジョーカー大統領だが

ヤヌコイ氏の意志を忖度し辞任ではなく左遷を命じる。

ベギ氏を臨時で大臣に任命したのは他の政治家への配慮だ。

国連の尊厳を守りながらもヤヌコイ氏の身の安全の為、

警察に連行させるのがジョーカー大統領の最後の温情である。

果たして会食は無事に終わるのか…?

そしてチュウジョウ議員の真偽は…?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る