4. 国際クイーンズホテル


――パパーッ!



舗装された大通り、中央分離帯や歩道に均等に植えられた木々が

灰色のビルの立ち並ぶ無骨な景色を彩っている。

この街のどこかからクラクションが鳴った。

地上では車やバイク、地下には電車、

上空にはモノレールがビルを経由して行き交う。

移動先になるべく早く、楽に向かうルートはいつの時代も重宝されるものだ。



ここは【米共和国】

首都高から湾岸線に抜けてすぐ、海沿いにそびえ立つ特徴的な建物がある。

17階建ての国際クイーンズホテルだ。

昨今の高層ビル群に比べて小柄だが、アクセスに長けていて

屋上のヘリポートは勿論、湾岸線から3階に乗り入れが出来

5階にはモノレールの駅が直結している。

また15Fより上階は会員制なので、その面でも

著名人や政治家など愛用者は多い。






17F 会場控え室




――ジジッ(無線回線が繋がる音)


《少佐か?今日はベギ大臣の臨時就任前祝いが建前の

前ヤヌコイ大臣の送別会だ。

データは確認しているな?

チュウジョウ議員の身辺警護を頼む。》



紺色のスーツの下にふくよかな体を持つ男は紅茶に砂糖を入れる。

木目調の落ち着いた部屋には彼以外誰もいない。

スプーンでゆっくりかき混ぜながら無言で話し始めた。



《了解。チュウジョウ議員にはイザミ、オオツカを向かわせた。

屋上にジャッド。あと1分後にそっちへ着く。

FBIは来るのかい?》


《ああ、麻薬絡みの左遷だからな。

着いたら流れを説明する。

電波監視されるからオフラインにしといてくれ。》





――コンコン


「…入ってくれ。」



少佐と呼ばれる男は黒のスーツ姿にサングラスをかけて現れた。

耳に無線機用のイヤホンをしているが、これはダミーだ。

彼らの無線は脳の言語中枢付近に埋め込まれたマイクロチップで

言葉を電気信号に変換して行われている。

(補足: チップの放つ電波領域(半径約200m)に入れば

自動で相互接続され相手が誰か分かる仕様になっている。

内容を聞かれたくない場合は限定的に接続することで

他の端子からの自動接続を回避できるほか、

意識的に無線を切ったり入れたりできる。

(厳密には電源という概念が無いので電波領域を閉じるという感じ))



「議長、それで?」


「ああ、会食は約45分間。

ジョーカー大統領の挨拶が終わったら

ベギ氏とヤヌコイ氏がスピーチを始めるだろう。

その間、チュウジョウ議員の身動きを“封じる”のが任務だ。」


「封じる…ねぇ。チュウジョウ議員と言えば原油大臣のイメージなんだけど

あの人、何かやらかしたの?」



少佐はサングラスを外して腕を組み、壁にもたれかかった。

大きな体の割に小さなティーカップで紅茶を飲むイチカワ議長。

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