6月15日 投開票日2:加美洋子「かわいく一目で分かる位置ならいい」
秋山菜乃佳
昼休み。チャイムが鳴るとダッシュで中央校舎1階の生徒自治会室へ向かった。投票箱は女子3名、私と三重さんと松平さんで運ぶ事になっていた。机と椅子は古城さん、吉良さん、加美さんと男子たちが運ぶ分担になっていた。自治会室に行ったら30cm四方ぐらいの大きな銀色の箱を3個渡された。
「嵩張るけど重くはないから」と大村先輩が言う。重さは3kgぐらいらしい。
以前はこの投票箱で学年毎に設置して入れに行っていたらしい。投票用紙が入った時に運ぶのが大変だという事で見直されて、クラス単位の小さな箱に置き換えられた。この投票箱自体は本式の選挙でも使われているような奴で場所は取らないので記念に残されているという。
「変な所で凝ってるのは誰の仕業なんだろう?」
「購入時期、結構古いね」と三重さん。
「80年ねえ。生まれる前じゃん」と松平さん。
「なんで分かるの?」と私。馬鹿な子みたいだ。
「だって備品管理票がついてるからね。その年月で分かるよ」
と松平さんに言われた。なんか悔しい!
中庭では机と椅子を持って古城さん、吉良さんたちが二列で歩いてきていた。連絡通路下に机を並べた。投票用紙を書く机と投票箱を置く机だ。
そして立会人として3年A組の音田しのぶ先輩、3年D組の保阪学先輩、2年B組の澄山真莉愛さん、2年E組の野田知明くん、1年C組の田川意嗣くん、1年E組角田亜佐美さんの6人が参加してくれていた。伝手を頼ってかき集めた人たち。感謝しかない。
放送委員会がお昼の放送を流し始めた。リクエストなど募ってネットなどで人気の音楽を掛けたり、委員の趣味でクラシックが流れたりと音楽はいろいろ。そんな中でアナウンサーの人が今日の投票について改めて案内をしてくれた。
「さて、今朝は生徒自治会長選挙の投開票日だった訳ですが、候補者二人が共同で制服追加についてのアンケート投票を実施中です。今日、お昼休み12時45分から13時15分までと放課後15時45分から17時まで中庭渡り廊下付近で投票所を設けています。
アンケート投票では、現在の3年生にもメリットがある男女夏服へのポロシャツ追加と女子制服へのスラックス追加の案についてまず賛成と反対を問う内容になるとの事です。一人一票投票できます。投票者確認のため学生証を確認するそうなので必ず持っていく事!
新執行部はこの結果に基づいて学校側と交渉を行うそうですので、是非、中庭連絡通路付近の投票所に足を運んで意思を示してはどうでしょうか。お昼休みは13時15分まで、放課後は15時45分から17時までだから、個人的には3年生も含めてみんな意思表示はした方がいいよって思ったよ!以上、今日のDJは久しぶりの加藤でした。チャオ」
なんと放送委員会の女帝じゃなかった委員長の加藤先輩が御自ら言ってくれたのだった。
角田亜佐美
昨日、麻野くんと加美さんがやってきてアンケート投票の立ち会い人をやって欲しいと頼まれた。
加美さんはA組、麻野くんはB組。たまたま二人と私は選択科目で一緒になっていて席が隣になったら話したりするから、両者の知り合いとして白羽の矢が立ったらしい。
二人とも自治会長選挙なんて事にのめり込んでいて不思議だったけど、一生懸命そうな姿は悪くないなとも思ったから付き合う事にした。
手伝う事にした最大のポイントは加美さんから美味しいパフェの店を教えるからって言われた事だった。私、スイーツは大好きでお店で写真撮ってSNSにアップしたりしている。ただ教える際の条件は秘密にする事っていうのがちょっと残念だけど楽しみ。
昼休み、さっと弁当を食べて集合場所に指定された中庭連絡通路下に行った。古城先輩と吉良先輩たちが机を持ち込み大きな投票箱を据え付けていて思ったより本格的な感じだった。
加美さんから古城先輩と吉良先輩に紹介された。二人からは時間使わせて悪いねって言われた。そして加美さんからは安全ピン付のリボンを渡された。
「付けて」
「何、これ?」
「立ち会い人だって分かるように目印。放課後も付けて」
「うん。分かった。胸のあたりに付けておけば良い?」
「付ける位置は自由。かわいく、但し一目で分かる位置ならいいから」
加美さんか「かわいく」なんて言われるとは。もうきっと機会のない奇跡だ。これだけでも引き受けた甲斐はあったかも知れない。
投票がほどなく始まった。最初の一人が投票箱が空の事を確認して署名、私達6人の立ち会い人も合わせて署名した。
学年毎に2列(クラスで分けた)に分けて設けられた選挙名簿確認と投票用紙交付の各列には常に10人ぐらい並んでいる状態。学生証を確認して名簿に印を入れて多重投票を防ぐ。立ち会い人はこれが適格に行われているか確認する役割があって大変だった。結局、お昼休みは200人ほどが投票して終わった。放課後を考えるとパフェは2杯奢ってもらわないと割に合わないかも。
音田しのぶ
私は昨日選挙運動で図書室へ回ってきた古城さんに妹さんの海外ミステリーオタとしての成長を聞こうと近付いたのが運の尽きだった。
「音田先輩。随分と私、先輩の育成ゲームに付き合わされてますよね.この間はミアキを市の中央図書館で9分類へ連れて行く羽目になったのですけど」
といきなり真顔で言われた。そして彼女はニヤリとすると平然と私にこう言ったのだった。
「だから、たまには音田先輩も私の苦労に報いて下さい」
こうして昼休みに引き続き、放課後も中庭に来る羽目になったのだった。私自身は古城さんに一票入れているし夏服にポロシャツが追加されたらとってもいいなあと思うので姉御としてたまには古城さんのために一肌脱ぐのもいいかなって思ったのは彼女には秘密だ。当面被害者ぶってミアキちゃんへの啓蒙活動の梃子にする。うん。一挙両得だ。
吉良小夜子
放課後、15時30分過ぎに再び集合して投票箱と机を設置した。日暮教頭先生が睨んでいたきがするけど何を今更。定刻15時45分になると生徒が帰る前に、部活に行く前に一票を入れて行こうと30人ぐらいが待ってくれていた。ありがたい。
向かい側の生徒自治会室と会議室がある中央校舎1階では開票作業が始まっていて、そちらもそちらで賑やかになっていた。
こちらはこちらで待ち行列が伸びすぎないように必死で対応していたので、次第に開票結果は気にならなくなった。立ち会いには私の陣営からは松平さん、古城さんの陣営からは加美さんが行っているので任せておけばいい。
17時前には投票の行列もあらかた解消した。投票数をカウントしていた水野くんに声を掛けた。
「水野くん。投票数はどうなってる?」
彼はにんまりと笑った。
「たった1日の案内だったのに凄いね。500越えてるよ」
生徒数600なので、8割を越えている。結果次第で新執行部の仕事は決まるだろう。
私達も開票作業に入るため中央校舎1階の私の方の選挙事務所としていた空き教室に投票箱など運んで机も戻した。
教室では開票立会人を3年生の音田先輩と保阪先輩にお願いして、1,2年生の立ち会い人と各陣営運動員が混じって開票作業を開始しようとした。そこに
「先生方、どうかしましたか」
「立ち会い、学校側もいた方がいいだろうと思って志願者3人で来た。岡本先生の発案だ」と
「保護者への意向調査は必要だと思うが、生徒の意見はこれである程度分かるんだろう?であれば疑いの余地がないようにはしておいた方がいいと思ったので宮本先生と小川先生に相談して来て頂いた。見学していていいかな?」と岡本先生。
「勿論です。協力感謝します」
私と古城さんは深々と頭を下げた。
古城ミフユ
アンケート投票の開票も順調に進んだ。学年毎で3箱の投票箱なので3つ机の島を作って、賛成・反対で分けて50票ずつで束を作っていく。そして立ち会い人二人と先生方がいる別の机の島でそれをチェックして間違いがないか確認してまとめていく。
最終的に次の結果が出て、
投票総数:523
制服追加案への賛成:412
制服追加案への反対:101
無効票:10
小川先生が最後に数え終わった。
「合っていますね」
先生方三人も立ち会い人の確認書に一筆署名と押印をしてくれた。
そこに選挙管理委員をしている2年B組の地図ちゃんこと木曽さんが飛び込んできた。
「古城さんと吉良さん、生徒自治会会議室へ来てくれる?」
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