第5章 決戦

6月13日 討論会1:松平桜子「そういう小夜子なら勝てるよ」

松平桜子まつだいらおうこ


 討論会。果たして水野くんが持ってきた新公約による奇襲は成功するんだろうか。もともと抵抗される可能性が高いと思っていたのだ。それを説得するにはどうしたらいいのか。そう考えながら申し入れに言ったら、少し待たされたものの同意するとの回答がすんなり出てきて拍子抜けした。

 そして、こちらが言い出した手前、中止を申し入れる選択肢はなかった。

今日の討論会はそれぞれ5分間の演説後、質疑タイム10分間を行う事になっていた。先攻・後攻どちらが有利なのかな。奇襲で圧倒するなら後攻の方がいいとは思うのだけど。

「心配?」

小夜子が顔を覗き込んできた。

「そりゃあね。打てる手は打ったと思うんだけど、それで全力かなって?心配にはなるよ……不安になるような事言ってごめん。小夜子」

「松平さんは率直だから信頼できる。私だって怖いもの。でも頑張る。でないと松平さんの努力に報いる事が出来ないから」

「そういう小夜子なら勝てるよ」

そういうと小夜子と私はハグした。


 大村会長が小夜子と古城さんを壇上に呼んだ。両陣営スタッフは左右に分れて固唾を呑んで見守っていた。水野くんはクールを決め込んでいる。どちらかというと頭に血が上っているのは3年の渡先輩か。

クジ引きで勝った方が先に順番を選べる。クジ引きの結果、古城さんが先に選択権を取った。

「古城さんが先攻取れ、先攻取れ。小夜子に後攻を与えて!」

 そしてどよめきが広がった。誰かに祈りが通じたのか、何をあの子が考えているか知らないけど、なんと古城さんは先攻を取ったのだった。


加美洋子


 私もちょっと驚いた。古城さんが先攻を取りそうな予感はしてない事もなかったけど、本当にやるとは。さすがは古城先輩。超攻撃シフトだ。どうやらまともな対応をさせないつもりらしい。

 日向先輩は口笛を吹いて「古城らしいや」と言った。

三重先輩は「最後の質問で畳みかけて倒す気なら先攻の方がいいのよね。でもそれじゃやり過ぎになりそうで怖いな」と言った。そう。三重先輩の言うとおりやり過ぎは禁物なんだけど。大丈夫なのか。その点は確かに不安になった。


 大村会長が演台で簡単に挨拶するとすぐ先攻の古城先輩が演台に立って演説が始まった。壇上に置かれた席の一つでは吉良先輩が古城先輩を見つめていた。

先輩は丁寧に聞きに来てくれた人たち、そして校内放送で聞いている人たちに話しかけた。


「2年A組の古城です。今日は会場に足を運んで頂いた方、教室などで放送に耳を傾けてくれている生徒の皆さんに話を聞いてもらえる機会が得られた事に感謝します。

 簡単ですが、私の提案を振り返りたいと思います。

 制服の見直し提案では今の制服を標準服として私服を認めるか、制服制度は残してバリエーションを増やす事を学校に対して働きかけていきます。その際は生徒みんなの意見をまとめて集約した上でやりますか、一方的に決めるような事はしません。

 私としては今の制服に加えて女子ならスラックス、男女共通のポロシャツなどバリエーションを増やせれば過ごしやすいんじゃないかと思っています。ポロシャツは可能であればこの夏からでも実施できるんじゃないかと考えています。これも関係する方々と調整していく必要がありますが、挑戦したい事だと考えてます。


 文化祭については会長の任期が実質1年5ヶ月におよんでいて本格的な準備期間がこの選挙後スタートになっています。

この点を改めるため文化祭実行委員会を新たに設けて、生徒自治会長任期を他の職と同様に6月選挙までに改めた上で文化祭実行委員会のオブザーバーとして自治会活動の枠組みから逸脱しないように助言するといった改正を提案します。

会計委員会が文化祭の運営で貢献されていますが、副委員長が文化祭実行委員長を兼務するといった形で現在の体制を元に改正出来ると考えています。この点は当選した暁には具体的な検討の場に会計委員会の方にも参加してもらい具体化を進めます。私からは以上です」


 吉良先輩が机の上のマイクに向かって質問を始めた。

「古城さん。会長任期について聞きたいのですが、我が校の伝統となっている生徒自治会長が11月の文化祭まで責任を負うという体制を変えるという事でしょうか?」

 古城先輩は吉良さんの方を向きながらみんなに対して話しかけた。

「いいえ。でも会長として行う必要性はないと思うので、文化祭実行委員会という枠組みを作ってそちらに移して来年6月で引退した前会長が生徒自治会活動としての文化祭活動になるように助言するという事を考えています」

「その助言役は規則で役職を設けるのですか?」

「はい。その必要はあると思います。いずれにせよ文化祭実行委員会を設けるには生徒自治会規則改正は必要ですから、その際に織り込めば対処できます」


 吉良さんは深呼吸して次の話題に移った。

「古城さん。私は制服は今のままがいいと思っています。80年代の生徒自治会の努力で今の制服は勝ち取りそして伝統となっています。ポロシャツが機能的。そうかも知れませんが、そこまで今の夏服が機能的じゃないでしょうか?」

「吉良さん。誤解されているみたいですがポロシャツだけにしようとは言っていません。ポロシャツを選択できるようにしようといってるんです。そういう自由があっていいんじゃないでしょうか」


 ここで会場内から拍手が上がった。やっぱりポロシャツは待望論があるのだなと改めて認識させられた反応だった。

吉良先輩はここで質問を打ち切った。攻守交代だ。

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