6月11日 中央図書館:ミアキ「ここ、翻訳小説のコーナーもあるよね」

古城ミフユ


 10日は模擬練習の後、月曜日からのスケジュールを確認して散会となった。みんなで食事をして頑張ろうと奮起するのは効果あるなあと思った。両親とミアキのおかげかな。

 翌日11日は特に集まらずみんなゆっくりしようという事になった。こちらが話す内容はもう出来ていたし、政見放送や公約考えればもう打つ手はない。あとは抱き着き作戦をやるかどうかぐらいだけど、これは私の臨機応変さに掛かっている(とは言え、それだけじゃ怖いのでみんなとは簡単なサインは決めておいた)。


 私は朝食後、勉強机の椅子に座って考えていた。ちょっと気になる事があったのだ。学校の図書室で中央高新聞のバックナンバーで気になった部分をスキャンしてタブレットPCに入れてあった。

ビューワーソフトをタッチして中央高新聞のファイルを開いた。読み直して改めて経緯を箇条書きにしてまとめた。


・1981年6月の生徒自治会長選で鳴海寛が立候補して当選

・公約で制服改革を提案。学校側もこの話を好意的に受け入れ保護者を巻き込んで話は順調に進んだ。

・鳴海会長の代は1983年3月卒業。この時に生徒自治会と保護者会、学校を巻き込んで卒業生の制服を制服リサイクル業者が間に入って買い取って点検と補修、クリーニングを行った上で新1年生と在学生に廉価販売する仕組みを実施。これは今も続いているブレザー制服の伝統となった。


 こうやって改めて1980年代にあった制服変更の経過を見ると実の所極めて順調に行われている。鳴海会長の指導性はどちらかというと制服のリサイクル事業の実施の方で発揮されたようにすら見える。この鳴海先輩についてもう少し調べてみたいな。

 私は部屋を出ると階下のリビングへ降りた。妹がテレビで海外ドラマを見ていた。

「ミアキ、お父さん、お母さんは?」

「買い物行ってくるって出かけたよ」

「ふーん。私、これから中央図書館行くけど一緒に行く?」

「うん。本を見たいから一緒に行く」

「じゃ、自転車の用意して」

「はーい」

テレビを消すと妹がパタパタと支度をしに2階へ上がっていった。その間にお父さんとお母さんにメッセを送った。


ミフユ:ミアキと二人で中央図書館に出かけるからお昼は外で食べてくるね。二人でゆっくりデートしてきたらどうかな?

お父さん:子どもが大人をからかうもんじゃないよ。

ミフユ:カフェにでも行けば良いのに。

お父さん:それはいいな。良いアイデアか。ミフユ、ありがとう。


 あ、これはきっとお母さんと二人しか知らない店にでも行くんだろうな。なんて事を思った。


 私と妹は自転車とJRを乗り継いで市の中央図書館に向かった。

「みんなに美味しいって言ってもらえるのってうれしいね」

「ほんと、そうね。ミアキもありがとうね。みんなかわいいシェフだっていってたよ」

「お姉ちゃん。助けてくれているみんなのためにも当選するように頑張ってね!」

なんだか逆に励まされてしまった。この子も小学2年生になって身長は伸びるし言う事も少し大人びてきたなあなんて遠い目をしてしまった。


 中央図書館はJRターミナル駅に隣接してあった。

ミアキは児童書コーナーに行きたいというので、何かあったらレファレンスカウンターに来るように言って別れた。

 ここは市内の他の図書館・分館と異なり新聞のデータベースサービスも利用できる。人捜しするならここだろう。レファレンスカウンターでデータベース利用申込書を書いて渡すとスタッフの人が検索端末に案内してくれた。当然ながら普通のPCだ。私は両親の指導で小学校高学年あたりから家のPCでキーボードとマウスを使うようになっていた。

「タブレットも良いけどワープロ使うにしても長文ならちゃんとしたキーボードとローマ字入力はマスターしておいた方がいいからね」とはお母さん。

お父さんも仕事で長文を書いたりしているせいか「生産性が違うからちゃんとマウスとか慣れておきなさい」と力説していた。おかげでこういう時戸惑わなくて済む。


 検索用PCである全国紙の検索サービスを選択して検索キーワードに「鳴海寛」を指定して検索してみた。


検索結果0件。


じゃあ「県立中央高 寛」はどうかな?


検索結果10件。


 内容を見ていくと大半は関係ない記事だったけど1件だけ気になる記事があった。

「安達寛」という人の略歴で県立中央高の卒業生だとの記載。2014年の記事で新聞社系出版社の週刊誌編集長の名前として載っていた。1964年生まれ。1980年4月県立中央高入学。

 時期的にはこの人とみてよさそう。結婚か何かで姓が変わったのかな。検索結果をプリントアウトするとカウンターの方にお礼を言って児童書コーナーに向かった。


 児童書コーナーではミアキが待っていた。

「お姉ちゃん。ここ、翻訳小説のコーナーもあるよね?」

 海外ミステリー映画やドラマの原作本とか探してみたいんだという。

「あるよ。市の一番大きな図書館なんだからね。当然じゃん」

という事で9分類の文学のコーナーへミアキを連れて行った。

 まだこの子の漢字知識じゃ読めないと思うのだけど、去年文化祭である図書委員の先輩が色々と吹き込んでくれたおかげで、原作本の表紙を見てみたいという欲求があるみたい。少しずつ読めるようになってるよ!って力説はされてる。

 音田しのぶ先輩はやっかいな趣味をミアキに教えてくれちゃったなあ(学校図書室に本を借りに行くと音田先輩が「これ、ミアキちゃんに見せてあげたら?」って追加してくるのだ。しばらく行かないと「たまには寄りなよ」って言ってくるし。なんというサジェスト機能。10年後にミアキが高校生になって音田先輩が国語か司書の先生で同じ高校にいたりしたらどうなるんだろう、なんて事を想像してしまった)。

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