6月 9日 余波2:宮本丈治「政見放送、負けてないか?」

古城ミフユ


 お昼はチャイムが鳴るとお弁当のおにぎりをさっと頬張った。政見放送はちゃんと聞いてもらう方が大事なので選挙活動はやらない事は昨日『事務所』で確認していた。松平さんも席で友達と弁当を食べていて結構こっちを見ている。ニコリと笑顔を返すとさっと視線を外してきた。吉良さんへの忠誠心はすごいなあと思う。


 クラス内は1年A組だった子たちが「私、ミフユに入れるから頑張って」と声を変えてくれるようにもなり、一頃の松平さんの威光みたいな空気は薄れてきた。とはいえせいぜいイーブンというのがいいところだろう。


 政見放送。自分の声ってこんなにハスキーヴォイスだったっけ?と思ったり、自己嫌悪になりそうな嫌な声に聞こえたり。顔から火が出るほど恥ずかしいなあと思いながら聞いていた。応援演説に出演してくれた陽子ちゃんや肇くんには感謝しかない。


 対する吉良さん達の放送は聞いていて正面から来てるなあと思った。個人的には実現性が謎の学食改革の話には不満があるけど(というか怒りかな)、その他は誠実さは感じた。


 政見放送が終わった頃に加美さんが教室の外に来ていた。手を振って分かってるよと知らせると選挙運動の腕章を持って彼女と一緒に中央校舎3階の1年生の教室へ向かった。加美さんから放送後1年の各教室を回って質問とか受けて下さいと頼まれていたのだ。


吉良小夜子


 昨日、選挙公報を読んで予想はしていたけど、古城さんは思った以上に穏当さを押し出して来ていた。むしろ私の方が強制的に聞こえる所が多かったかもしれない。D組のクラスメイト達は大丈夫だよ、吉良さん頑張れと言ってくれるのがありがたい。


 松平さんが教室にやってきた。

「古城が1年生の教室で質問受けてるみたいだから、こっちは2年のクラス回らない?」

「うん。やろう」

私は鞄から選挙運動の腕章を取り出すと松平さんに頷いてあえてE組から回ることにした。向こうには加美さんがいるかもしれないけど、私には松平さんがいる。彼女がいれば私も頑張れる。


水野直


 昼休みの政見放送は正直、向こうに点を取られたと思った。何か仕掛けないとまずいんじゃないかな。そんな事を思っていたら宮丈みやじょうからメッセで放課後に寄ってくれとの連絡が入った。吉良さんらにも秘密で連絡を取り合う方法が必要だろうという事で、正直気が乗らない中、メッセの相互登録をしたのだった。この件で一番やりたくなかった事だが仕方ないし、実際に他の人の目を気にせず手を打てるのはメリット大。


 放課後、職員室に行くと宮丈みやじょうから隣の会議室へ行けと目線で合図された。会議室前にいると職員室側から入った宮丈がドアを開けてくれた。


 席に座ると宮丈みやじょうから単刀直入に言われた。

「政見放送、負けてないか?」

もう余裕がないことを隠す余裕も宮本先生にはないらしい。

「正直、点は取られたと思いますね。てこ入れは欲しい所です」


 宮本先生は頷いた。

「校長まで内諾は得たんだが、来年の文化祭、土・日の2日間開催の試験的な実施は生徒自治会から要望があれば応じる。これでなんとかならんか」

「宮本先生。これを生かそうと思ったら、正面からぶつかるしかないですけど、それはかまいませんか?」

「具体的には何だ?」

「選挙規則を見ていたんですけど、討論会の開催を要求できる規定があります」

「あれは任意開催で立候補者が開催要求して全候補者合意があれば出来るというものだったんじゃないか」

さすがに宮本先生も選挙規則はよく見ていたらしい。知っていた。


「はい。今の状況だとお互いイーブンぐらいの情勢ですし、お互い3年生へのアプローチは困難です。多分1年生は加美のせいで相当荒らされそうですが、2年生で挽回の機会がないわけじゃないですし、それは向こうでも危惧している事のはずです。加美は討論会で相手を圧倒した事があるので成功経験から応じましょうって言うだろうし、古城もそういう勝負を好むところはあるって聞いてます」

「生徒自治会、というか選挙管理委員会が手続きして行う分に学校側が介入することはない。交渉して進めてくれ」

ここで考え込むかと思ったら宮丈みやじょうはあっさり勝負に乗ると言ってきた。ちょっと意外だったがそうと決まれば早いほうがいい。

「わかりました。ではすぐ吉良を説得して選挙管理委員会に申し入れします」


 俺は会議室を出るとすぐ中央校舎1階の空き教室の吉良陣営選挙事務所に向かった。下校時間までには話をまとめてしまいたいな。

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