第2章 告示日

6月 1日 告示日1:三重陽子「冬ちゃん、緊張している?」

古城ミフユ


 6月1日(木)生徒自治会会長選挙告示日の日がやってきた。放課後、私は肇くんと陽子ちゃんと落ち合うと中央校舎1階にある生徒自治会会議室へと向かった。


「結局、立候補者の噂は聞かなかったな。とはいえ立候補受付期間は1週間もあるから、手を挙げる奴が出てくるかも知れないから気は緩めるなよ、古城」

「了解」

「ひょっとして冬ちゃん、緊張している?」

「そりゃねえ。学級委員長だってやった事ないのに大それた事しようとしているなあって感覚はあるから」

「古城、そういう学級委員長をやらされてきた親友二人がおまえなら出来るって思うからついて来てるんだから自信を持てよ。ここまで来たらお前なら出来るっていうかやらせるからな」

「ははは。流石は肇くん容赦ないね。うん。二人の助力があれば出来ると思ってるから。よろしく」


 会議室のドアの前に着いた。私は両脇に立つ陽子ちゃんと肇くんの顔を見て頷くとドアを開けた。


「2年A組の古城ですけど、立候補届を提出に来ました」

中では現生徒自治会長の大村先輩の他に選挙管理委員となった1,2年生の学級委員長が何人か詰めていた。そして何故か生活指導の宮本先生も会議室にいた。


宮本丈治みやもとじょうじ


 生徒自治会長選挙、思わぬ人物が立候補するらしいとの話は2年B組、E組の学級委員長が選挙管理委員の辞退を宣言した所から始まった。


 すぐB組担任の吉川先生、E組担任の小川先生に依頼して探りをいれてもらったが、吉川先生は日向に言い負かされ、小川先生はどうやら私の依頼自体が気に入らなかったらしく三重からは聞き出せずに終わっていた。彼らの交友関係からおおよその察しはついたものの、彼らは2年になってクラスがバラバラになっていて、しかも校内では会わなくなったようで尻尾が掴めずに終わっていた。


 こうなるともう立候補届を見て公約を確認するしかない。私は昨日、生徒会長の大村を呼び出すと生徒自治会会議室の選挙管理委員会で立候補届の受付を立ち会う旨伝達した。そう、これは命令であって要望ではない。彼は一瞬反対しようとした感じがしたが、受け入れない理由を見いだせなかったようで「どうぞ」と言われて放課後になると会議室へと入った。


 16時過ぎ。立候補者はやって来た。2年A組の古城だった。意外な感じがした。日向と三重の交友関係を担任らに確認した時、名前が挙がってきて家の関係で帰宅部というのは聞いていた。交友関係から言えば最右翼ではあったものの帰宅部という要素を考えれば普通は立候補なんて出来ないだろう。何故、古城なのか。分からん。


古城ミフユ


 私は立候補届を選挙管理委員の子に渡そうとした。すると宮本先生が割り込んで届けを選管委員の子から取り上げて内容を読んだ。

「古城、制服の見直しというのは本気か?」

「本気です」

「生活指導教諭としてこのような事は認める訳にはいかない。この部分は取り消してくれ」

「何故ですか。今の制服だって80年代に生徒自治会の取り組みでブレザーに変ってます。前例はあるし生徒自治会が動いて悪い問題だとは思えないのですが」

「そういう問題じゃない。学校が決める事で生徒が決める事じゃないんだ。おまえらが言い出して良い事じゃない」

「先生のその主張、根拠規則を示して下さい。立候補を考えるようになって私も規則類は読み込みましたが、生徒自治会で制服の変更について学校に要望する事を禁止する規則はありませんでしたし、今のブレザー制定という前例すらあります。宮本先生の要求を受け入れる理由が見当たらないです」

「勘違いするなよ。私は頼んでいるだけだ。古城、嫌か?」

「無理ですね。ますます理が通りません」


 宮本先生は私への説得を諦めると大村先輩の方を向いた。

「大村、この立候補届は受理保留にしてくれないか」

大村先輩は生徒自治会選挙規則のペーパーを確認すると宮本先生に無理ですと言った。

「先生の顔を立てて部活終了時刻までは保留にしますが、それまでに何か規則を示されないならその時点で受理します。規則上は即日受理を求めているのでこれ以上は無理ですし、僕の知る限り古城さんの意見は正しいと思いますので、何か規則上の理由を示されるのであればそれまでに願います」

宮本先生は怒りそうになったが堪えたらしかった。

「分かった。じゃあ部活終了時刻の19時までは保留にしろ」

そういうと宮本先生は大慌てで教室を飛び出して行った。


 大村先輩はあきらめ顔で私達三人に言った。

「悪いけど19時までここで待機してくれるかな。用事とかあるなら連絡が取れるようにしてくれたらいいけど」

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