5月 8〜9日 前哨戦:日向肇「さて、ルビコン川は渡ったな」
日向肇
5月連休明けに開催された総務委員会で選挙管理委員会の立ち上げについて議題が上がった。選管には総務委員会メンバーたる学級委員長が中心で運営して、会計委員会や風紀委員会のメンバーにも手伝ってもらう事になっていた。当然のことながら立候補者ならびに推薦人、選挙運動に協力する者は参加を出来ないことになっていた。なので学級委員長で会長選に関わる人は決まった時点で速やかに報告、表明する事が求められていた。
大村先輩が委員会の開催を宣言した。
「これより総務委員会を開催します。議題は選挙管理委員会の立ち上げですが、委員の中で立候補または推薦人を引き受ける予定の人はいますか?」
陽子ちゃんが先に手を挙げた。先越されたな。
「私は会長立候補者の推薦人となる予定なので参加出来ません」
続いて俺も手を挙げた。
「俺も会長立候補者の推薦人をやる予定なので参加出来ません」
大村先輩は淡々と俺たち二人への対応を行ってくれた。
「他にいないか。……じゃあ三重さんと日向くんは生徒自治会規則に従い選挙管理委員会のメンバーには入らないものとします。立候補や推薦人を引き受けると決めた人はその時点でいいので速やかに報告をお願いします。二人は申し訳ないが廊下でこの議事が終わるまで待機して下さい」
今日の議事はこれしかないはずだけど緊急で議題提案する人がいたらまずいので廊下に椅子を持って出て待機する事に同意した。
三重陽子
肇くんが言った。
「さて、ルビコン川は渡ったな」
「誰が探り入れてくるかな」
「学校側はあるんじゃないか」
「そうかもね」
私はスマフォをポケットから取り出すと冬ちゃんにメッセを送った。彼女からもすぐ返事が来た。
陽子:総務委員会で選挙管理委員の辞退をお願いしてきました。肇くんは「ルビコン川を越えたからトコトン行くよ」って言ってるからね。
ミフユ:ありがとう。いろいろ大変になりそうだけどよろしくお願いします。
15分ほどで会議が終わり私達は再び会議室へ呼び戻された。特に追加議題もなくそのまま閉会となった。みんな興味津々でこちらを見ていたけど、流石にこの場で誰を推薦するのかという無粋な質問は出ずに何も効かれることなく下校する事が出来た。
大変だったのは翌日だった。朝のホームルームで担任の小川由子先生から昼休みに職員室に来て欲しいと言われたのだ。行ってみるとB組の肇くんもやっぱり同様の呼出を受けていたようでB組担任の吉川弦先生の前に立って何やら話し込んでいた。
小川先生は私に来てもらってごめんねと言ってから本題に入った。
「三重さん、会長選の推薦人やるって聞いたけど本当?」
「はい。昨日の総務委員会で大村会長に報告しましたけど」
「ちなみに誰が立候補するのか教えてはくれないよね?」
「はい。今、それを本人以外が言うのは選挙権への侵害になる恐れがあると思いますので答えられません」
「分かりました。当然の回答だし聞いた私が悪いのでごめんね」
「どなたか聞かれたんですか?」
「まあ、いろいろあってね。ごめんね」
そういうと小川先生は私を解放してくれた。
廊下に出るとちょうど肇くんも出てきた所だったので一緒に2年生の教室がある校舎へ戻った。2階の渡り廊下を並んで歩く。
「肇くん、結構熱いトークしてなかった?」
「誰が立候補するのか教えろっていうから選挙権侵害で押し返してたよ。吉川先生、結局反論できずに諦めて帰れって言われた。陽子ちゃんは?」
「似たようなものだけど、誰かに聞かされた感じね。答えたくないって言ったら小川先生、あっさり解放してくれた」
「E組の小川ちゃんはいいよなあ。A組の岡本先生は去年の文化祭あたりからいろいろ話を聞いてくれるようになったから良かったけど、うちのはダメだな。生活指導意識が強すぎる。今日の差し金は多分、生活指導の宮本先生か教頭先生あたりじゃないか?」
「私もそんなところかなって思ってた」
2年生は渡り廊下の突き当たりにある北校舎の2階に教室があった。私は西側の一番端、彼は渡り廊下より東側に教室があったので渡り廊下が終わった所でお互いに手を振って左右に別れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます