4月 7日 始業式2:ミフユ「どうせやるなら徹底的に。私のモットー」

三重陽子


『ごちそうさまでした』

三人で合唱。マスターはニヤリとしていた。


 再び制服の話に戻った。そして冬ちゃんがこの日最大の爆弾を私達に投げてきた。


「うちでお母さんとこの話をした時、変えたいなら生徒自治会長になって学校と交渉するしかないだろうねって言われた。私は誰かに変えてもらうのを待つ気はない。ただ、これは私一人じゃ出来ない。是非二人に助けて欲しいと思っている」

「そういう話ね。生徒自治会長立候補には推薦人二人必要だものね」

これは昨年の選挙で知った知識。当然二人とも知っているはずだけど確認の意味を込めてあえて口にした。

頷く冬ちゃん。

「古城が過激だとは知ってたけど、一足飛びにそこまで考えたのか」

「どうせやるなら徹底的に。私のモットー。そして母と話していたら交渉するにはどのポジションを狙うべきかとアドバイスされた」

「なるほどな」

 冬ちゃんは言った。

「二人には私が立候補する時の推薦人になって欲しい。そして当選した時は執行部の三役にも入って欲しい。でないと考えている不条理、不合理をなくす努力は手すら付けられないから。大変な事になると思う。だからゆっくり考えて。選挙告示日は6月1日だし、まだ時間はあるから」

 私達二人は冬ちゃんの言葉に頷いた。

「分かった。協力するか、しないかはちゃんと決めて返事する」


日向肇


 家に帰るという古城と別れて陽子ちゃんと二人で駅まで歩いた。総論として異論はない。選挙戦まで手伝うのも構わないし友達としても助けたい。問題は古城が当選した暁に生徒自治会役員を引き受けるかどうかだ。ちょっと踏ん切りが付かないねという所でこの日の話は終わった。


 2年のクラスでもまた学級委員長を引き受けた。なり手が早々いる訳でもないし、慣れているからさほど気にならないし、陽子ちゃんもどうせやっているだろうから、彼女がいるなら学級委員長の集まりである総務委員会もまた楽しからずや、という所でさっさと立候補して対立候補も出ずにB組の委員長となった。


 数日後の放課後に今年度第1回総務委員会が開催された。今の執行部は前の執行部の失態を知っているのでちゃんと事前連絡が来る。良きことかな。そしてそこでD組の吉良小夜子と出会う事になった。

 吉良は悪い奴じゃない。ただ真面目すぎる。去年は風紀委員会に属していて制服の着こなしについていろいろと口やかましく言っていた。そして2年D組の学級委員長として総務委員会でもっと風紀取締強化を提案してきた。

「制服はちゃんと着用してこそ美しく見えるのに、ネクタイの締め方などだらしない人も多く見受けられる。もっと各学級委員長が風紀委員に協力してクラスの引き締めに当たるべきではないのか」

 3年生で昨年の選挙では神村会長から禅譲されるはずだった副会長を破って当選した大村先輩。さらりと吉良さんの提案に対して見解を述べた。

「吉良さんの意見は分からないでもないけど、総務委員会の総意としての取り組みをすべきほどの状況じゃないと思うけど」

と軽くいなして結局、

「各クラスで大事にならないように注意して風紀委員を助けていこう」

という玉虫色の中身のない結論を出して閉会となった。


三重陽子


 委員会終了後の帰り、肇くんと一緒に帰った。

「なんかむかつく話だったなあ」

「肇くんがむかつくとか余り言わないのに。そんなに頭にきた?」

「人の事をとやかく言って正したがるのは、あまり好きじゃないんだ」

「大村会長が今回はああして止めてくれたけど、もしそうじゃなかったら歯止めはなさそう」

「俺もそう思うよ」


 この時点で私達は冬ちゃんを応援して関わっていくしかないと思った。

「肇くん、1年間とっても忙しくなるけどいいのかな?」

「言わなかったっけ。俺、中学校の時、一応生徒会活動はやってたんだよ。古城の奴、学校側との折衝とかお母さんのアドバイスはあると思うけど、俺もそういう知識はあるし活動自体の免疫がない訳じゃない」

「聞いたことなかったなあ。肇くん、中学校の時は何をやってたの?」

「副会長。名前だけだったな。2年生の時、1年生で選挙好きな奴がいてあやうく会長選に立候補させられそうにはなったけどそいつからは逃げ切った」

「そこまでラブコールされても断ったの?」

「あいつ、お飾りの会長が欲しかっただけだったからね。そいつは翌年会長になって色々ときちんとした仕事をやってたよ。水面下では学校側にすごく敵も作ってたけどね。表に出させなかった所が凄かった」


 そんな話をした後に私達は立ち止まってスマフォで冬ちゃんに「この間の話、回答するけどフルーツ・パフェを奢ってほしいな」と送ったのだった。

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