【エタるな!危険】エターラセヌワールド

ボンゴレ☆ビガンゴ

【エタるな!危険】エターラセヌワールド

「突然の独白から失礼する。俺は神野光一じんの こういち。何の変哲も無い高校三年生だ。物語の始まりが自己紹介から始まるのは、少女漫画のようで少し恥ずかしいのだが、止むを得ない事情があるので勘弁していただきたい。

 というのも、すべてはあの日に始まったのだ。

……といって回想シーンに入りたいのは山々なのだが、セリフを終わらせるわけにはいかないので、すべて俺のセリフで説明させてもらう。すまない。先に謝罪しておく。ごめん。

 さて、俺はネット小説を読むのが好きなのだが、ある日、めちゃくちゃつまらないネット小説を見つけてしまった。もう本当につまらないのだ。だが読み進めれば面白くなるかも、と思い読み進めていたのだが、二ヶ月前から更新が止まってる。

……くそ!エタっていやがった。

 時間の無駄だと後悔した。なんだよ、とむかつきながらその日は寝た。そしたら、夜中に突然目の前が真っ白になって羽生やした美人の天使が現れたんだ。そして言うんだ。『私は天使。私の物語を読んでいただきありがとうございました。実は私、神様の命により、文章による世界創造の修行をしています。でも、続きが書けなくなってしまって…… よければ、感想を頂戴したいのですが』と。状況に面食らいながらも、俺は正直に言った。

 『くそつまんなかった』と」


 その時、勇者は自分の感受性が乏しいことを棚に上げ酷いことを言ったのだ。

彼が高校三年生になった今も童貞を貫いているのはその性格がねじ曲がっているせいであろう。


「……おい、勝手に入ってくんな! 今は俺のセリフの最中だろう! ったく、油断も隙もありゃしねえ。で、俺はその作品がつまらない理由を教えてやったんだ。

 ストーリーが単調。場面転換が突然でついていけない。感情描写が下手、セリフがダサい。と。すると天使は頬を膨らませて怒り出して『あなたの感受性が乏しいだけです!』とか叫んで俺に掴みかかってきたんだ。俺だってただ殴られるのは癪だから応戦したさ。お互いボコボコ。そしたら、突然稲光が光って、神様が出てきちゃったんだよ」


 

 白い髭を蓄えた老人。ガリガリで骨と皮しかないくせに食い意地張ってるし、天使のお尻をすぐ触ろうとするセクハラじじい。それが神だ……と、勇者は思った。



「思ってねーよ! てか知らねーよ!お前の評価だろ! あぶねえな、こいつ人の思いすら捏造しようとしてきやがった。

 で、出てきた神は天使を叱ったんだ。『人間界の者に暴力を振るうとは何事じゃ!』と、そしてついでに俺にも怒鳴るんだ。『天使とはいえレディに暴力を振るうとは何事じゃ!』って。

 俺は正当防衛なのにさ。神はなんかプンスカ怒って二人に罰を与える、とか言い出したんだ」


 ちなみに、天使が神の罰を受けるのはこれで七度目だった。


「て、天使! お前、問題児じゃねーか!ったく、巻き込まれる身にもなってみろよ。それで神に与えられた罰はこうだ。


【天使の世界創造の修行に協力すること】


 神が言うには『世界とは物語』で『物語のない世界は世界ではない』んだって。なので、女神が作り出す物語に登場人物として参加し、物語を盛り上げろ。と、こう言うんだ。それで今、俺は天使が作り出している小説世界に送り込まれたってわけだ。だけど、この天使がまあ使えない。聞けば今まで一作もきちんと書き上げたことがねえと言うんだ」



 勇者は無駄に長くて中身のないくそみたいな語りを終えると、聳え立つ山にその眼を向けた。険しい山の奥にシェルナンド神殿の白い建物が見えた。



「ちょ、急にストーリーを始めるなよ!ったく、まあいい。俺は今、シェルナンド神殿に向かっている。だが、なんのために向かっているのかまでは知らねえ。全然説明文を入れねえんだもん。謎から入って読者を惹きつけるって演出方法もあるけれど、主人公である俺がわかってねえから、全然セリフに重みが出ねえよ」


 と勇者は言った。だから説明をするわけではないが、実はこの世界は復活した七体の魔神によって暗黒世界に作り変えられそうになっていたのだ。

 そして、シェルナンド神殿にそのうちの一体がいるという情報を風の噂で聞きつけた勇者は長い旅の末に、ついに神殿の手前までたどり着いたのだった。



「ちょっと待て。神殿の手前まで辿りついたって今言ったけど、ちょっと前に『険しい山の奥にシェルナンド神殿が見えた』とか言ってるじゃねえか。そんなこと書いちゃったから、もう険しい山が目の前に出てきちまってんだよ。山越えねえと、神殿にはつかねえぞ? お前、本当思いつきで文章書くのやめろよ。てめえが適当に『長い旅の末に』とか言うから、急に体が重くなったぞ、長旅の疲れが急に具現化しやがった」


 勇者の服は長旅でボロボロであった。


「ったく。ほら、急に服が破けたよ、もー。それだけの力がお前の描写にはあるんだから、気をつけて文を書いてくれよ。 絶対、勇者は死んだ、とか手がちぎれた、とか書くなよ? あ、今『生き返った』とか書けばオッケーだとか思ったろ? 馬鹿野郎。オッケーなわけあるかい、死ぬ側のことを考えろ。手がちぎれるなんてメンタル完璧にやられるからな。直せばいいってもんじゃねえんだぞ。わかったら、できるだけ穏便に世界を救うようなストーリーを続けんかい」


 勇者は独り言が多くてちょっと気持ち悪い。

 さて、勇者の気持ちの悪い独り言は無視して話を進めよう。険しい山の向こうにシェルナンド神殿を見た勇者は、意を決しその神殿へ向かった。山越え谷越え海越えて、道無き道を歩き神殿に向かったのだ。

三ヶ月かかった。



「……ぜぇ、はぁ。て、てめえ。だから気軽にそんな文をかくんじゃねーよ! 文字上では二行でも、こっちじゃ本当に三ヶ月経ってるからな!お前が何の考えもなく、三ヶ月かかったとか書くから! それに簡単に山越え谷越えとか言うな! 標高8000メートルはあったわ!あんなもん、普通の高校生が登れるかい! 世界屈指の難所だわ! しかも、軽く海まで越えさせやがって! 海はそんなに気軽に越えらんねーんだからな! 乗船券買う金もねーんだよ。なぜか?って。昨日お前が書いたよな! 『勇者はスリに全財産盗まれてしまいました』ってよ!  お前が無駄に物語に味を出そうとしたせいで全財産だからな! いいか、全財産だぞ!貯金とか、ローンで買った鎧とか、そこらへんの財産も根こそぎスられたんだからな! どんなスリだよ! 神業か! もっと慎重に文字を綴れ!こっちゃ、三ヶ月なんて妙なリアリティを込められたから、行間の裏をかいてイカダを無理やり作って越えたんだよ!海を! クラーケンに襲われて死ぬかと思ったわ! ま、退治したけどよ!  いいか! 何度も言うがこの物語を完成させない限りお前も俺も元の世界に帰れないんだぞ」



 勇者は叫んでばかりだ。だが、そんな勇者も実は知らないことがあった。なんと、この物語はネット小説のとあるコンテストに応募されるのだ。文字数は20000文字まで。そこで優秀な成績を残さないと神様から更なる罰が二人に与えられることになっていた。これは天使だけに伝えられたことなので、勇者は知らないのだ。


「き、聞いてねえぞ! なんだそれ!」


 勇者が知る必要はない話であった。彼はただ素敵な旅をすればいいのだ。だが、今の時点ですでに2500字も書いている。つまらない勇者の語りのせいだ、これでは読者は離れてしまう。それでは、二人とも元の世界に帰れない。



「マジかよ、大事なことは先に言えよ!」



勇者は怒った。怒りのあまり血管が浮き出してる。感情をコントロールできない男なのだ。困りものだ。


「怒るわ! なにちょっと個人の感想入れてきてんだよ!」と勇者は言ったが、その間も鼻毛がちょっとでてる。


「こら、やめんか!そういう無駄な文入れてると20000文字越えてしまうぞ! それにしても、こうして歩いているが、目的のシェルナンド神殿はまだなのか」


と、勇者はやたらストーリーを先に進めたがっていてうざかった。


「こら! こうなったら頑張って盛り上げっからお前もちゃんとストーリーを面白くしろよ!」


 などと至極当たり前のことを言う。この話がつまらないわけがない。自分の感受性のなさを棚に上げて、勇者はまたしても愚かな発言をしたのだった。


「……相当ひんまがってんな、お前。まあ、とりあえず歩くしかねーのかな。ま、仕方ねえか」


と、勇者は言った。


「ともかく、世界を救うため、シェルナンド神殿に、出発だ!」


勇者は手を上げて力強く叫んだ。


「どんな敵が来ても俺は負けねえぜ!」


大きく頷いて勇者は誓った。


「……こら!地の文!てめえもうちょいあるだろ! それじゃ話が全然進まねえよ! いちいちセリフの動作とか描写しねえでいいから! 場面変えろよ!チャキチャキ進めねえと話がまとまらねえぞ! 七人も魔神が復活してんだろ?」



 え? そうだっけ?



「こら!普通に会話してんじゃねえよ! てかお前が序盤で言ったんだろ!七人の魔神が復活してるって、てか魔神なのに7人って人っておかしいだろ、人じゃねーよ、魔神だよ!こいつマジで行き当たりばったりで小説書いてるな」


 勇者がそう言った時、巨大なモンスターが現れた。


「ぬあっ!! 突然だな、ちくしょう!」


 モンスターはよだれを垂らしながら雄叫びをあげると、大きな爪で襲いかかる。


「ふん、そんな大振りな攻撃、見え見えなんだよ!」


 勇者はその攻撃を避けながら、攻撃した。


「とおりゃー!」避けられた。


「なにー!!?」


 モンスターは長い尻尾を振り回す。16個の瞳が怪しく光り、プロペラで空を飛びながら勇者に突撃した。


「おっと、あぶねえ。てか、どんな姿のモンスターなんだよ!全然見えてこねーよ!」


 勇者は血に染まる肩を抑えながら叫ぶ。


「っておい!なんだ、今の攻撃食らってったのかよ! 避けた感じのセリフ言っちまったよ! くそ、肩をやられたのか。急に痛え!」


 痛みに耐える勇者。モンスターは攻撃が当たったのが嬉しいのだろう。ぴょんぴょん跳ねている。


「ぴょんぴょん跳ねてるって、どんなモンスターなんだよ!」


ジャンプする度にモンスターのヒラヒラのミニスカートからパンツがチラチラ見えたものだから、勇者は困惑した。


「……するわ!困惑もするわ! パンチラモンスターってどんなモンスターだよ!


「ふふふ、あたいの爪は世界一よ!」


「……誰!!?」


モンスターは獣人なのだった。


「女かよ!」


実は男の娘なのだ。


「男の娘かよ!」


萌えキャラなのだ。この作品のお色気担当キャラにしようと思ってる。


「おまえ、だからそういうのは直接的にいうモンじゃねーっつうの! もっと表現とか工夫して可愛く見せろよ!」


勇者は地団駄を踏んだ。その正面でめちゃくちゃ可愛い美少女モンスターはくねくね艶かしく身体を動かして勇者を誘惑している。


「勇者ぴょん! あたいを仲間にしてくれぴょん!」


「唐突にキャラ付けしようとすんな! お前、さっきまで爪を舌舐めずりとかしてたんだろ! プロペラで空飛んでたろ!一貫性なさすぎ!!それに目が16個とか言ってたじゃん! 読者置き去り!!」


 もう、重箱の隅をつつくばっかりの人間っていうのがいるのだ。大変、不快だ。

さて、不快人間ナンバーワンの勇者はピョンピョンの愛くるしさに鼻血を出しながらも、つまらないツッコミをわざわざ大きな声で叫んだ。本当につまらないツッコミだったので、大地が凍った。


「ぐお、鼻血!てか、寒っ!! てめぇ、だからそうやって人の話を聞かねーで力技で話を進めんな!ってかなんだ!ピョンピョンって!こいつの名前か!?  名付けセンスなさすぎだろ!」


「ピョンピョンは種族の名前だよ。あたいの名前はヨーコ。ピョンピョン族のヨーコだよ。よろしくね、勇者様」


ピョンピョンは種族の名前だった。勇者は早とちりしたのだった。恥ずかしい勇者であった。


「ちょ、こら!なんで、そうやって俺のせいみたいにしてんだよ! お前が書いてるんだろうが! てか、ヨーコだ? 名前はもうなんでもいいけど、語尾にぴょんってつけるんじゃねーのかよ!設定は徹底しろよ!」


 勇者はピョンピョン族の美少女ヨーコを仲間に加え、シェルナンド神殿の最深部にたどり着いた。


「こら!唐突すぎるだろ!場面転換がっ!」


 さっきそうしろって言ったのに、言葉に一貫性がない勇者だった。


「不機嫌になるなよ……」


 その時、すごい大きな声が聞こえた。


「ふははは。私が第一の魔神ココアだ!」


「名前センス!!ペットか!!」


 魔神はすごく強い攻撃を繰り広げた。


「ぐわー!!す、すごく強い! としか言えねえよ!!描写!! 読者が逃げる!」


 女性読者は戦闘シーンに重きを置かないという話がある。頭の中で戦闘描写をイメージしづらいからだ。だから、戦闘結果だけがわかればいいや、とセリフだけを読み、地の文は飛ばす傾向にあるようだ。


「知らねーよ!!俺には必要だよ! 対処ができねえよ!」


 わかったよ。うるさいな。

 魔神はその巨大な鉤爪を右斜め前方から時速300キロというスピードで勇者の上腕二頭筋あたりに向かって十時の方向から切りつけるというフェイントを見せたのに、前方に一回宙返り、そして側転を二回決め不敵に笑った。


「ぐっ素早い……って無駄な描写したくせに結局何もしてねーじゃん! ほら、反撃反撃!こっちからも攻撃だ!」


 勇者のおならスラッシュが炸裂! 魔神をやっつけた。


「おならスラーッシュ!!ってなんじゃそりゃ!!! 一撃で倒しちゃってるし!!アクション性皆無!!」


「へへ、やるじゃねえか。俺も仲間にしてくれ。これでも昔は学生チャンピオンだったんだぜ」


 なんと魔神が起き上がり、仲間になりたそうにこちらを見つめているではないか。勇者は過去の罪を許す。そうして、新たな仲間が勇者のパーティーに加わったのだ。


「ちょ、ちょ、ちょー!! 魔神を仲間にしちゃダメだろ! 魔神は封印しないと、結局世界は暗闇に包まれたまんまになっちゃうんじゃねーのかよ!」


「えへへ。仲間も増えたし、ヨーコも頑張るぴょん!」


「うお! お前、いたのか」


 こうして、仲間も増えた勇者はその後、五人の魔神を倒し、残る魔神は後一体となった。


「だから!!展開!! 見せ場は!? 何が面白いの!? これ!!」


「勇者ビン、おいら、勇者ビンと出会えて本当に良かったでやんす」


 最終決戦を控えたキャンプ地で、ケビンが涙ながらに勇者の手を取った。


「だ、だれ!?」


「おいらだよ、ケビンだよ。第4魔神のケビンだよ。おいらに正義の心を目覚めさせてくれたじゃないか」


 そう、あの悪逆の貴公子と言われた第四魔神ケビンだった、とても強くジャイルとメシベは死んでしまったが、二人の尊い犠牲により、彼女は正義の心を取り戻したのだった。


「か、彼女って? ケビンは女なの?」


 勇者は自分以外が全員女というハーレムパーティに所属していることを、思い出した。先ほど転んで頭を打っていたから忘れていただけだった。


「ああ、思い出した。そうだった。そうだった……っておい! おいらって言ってるぞケビン。てか、第一魔神も女だったの? それより! ジャイルとメシベって誰じゃ!!あと一番初めの仲間は男の娘じゃねーのかよ!ツッコミどころしかねー!!頭おかしくなる!!」


……などと、仲間と楽しく談笑しながら、勇者は進んだ。あたりはすっかり砂漠地帯だった。すごい砂煙で前が見えない。死の恐怖を感じていた。勇者はラクダに鞭を入れる。この砂嵐を早く抜けなければ。


「く、くそー、なんて砂煙なんだ!これじゃ前が見えねーよ。ってか、俺はいつから砂漠でラクダに乗って旅をしてたんだろ?」


 勇者はラクダの殺し食料にした。


「と、唐突!? なんで? なんで殺す!?」


 勇者にとって、ラクダは移動手段なだけではなく、非常食だったのだ。神に感謝にラクダを解体し、余すところなく食す勇者。遭難していて、とても過酷な旅の途中だ。世界を救う旅は甘いものではない。


(へ、俺っちもやっかいな依頼を引き受けちまったぜ)勇者は眩しい太陽を睨んだ。


「……え? 遭難してたんか、俺。つか勝手に心の中を文字にするな! そんななんで急にちょっとハードボイルド的な口調なんだよ俺」


……思いつかない。


「……は?」


 もう無理、思いつかない。


「な、何が……?」


 この後のストーリー。もう私ダメ。全然、思いつかない。


「えっと……なにそれ? まじ?」


 全然、思いつかなくて、たまたまサバイバルのドキュメンタリー番組見たの思い出して、なんか砂漠のシーンにしちゃったけど、全然話のつじつま合わないし、はぁ。もう嫌。


「だって、今までだって別に話のつじつまとか合ってなかったぞ?」


 やっぱりそうだよね。小説の才能ないって本当は気がついていた。でも、認めたくなかった。私には才能があるんだ。そう思いたかった。頑張ろうって思った。でも、ダメ。もう書けないの。


「突然何言い出してんだよ。砂漠で遭難してんだよこっちは! 早くストーリーを進めてくれよ」


 ダメ。もう何も思い浮かばない。【勇者は眩しい太陽を睨んだ】って書いてから実は二週間経ってるの。あれから、一行も進んでないの。


「ちょっと、おい。天使まじか?いやいやちょっと待ってくれよ。お前が完成させきゃ物語のキャラクターはどこにも動けねえんだよ。そういうのエタるっていうんだぞ、頑張ってなんとか終わらせろよ!」


 無理。


「いやいやいやいや!! 困るって!!俺、元の世界に戻らなきゃいけないんだって!」


 無理。


「待て待て、心を閉ざすな! な? 一緒に考えよう! 協力するから! 一緒にこの物語を最高のエンディングに導こうって!な!?」


 うう、あんた優しいのね。でも無理。もう何にも出てこない。違う話なら構想はあるんだけど、この話はこの後どうしていいかわかんない。


「どんな話なの? そのアイデアを生かしてこれをまず完結させようよ!」


【サイバージイちゃんとバーちゃん】ってSFなんだけど。


「やめよう。忘れよう。それは一旦忘れよう、わかった。俺がなんとかする、俺がセリフでなんとか旅を進めるから、お前はできるだけ俺の話に合わせた地の文を書けばいいから、それでいこう」


 うう、できないよ。もう死にたい


「大丈夫だって! ってか、すげー病んでるじゃん。大丈夫かよ」


 はぁ。リスカしよ。


「やめえい!! よ、よし。じゃあ今から最終決戦だー! 魔神を倒して、この世界を平和に導くぞー! お前ら、準備はいいか!?」


「……おい。」


「なんか言えって。」


……やっぱり無理。


「オーマーエー!!本当頑張ってくれ! 頼む! この通りだ、土下座してる!な? なんとか地の文だけでいい。淡白でいい。やってくれ!」


わかったよ。


「よし。じゃあ、改めて、頑張るぞー!」


勇者は叫んだが、もう誰もいなかった。たくさんの戦いで傷ついた仲間はそれぞれ、故郷に帰っていたのだ。


「ちょーい!!今さっきまでなんかいたろ、仲間っぽいの!」


 いない。勇者はひとりぼっちだ。私と同じ。世界なんて作れない。世界なんて変えられない、どうせ世界なんて私の知らないところで回り続けて……


「ヨーーーシ!!魔王城に忍び込んだぞー!!」


……ちょっと、勝手に地の文に割り込まないでくれる?


「おっと! 目の前にモンスターだ! ドラゴンタイプで火を吐くぞ! こりゃ強敵だ! さあ!武器を持って! 勇者の攻撃だ!」


 はぁ。わかったよ。

 バシーン。勇者の攻撃がドラゴンに当たった。ぎゃー。ドラゴンは死んだ。物語の都合で殺される何の罪もないモンスターたち。彼らの魂に救済はあるのだろうか。ない。なぜならこの物語を書いているのは私だから、世界を救う物語を書くために無意味に仲間を殺して来た、私が一番死ななければいけない人間なのだ……


「や、やったー!!宝箱があるぞー! よーし開けちゃおー!わあ!!最強の剣があった!これでさらなるパワーアップだ!」


 うるさい。


「な、何がだよ。俺はお前の物語を完成させるために、今頑張って魔王城を攻略してるんだよ!」


 魔王城って何。この世界を闇に陥れようとしてるのは七人の魔神だし。魔王なんて出てこないし。


「……そ、そうだっけ」


 はあ。はいはい。つまらないストーリーだから重要な敵についても忘れられちゃうんですね。私が悪かったです。すいません。


「い、いやいやそんなことねえよ! その、これはあれだ。魔神のさらなる黒幕として魔王が居たって設定なんだ。な? そうすりゃ変なとこはない!」


 じゃーそれで、いーや。

 魔王が現れた。魔王はすごくなんかめちゃくちゃ強そうなふいんき(なぜか変換できない)で玉座に座って偉そうな感じで勇者を見下した。


魔王は言った。「俺、魔王。お前倒す。世界。闇。俺、望む」


「片言外国人かよ!」


魔王の攻撃。勇者に100のダメージ


「どわ!!いきなりのダメージ!!ってか基準!!俺のヒットポイントがいくつなのかわかんねーからダメージ受けた時の対応ができねーよ」


勇者のHPは105に決まってるでしょレベル20なんだから。


「知らねーよ!!てか、瀕死!! 俺、瀕死じゃん!!」


もう、なんかバッドエンドにしよーかなー。


「ダメダメダメ!!ダメ!それはダメ! 幸せにするの! 世界を! バカ!」


だって現実の世界だっていつも紛争地域があって人は争い続けてるんだよ。平和なんて訪れるわけないじゃん。物語の中だけ平和で幸せってバカみたいだもん。あーもういや。


「めちゃくちゃネガティブ!! ……く、こうなったら俺がどうにかするしかねえ! たー!! 必殺勇者スラッシュ!」


 そんな技ない。あと、ダサい。


「ぐぬぬっ! 傷つくことを言う……。な、なら直接攻撃だ! 連続切り!だー! バシーン!よーし!!倒したぞー!魔王を倒したぞー!ハッピーエンドだ!」


 だが、魔王は第二形態になった。


「な、何ー!? だが、俺は諦めねえぜ!どりゃー!クリティカルヒット!!」


 だが、魔王は第三形態になった。


「こらー!天使! 終わらせろよ! いいじゃねえか、ハッピーエンドで!」


 やだ。


「くそーー!!何を駄々をこねとんじゃ! どりゃー!!」


 だが、魔王は第四形態になった。もう、巨大化。地球と同じ大きさになりました、もう絶望です。はい、終わり。


「まだまだー!!!!ウーオーリャー!!勇者の超必殺技の勇者デスロトイヤーが炸裂だー!ものすごい攻撃力だぞ!勇者!すごーい!!」


なんで? もう諦めたっていいじゃん。戦う必要ないじゃん、どーせ物語なんて使い捨てだよ。特にネット小説なんて誰にも見られずに埋もれていくだけだよ。


「うるせー!!それでもやるんだよ!完結させるんだよ! 負けるな! 生まれちまったもんは仕方ないだろ。俺はこの世界を救うために作られたキャラクターなんだから、しっかり物語を終わらせねえと! いいか。俺もなんか急に物語に取り込まれて、こうして生きてきてわかった。こっちの世界のキャラはな、悪役も勇者もモブ役も、みんなこの物語を完結させるために存在してるんだ。どんなにくそみたいな結末だっていい。最悪、バッドエンドでもいい。ただ、途中で放置しちゃいけねえんだ」


 じゃあ、バッドエンドで。


「うおー!それはいけねえ! 勇者は世界を救う! 絶対にだ! そういうつもりで書き始めたんだろ! 今度こそ、完結させようぜ! お前だけの物語じゃねえ。俺たちの物語だ!!」


「だー!戦いは激しく続いている! 魔王の攻撃も勇者はかいくぐり、その剣を魔王へかざす!」


「魔王も負けじと呪文を唱える! 勇者はダメージを受けながらも、立ち向かう!」


「はぁはぁ、どりゃー!!傷ついても戦う! 負けない心で戦う!」


「……おい、天使! 見てるんだろ! 物語を終わらせるのはお前しかいねえんだ!」


「すごい攻撃とすごい攻撃の応酬だ! 頑張ってるぞ勇者!」


「俺は魔王と戦っている! 今、熾烈に戦っている! だけどー! 俺のセリフだけじゃ魔王を倒せねえんだよ!」


「地の文がねーと、なんとなく戦ってるとしか言えねーんだよ! すごく戦ってるぞ! 激しい戦いだぞ!でもそれしか言えねーんだよ!」


「天使!! 聞いてるんだろ!? この戦いを終わらせられるのはお前だけだ!」


「はぁはぁ……、どんな魔王なのか、俺には見えねえ。姿も形もわかんねーよ、お前が書かねえからな。でも、勝手にその姿を俺は言えない。お前が紡いだ言葉を無視はできねえ。だから、お前が地球と同じ大きさの魔王というのなら、それにだって、立ち向かわなきゃいけねえんだ。俺はちっぽけだ。だが勇者だ。お前が書く物語の勇者だ! お前が続きを書いてくれるまで、俺はずっと魔王と戦い続けるんだ! 負けねえ。だが、勝てるわけでもねえ。それでも、戦い続ける。物語が続くって俺は信じてるから、お前が戻ってきてくれるって信じてるから!」


 ……勇者の剣が光り出す。


「地の文!? 戻ってきてくれたのか!」


 あんたが勝手に一人で騒いでるのがうるさいから、さっさと物語を終わらせようとしただけよ。


「それでもいい! 戻ってきてくれてありがとう!」


 勇者は天に広がる禍々しい闇の星を見上げた。空を覆い尽くす暗闇。あれこそこの世界に眠れる七つの魔神を蘇らせた伝説の魔王アーモンドだ。


「な、名前がまた可愛らしいな……。だが、それも個性か。魔王アーモンド!世界に平和を取り戻すため、お前をここで撃つ!」


 勇者は闇に向かい吠えた。その叫び声が合図となり、勇者の剣が輝きだした。


「こ、これは……」


 勇者が実はずっと昔に修行して会得していた伝説の魔法剣、シャイニングソードだ。


「シャイニングソード……。へへ、ご都合主義だが、気に入ったぜ」


 勇者は光の剣を掲げる。その時、背後から近寄る影が。


「な、何!?此の期に及んで新しい敵か!?」


 驚き慄き振り返る勇者。しかし、その視線の先には懐かしい仲間の姿があった。


「勇者さーん! ヨーコだぴょん!」


 この作品のヒロイン。男の獣娘、ぴょんぴょん族のヨーコだ。ミニスカートが超絶可愛い。


「お、お前……、全然思い入れはないけど、来てくれて嬉しいぜ!そして超絶可愛いぜ!」


 勇者は感激のあまり涙した。


「ふ、別にいいさ。仲間と再会の涙ってのも」


「おいおい、勇者さん、我輩のこと、忘れてもらっちゃ困りますな」


「……今度は誰だっけ?」


目の前に現れたのは、ヒポタン師匠だった。


「本気で誰!?」


「我輩はお主にシャイニングソードを教えたヒポタンじゃ」


 勇者は5年前。このヒポタン師匠の元で修行をしたのだった。それはとても辛い修行だった。


「ああ、そうなんだっけ? 急に思い出してきた。そうだ、ヒポタン師匠! あなたはヒポタン師匠ですね!」


「さあ、三人の力を合わせて、最終連携奥義【シャイニングドッカーン】を放とうぞ!」


 シャイニングドッカーンはこの世界で一番強い魔法だ。すごいから魔王でも一撃で倒せるんだぞ、えっへん。


「すげー名前。でも、わかりました! 師匠! ヨーコも頼むぜ!」


「わかったぴょん!」


 三人は互いの手を重ねあい、意識を集中する。すごいエネルギーがどんどん三人に集まっていく。


「いっけぇぇ!! シャイニングドッカーーン!!」


 叫び声とともに打ち上げられた巨大なエネルギーは雲を切り裂き魔王に直撃した。


「やったか!!」


 しかし、やったか、とか言うときに限って全然やってないのがバトルものの常である。


「……ちょっとノッてきたな天使」


 勇者が何かボソッと言ってるが、誰の耳にも入らなかった。

爆煙が消えると、闇の星にヒビが入り、鋭い金属音のような超音波を放ちながら砕け散った。


「な、何か出てくるピョン!」


 ヨーコが指をさすと、そこには禍々しいオーラを放つ人の姿をした何かがいた。

全身が深い闇に包まれていて、怖い感じ。

 でも、大丈夫。

 勇者が超かっこいい技で倒した。


「うお、スピード展開!? でも倒したぞー!!! やったー!! 倒したぞ!!」


 喜びを分かち合う三人。闇に覆われていた世界が輝きを取り戻していく。枯れた花が咲き大地には暖かな光が差し、海はキラキラ光り、風は心地よい。


 世界は平和になった。


「……よっしゃー!!世界が平和になったぞー!!ハッピーエンドだー!!」


 勇者は叫ぶ。両手を突き上げたからかに叫ぶ。

 世界は再び美しい世界を取り戻した。


 人々は歌い、踊り、平和の訪れを喜んだ!

 そして、夜が明けた!



「……これで、この世界ともおさらばできるのかな。そう思うとウルウルしてきちゃうぜ」


 文字数も一万字。まあちょうど読みやすくていい数字じゃないかな、と思いながら勇者は気分良くあくびをした。

 勇者は故郷に戻っていた。


 ミルク村はのどかな農村だ。ほのぼのとした雰囲気(変換できた!)でみんないい人だ。

 こんな村に勇者は暮らしていたのだ。勇者は世界を救った。この世界も、私の心も。

 始めるのは難しいことじゃない。でも、終わらせるのは大変だ。彼が諦めずに叫び続けていなかったら、私は書くことをやめていただろう。


 今まで何作もの小説を途中まで書いて投げ出してきた。それは例え修行中の身であっても決して許されることじゃないと、私は思う。


 作り出した世界。キャラクター。彼らをきちんと書き上げてあげることが、世界の創造主たる我々の役目なのだ。


 勇者はそれを教えてくれた。今回の物語は私の物語だった。

 でも、きっと次はあなたの番。


 眠ったままの物語、もう一度始めてみませんか?


 下手くそだっていい。


 あなたの世界で、あなたのキャラクターは次の一秒を一瞬を一行を求めています。


 あなただけの物語を……。


 今度はあなたの物語でお会いできれば光栄です。




 おわり






「よっしゃー、帰れるー! 帰れるー! 元の世界に帰れるー!」


ちょっと!おわりって書いたんだから出てこないでよ!


「いや、なーんか長ったらしく締めの文が続いてたから、肩が凝っちまったよー!『あなただけの物語を……』だってさぁ!決めちゃってまぁ!」


……く、恥ずかしい。天使を茶化す王子は間抜け面ではしゃいでいたが、足を滑らせ転び、腕を折りました。


「ぐはぁ!!なんとー!!ってええ!!」


かわいそうな勇者ですが自業自得です。


「くそぉ……。やっぱり地の文には勝てん……。でも、これで本当に終わりだな、コンテスト、いい結果になるといいな」


あ、ダメだ。やっば。


「どうした?」


このコンテスト、日帰りファンタジーってくくりだった。全然、日帰りしてないよ、君。


「なんだとぉ!!俺の努力は一体何だったんだ!」


大丈夫、何とかする。


「本当か!?」


うん。

……と言うわけで。勇者神野光一はこの世界を救った。しかし、彼は日帰り勇者だったのだ!さあ次の世界に旅立て!

勇者!!頑張れ!お前の戦いはまだまだ、これからだ!!


「オーーイ!!!」





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