第26話 雀荘の四人 真剣勝負 1


「病気だな」


四人は卓を囲んで、なおかつ卓をにらんでいた。再び真剣勝負の真っ最中である。

これまではある種のお遊びだった。

もっとも、この状況で娯楽の麻雀と言っても心の休まるはずもないので、ただひたすらに時間の浪費であったと言える。

だが、今回は違う。

今回はある『賭け』をしている真剣勝負である。

勝ったら手に入るものがある。


「病気―――って帯金おびがね、じゃあこれは―――今の、外のあれは、ウイルスでああいう風になるっていうことか」


逢野は「南」ナンを出す。

ウイルスで感染して、外出したみんなが―――ああいうふうになった、姿になった。

その仕組みは薄々、勘づいていたがあまり理解したくなかった。

信じたくなかった。




「本当かよ………?」


檜垣ひがきが頬を片方あげて―――舌打ちをしそうな表情で、自分のはいを見ている。

牌を睨んでいる。

迷ったようだが、長考まではせず、七ピンを出す。


「噛まれた人間が―――症状が移っている―――。血液を、経由だ、媒介ばいかいとしているんだろう」


そう考えると、このウイルスは実にわかりやすい事例だ―――と言う帯金。

言いながら牌を眺める目はいつも通りに見える。

彼はそれほどウイルスや病気に詳しいようには見えない。

だが彼の姉が、病院に勤めているという話は、いつだったか、ちらりと聞いたことがあった。


「なぁーにを、わかった風に言ってるんだよ―――」


どうしようもないだろうが、こんなの―――。

わかりやすいなんて言い方がよくできるものだ、と竹部は小言を言う。

視線は引いツモった牌だけを睨んでいたが。


「うかつにメシも食いに行けないような状況になるとまで、思っていなかったが………ああ、どうしよう、これ―――ええい」


竹部は引いてきた二筒リャンピンを出す。

そこに帯金はまだ言葉を付け足す。


「わかった風じゃないけど―――わかろうとしているんだ………それをやめたら本当に終わりだぞ、この状況」


本当かよと何度言われても、本当かどうか確かめようがない。

確かめに行った連中は帰ってこない、確かめに外出した連中は帰ってこない。

彼らは本当が何かを知ることができただろうか―――そうは思えないし、確かめた後に命を落とした可能性がある。

あるいは命を落とした後にさらに―――彷徨っているか。

町を彷徨う―――何が本当か考えることも出来ないままに。


「飯か………飯だよな、それともう一つ―――外の様子も見てくる―――外の状況をその目で見てくるのも、ミッションのうちだな」


檜垣が言う。

言ってから、歯を食いしばるような表情になり、場を睨む。

一番背が高く、また身体の動きも多い男だった。


「一応言っておくけど、たとえ―――『この勝負に負けて外に出る事になっても』、噛まれなければ、血液感染がなければ、ちゃんと帰って来られる、そういう可能性が高い」


だから仮に四着ラスっても、文句は言うな、人生捨てたものじゃない。

帯金はそう言って、『西』シャーを出す。


四着ラスを取った人間が、この建物を出て外出する。食料を探すのと、外の様子を見てくる―――っていう『賭け』だったよな」





四人の目が、無言のままにらみ合い、交錯する。

火花が散っているのが見えるようだった。

今日ばかりは、本当に火花が見えても不思議ではない。

生きるか死ぬかの真剣勝負である。


点数状況。

東家 逢野 23100

南家 檜垣 25500

西家 竹部 29400

北家 帯金 22000


まだ全員がトップを狙える点差だった。

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