第9話 卓を囲む男 3
雀荘内にいる男たちは、スマートフォンをいじっていた。
雀荘内にいるのか、それとも果たして取り残されたのかは、まだ確定していない。
「―――で、誰か、無いのか」
「ない、とは?」
「アレだよ、連絡取れたの?」
「………お前はどうなんだよ」
言われて、黙ったのが帯金。
しかしながら、彼も冷や汗をかいていた。
近親者や友人と連絡が取れない―――そしていくつかの方法を試して、それがまともに機能しなかったところである。
「まず『ケーブル』がつながらない」
『ケーブル』は近年利用率トップのコミュニケーションアプリで、特に若者の間では、知らないものはいない浸透度だった。
「入れない―――インできない。アプリケーションごと停止になっているから」
「………他にあるだろ………檜垣、『フェイスアルバム』は、どうなんだよ。俺はやってねえから、アレ」
それも有名なSNSサイトであった。
「打ち込めねーんだよ。なんか書いてあるけど」
濃紺色の画面が、タッチしても動かない。
「―――なんか、とはなんだよ」
「なんかっていうのは―――ええと、なになに、『不適切な暴行動画が大量にアップロードされたため―――』なんたら、とか」
そのサイトは停止していた。
「じゃ、じゃあ『ウィスパー』はどうなんだ」
「止まってるよ、それも停止」
「なんで停止してる………」
「知らねぇよ開発者に聞けよ!」
「―――落ち着け」
竹部が言い、前へ進みだす。
ヒートアップしている檜垣がこのままではここで暴行動画を起こしそうだったため、口を挟む。
口をはさんだ彼もスマートフォンを見ている。
死んだような目で。
「俺見てたぜ―――『ウィスパー』が止まってない時」
帯金と檜垣が、少し息を呑み、姿勢を正す。
「え、お前の携帯は『大丈夫』なのか?」
「いいや―――そういう訳ではなく、『前』、さっきってこと―――」
近くにあった椅子にのろのろと歩き、背を預けて、ぎしり、と鳴らす竹部。
「
一つや二つの動画ではない。
「んで―――あとは見てない」
「「はぁ?」」
「駅に着いたからお前たちと遊ぶために急いできたんだよ、で、麻雀やってた」
帯金と檜垣が無表情で竹部を見ている。
「―――だいたい夕方からだな、まぁそれがだいたい夕方の事」
逢野が言う。
だいたい夕方から―――この、現象、騒ぎ、いや暴動が起こり始めた。
「もう携帯、切っておけ、電池が無駄だから」
そう言われて、顔を見合わせる帯金と檜垣。
「いや………で、でも助けとか………俺、
「繋がらないんだろ?」
今は。
「警察と救急車にもかけた。繋がらない。今はとっておけ」
まぁ、仮につながっても―――警察のパトカーが走ってここまで来られるかどうかも厳しいところだろう、と逢野は言う。
親指でスマートフォンの電源ボタンを押しっぱなしにしていた。
少し間をおいて、逢野の持っていた真っ白な画面が、黒くなった。
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