第3話 卓を囲む男 1

「―――ロンだ」


雀荘の店内の壁には、煙草たばこの煙の臭いが染みついていた。

非常用ライトが机の上に置かれ、蝋燭のような灯り生み出していた。


カーテンを閉め切った部屋の中で、卓を叩く音が聞こえる。

はいが卓を叩き、その音が部屋に響いた。

牌は八萬はちまんだった。


対面の男が、ぴくりと反応するのに、さらに言葉を付け足す大柄な男。


「『ロン』で―――2600だ。ほれ、ほれ」


「あぁ~」


「まぁ、そうくるか」


「うん、うん………」


部屋では、四人の人間が深緑色の机を囲んでいた。

麻雀マージャン

麻雀マージャンである。

四人はその盤上遊戯の最中だが、和了あがりを決めた竹部たけべの声色に、覇気がない。

その理由は和了あがりで入った点数が低いからではなかった。


「裏が乗ってないか!乗ってないな、なら三ちゃくだわ、俺三位ぃ~」


「竹部ぇ………お前、負けるってわかってるならその点数で上がるなよ」


檜垣ひがきがぼやく。


「いやぁ、点差を見ろよこれを、つまりうらが乗っていたとしたらだ―――、二着になってたんだよ………二位二位にいにい


「もう一回、もう一回だ………」


じゃら、と手で牌を掻き始める檜垣ひがき


「だから―――三人麻雀サンマにしようって言ったじゃないか、それならお前をばせる」


「馬鹿。三人麻雀サンマなんてもんは、馬鹿………。麻雀マージャンじゃない、アレは邪道………ババ抜きと七並べくらい、違うもんだ」


「………どっちが、どっち」


陰鬱に言ったのが帯金おびがね

この中では一番小柄な男だが、決して声まで小さくないはずだ―――本来ならば。

今は、状況のため、声量抑えているが。

状況―――異常になってしまった、状況。


「さぁてね―――それより」


言いながら、立ち上がる逢野おうの

身体は軽快に、卓が積み重ねられて山になっている、部屋の隅に向かう。

麻雀卓が、積み上げられていた―――暗くて見えにくいが、五つくらい集めれば、それをすべて窓のあたりに積み重ねれば―――とりあえず『持つ』だろう。

持つというよりも耐える、と言った方がいいだろうか。



この雀荘の出入り口は厳重であった。

窓も、ちゃんと、それぞれ、施錠して塞いである。

積み上げた机、麻雀の卓………それらの付近には、牌が転がっていた。

取りこぼしだ………拾い上げる。

赤い文字の「中」チュンだ。


窓の隙間は、カーテンで仕切られているのでわずかだった―――だいたいの隙間は塞いであるが、まったく見えないのはいただけない。

外の様子をこれからも知らなければならない、それと同時に、外の様子を見に行くのも禁物だった。

外出は出来ない。



カーテンを少しずらすと、そこから道路が見えた。

道路と、こびり付いた血痕が見えた。


見えている範囲は狭かった―――しかし。

町全体の状況が変わったことも、推測できた。

何かそう、『事件』が起きていると。


「それよりも――――で、どうするよ。『あいつら』はもう行ったみたいだがな」


逢野のつぶやきに、すぐに答える者は、いなかった。

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