第4話 卓を囲む男 2
雀荘。
今がどういった状況なのか、簡潔に説明できる者はこの中にいなかった。
だがつい先ほどから、外がにわかに騒がしくなり、何かの乱闘騒ぎらしいという声が聞こえてきて、卓待ちの連中が野次馬がてら、何人か外に様子を見に行った。
逢野、帯金、竹部、檜垣の四人も気になりはしたが、思ったよりもその時打っていた一局に力が入り、これに熱中していた。
それがどうやら運がよかったと気づけたのは、しばらくたってからである。
明暗を分けた。
喜々として出かけた野次馬組が誰もこの雀荘に戻って来ない―――、乱闘騒ぎの音は大きくなるというか、多くなるというか、とにかく徐々に規模が増すようでもあった。
―――流石に営業妨害だろう、どういうことなんだ、まったく―――。
と、息巻いて出ていった店主の親父は、扉を開けて出ていって一時間ほど経っただろうか、―――帰ってくる様子はない。
皆、荷物をここに置いたままどこかに消えてしまった。
ただ、消えて―――気のせいかもしれないが、『外のあいつらの人数が増えている』ような気がするという印象があった。
そうこうしているうちに麻雀での勝負がついたが、人間のものとは思えない悲鳴が聞こえたときは、身がすくむ思いだった。
あれからどれくらい時間がたっただろうか―――今も。
甲高い、無機質な音が、どこか遠くで聞こえた。
金属をたたくような音だが、 この雀荘ではない。
時折り聞こえてくる、悲鳴。
多くの、足音のような何か。
平常時ではありえない音が。
平常時ではありえないような音声が、この雀荘にまで聞こえてくる。
この雀荘の壁を叩いているわけではないらしい。
だがそれは今現在そうであるという話で、外の生き地獄がいつこの建物にまで侵食してくるかは、わからない。
次の瞬間にそうなっている恐れもある。
「麻雀をすることが出来る」
帯金が言う。
「店主さんはどこかに行ったし―――時間は気にならない」
じゃらり、と牌がぶつかる。
「麻雀をすること、しか―――できないんだよ」
逢野が、カーテンを指で弄ぶ。
「夢のような世界だな」
逢野だけが、窓の外を見ている。
狭い窓から、『あいつら』が見えない状況が続く。
とりあえずこの、大して構造が頑丈でもない雀荘の建物に、体当たりをするということは無いった。
部屋のあとの三人は、牌をかき混ぜる作業に興じている。
「まぁ、ここに逃げ込んだのはいくらか正解だったな、いくらでも時間をつぶせる」
彼らは全員、麻雀が好きだった。
好きという段階ではなく、そのステージではなく、足の裏から首までどっぷりと浸かっていた。
全員、二十代の若者だが、職場がバラバラの、互いを深く知らない者同士だった。
だが、その彼らは今。
麻雀が楽しくない、と感じていた。
そんなはずがないのに。
腕だけが、動く―――惰性で動き続ける。
「このままずっとやるっていう手もあるのだよ。次は半荘でやろうぜ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます