第2話海老沢譲司 2
勢いよく部室の扉を閉じる。
何とか飛び込んだ、その室内は真っ暗なので何も見えないが、扉にはかちゃりと、鍵をかけた。
鍵をかけることができたという事に、感動を覚える。
だが―――。
どん、どん―――
ドアの外では、何かが激しくぶつかる音。
何かが、というかあの被害者だ―――彼らは被害に感染した。
そう、被害者は何か身体の異変が起こり―――あんな身体になった。
その体当たりは、体当たりしている本人の様子を見ることは出来なかったが、手加減のなさを感じるものだった。
体当たりと、叩きつけるのは―――おそらく手だろう、爪で細かく掻くような音がする。
それは長く続いたように思えたが、ふと、急に静かになり、物音、足音が遠ざかっていった。
他に、行ったのだろう―――。
他の人間をめがけて。
「はぁ、はぁっ―――」
今になって身体じゅうが熱い、熱くなる―――が、なんとか逃げ切った。
扉の中に人がいるかもしれないと、あたりを探す。
懐中電灯はない。窓を開けて日光を入れるか?
いや、危険だ。
「誰かいるか?」
返事はない。
だがしばらくは、あいつらと顔を合わせることはない。
スマートフォンを、つける―――時刻は十七時二分。
夕暮れ時である―――ああそうか、普段ならもうチャイムが鳴り終わり、帰路にさしかかっている、時間なのか。
スマートフォンの灯りで室内を照らせば、見える。
視覚的な雰囲気で言えば、倉庫のような場所だ、薄暗いが………。
いつ帰れるのだろう、しばらくは無理だ。
高校の部室棟のどれかであるはずだから、運動部関連の場所だ。
だが、なんだろう、これは
スマホの灯りを受けて、暗闇の中で、いくつか舞う埃が白くちらつく。
灯りをつけてからしばらくして気づく。
気づいたというのは場所について。
錆びついた
二メートル四方ほどのサイズのカゴはいっている。
ボールは白と黒のモノトーンだが、その二色を仕切るラインが水色だった、いま流行りなのだろうか。
なんにせよ、野球部員やバレーボール部員が出入りする場所ではない。
「つまり―――こ、ここは」
逃げ込んだ先が、サッカー部の部室であるようだ。
「誰か―――」
呼びかけたが、奴らに聞こえるかも、と思い返し、声を小さくする。
「誰かいるのか………?」
いないようだから考え直す。
さあて、どうする。
扉の鍵は閉めてあるが、鍵だけで何とかなるとは思えなかった。
先程閉めたばかりのドアを検分する。
その強度は大して無さそうだ―――教室の出入り口のものと大差ない。
おそらく大の男が数人がかりなら壊せるだろうし、大の男数人がかりで追いかけられたことがある。
今まで追いかけられていた。
逃げおおせた、途中で振り切った。
高校の敷地で逃げ回った、というのは、クラスメイトの男子と喧嘩しただとか、はたまた校舎裏の不良ども、先輩に怖い連中がいるとか、そんなこともない。
プロレスラーみたいにスキンヘッドな先生なら、一人いたが、その性格は優しい人だった。
生徒も生徒。
別段、荒れている治安の悪い高校というわけでもなく、健全な高校生たちである。
もしも不良生徒に追いかけ回される、そういうものだったら、どれだけマシだったか。
暴力と―――その奥にさらに恐ろしいものを感じる。
やっと逃げ切ったが、もう一度追いかけ回されたら、たまったものではない―――。
扉を、背で押しながら立つ。
扉から離れるのは無理だ―――そう思った。
吊り橋から飛ぶくらいの神経がいる。
もう一度、息切れいしながら
「誰か、誰も―――いないのか」
「誰なの………?」
帰って来たのは細い、女の声だった。
お、女の声―――いや。
僕を追いかけ回していた連中の、変色した顔が―――脳裏を
部屋の片隅を、見る。
制服が、わずかな息遣いで動いているのが見えた。
顔はまだ―――
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