美那(2)

伸哉が青が好きということは元々知っていた。


伸哉は覚えていないと思うが初めて伸哉と会った合コンの時に自分から言っていたからだ。


「ねえ、ねえ。伸哉が1番好きな色って何色?」


その質問を合図に、私はわざと壊れたふりをし、伸哉と会う時だけ青にこだわる異常な女を演じた。


青いものだけを身に付け、化粧品もすべて青いものに変えた。


髪を染めるのは嫌だったので青色のウィッグを被ってごまかした。


私の計画通り、伸哉は徐々に私のことを、そして青を怖がるようになった。


そして、あの日が来た。


あの日、私は睡眠薬を入れたワインを用意していた。


そして浮気をしていたことを自ら認めた伸哉にそれを飲ませた。


伸哉はすぐに意識を失った。


その間に私は予め持ってきていた青い目薬をすべて伸哉の目の中に注いだ。


目を覚ました伸哉はパニックになり、そのまま部屋を飛び出した。


そして、そのまま……。



風が私の黒い髪を揺らした。


さっきまでいた斎場が遥か後方に見える。


私はスマホを操作して、ある人物の名前を選択した。


呼び出し音が聞こえ、しばらくして彼女は出た。


「あ、もしもし。急にごめんね。今、大丈夫?」


「うん。全然大丈夫だよ。どうしたの?」


電話の相手は聡子だ。


「あのさ。前に貰った青い目薬あるでしょ? あれまた貰えないかな?」


……裏切り者には罰を与える……。


「え? もう使っちゃったの? 普通に使えば1年は保つものだよ?」


「それがこの前間違えて全部こぼしちゃったんだ」


私は忘れていない。


まだ1人いるということを。


「そうなの? 分かった。じゃあ、また今度持っていくね」


そう、あともう1人。


私には、罰を与えなくてはならない人間がいる。


「ありがとう。あ、そういえばさ、……優香と最近会ってないんだけど、元気なのかな?」


私はそう言いながら、空を見上げた。


そこには雲ひとつない、青の世界が広がっていた。







【END】

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青の世界 岡谷千壱 @okaya

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