昇りつめた後に落ちる眠りに、必ず訪れる短い夢。

 いや、一瞬の間に頭をよぎるイメージなのかもしれない。その位あやふやなヴィジョン。

 暗闇に横たわる、大きな河の岸辺で、睡と二人、手をつないで立っている。何かが、流されていくのを見送っている。

 目に見えないのに、わかっているのだ。あの濁流の中に、あたしの、浅木への想いが、今、飲み込まれていく。

死んでゆくあの恋が流されていく、その先は、きっと海。

 あたしの手を握る睡の手に力がこもる。

 出来ることなら。あの恋を追いかけて一緒に海まで流されてゆきたいのに。

そういうあたしの想いを知っているからこそ、睡はあたしの手を堅く握って放さない。

 あのひとへの辛い恋は、あたしの人生の上で必ず通過しなくてはならない関なのだろう。ここを抜けなくては、前に進めない。

 そういう今、睡という子が立ち会ってくれていたことの意味は、いつか明確に見えてくるはず。

あたしは、睡ほど自信家じゃないから、二人の幸せな将来像なんて語れないけど。

いつか、彼と出会えてよかった、と言えればいい。

 今は、とても苦しいけど。





 台風一過の朝の光に、目を覚ます。

 バスルームからは、睡が使っているのか、シャワーの音が聞こえてくる。

今まであたしより先に目を覚ましたことはないのに。

さすがに湿っぽいシーツが気持ち悪かったらしい。

 ラジオのスイッチを入れ、シーツを剥がしにかかる。もう次の台風が発生したというニュースに、溜め息をつく。

 今年の夏は、いつまでも終わらない。

 あたしの夏は、いつまでも、続く。

 どこか秋の気配のある、あのひとの背中に、この指が、どうしても届かないように。


 どうしても、この夏を、終えられない。


-end-

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終わらない、夏。 琥珀 燦(こはく あき) @kohaku3753

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