体を拭く間ももどかしく、服のままベッドに倒れこんだ。

 シーツも枕カバーもみるみる水分を吸収して、始めは冷たかったが、二人の体温が移り、すぐに熱くなった。

タオルケットの中で、二人の体臭が混ざり合い、発酵したような甘ったるい匂いがこもった。

 雨が降る。窓の外。ざぶざぶと音止まず降り続ける。

 ごめんね。睡、ごめんね。

 彼の指を噛みながら、何度もそう小さく叫んでしまう。

・・・謝るな、バカヤロウ。・・・急くような声で囁き、あたしの耳元の髪を、乱暴に噛む睡。

 でもあなたがいなければ、あたしは狂ってしまっているだろう。あなたなしでは、きっと生きていられない。

 睡の腕の中には、浅木への想いが入り込む余地が無い。

浅木にして欲しいことを睡にさせているのとも違う。 ただ、浅木と会った後、緊張感のプツリと切れた頃に襲って来る、胸をえぐられるような虚脱感を、

睡のしなやかな身体にしがみつき、優しい情熱に身を委ねることで紛らせているのかもしれない。

 胸に、温かい雫が落ち、脇に流れた。

汗?もしかしたら・・・まさか涙? そう考える瞬間。

 彼の激しさが。あたしの体中を満たし、同時にあたしの心を空っぽにしていく。

 思わず閉じた瞼の中。白い空間に、七色の粒子が幾つも、音もなく弾ける。

雨音だけが絶え間なく流れ続けてる。

 だけど。

 その果てにたどり着く陶酔は、静かな、暗黒よりも深い、青い闇。








『美森さん、不眠症なんですって? 俺、安眠法伝授しましょうか?』

 睡との初めてのあの夜。新入生歓迎コンパの席で彼はそう言ったのだ。見るからにノンストレス人間で

他人に教えられる安眠法などには縁が無いタイプ。

『蓮見くんが? でも本っ当に重症なのよ』

『ああ、美森さん知らなかったよね。俺の名前、"睡魔"の"睡"って書くんですよ』

 今思うと、相当酔ってたせいもあったのだけど。

ニヤリと笑った睡の瞳と透明な声に、魔法をかけられたように、あたしは彼の手に堕ちた。

 そしてその夜、あたしはほぼ一週間ぶりに、誘眠剤無しで、夢も見ず、死んだように熟睡したのである。

 睡魔・・・いいえ、死神かも。終わっていく自分の生命を見送る時、

迎えに訪れる死の使いは、案外こういう安らぎそのものを纏って、ゆるりと現れるものなのかも。

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