④
体を拭く間ももどかしく、服のままベッドに倒れこんだ。
シーツも枕カバーもみるみる水分を吸収して、始めは冷たかったが、二人の体温が移り、すぐに熱くなった。
タオルケットの中で、二人の体臭が混ざり合い、発酵したような甘ったるい匂いがこもった。
雨が降る。窓の外。ざぶざぶと音止まず降り続ける。
ごめんね。睡、ごめんね。
彼の指を噛みながら、何度もそう小さく叫んでしまう。
・・・謝るな、バカヤロウ。・・・急くような声で囁き、あたしの耳元の髪を、乱暴に噛む睡。
でもあなたがいなければ、あたしは狂ってしまっているだろう。あなたなしでは、きっと生きていられない。
睡の腕の中には、浅木への想いが入り込む余地が無い。
浅木にして欲しいことを睡にさせているのとも違う。 ただ、浅木と会った後、緊張感のプツリと切れた頃に襲って来る、胸をえぐられるような虚脱感を、
睡のしなやかな身体にしがみつき、優しい情熱に身を委ねることで紛らせているのかもしれない。
胸に、温かい雫が落ち、脇に流れた。
汗?もしかしたら・・・まさか涙? そう考える瞬間。
彼の激しさが。あたしの体中を満たし、同時にあたしの心を空っぽにしていく。
思わず閉じた瞼の中。白い空間に、七色の粒子が幾つも、音もなく弾ける。
雨音だけが絶え間なく流れ続けてる。
だけど。
その果てにたどり着く陶酔は、静かな、暗黒よりも深い、青い闇。
『美森さん、不眠症なんですって? 俺、安眠法伝授しましょうか?』
睡との初めてのあの夜。新入生歓迎コンパの席で彼はそう言ったのだ。見るからにノンストレス人間で
他人に教えられる安眠法などには縁が無いタイプ。
『蓮見くんが? でも本っ当に重症なのよ』
『ああ、美森さん知らなかったよね。俺の名前、"睡魔"の"睡"って書くんですよ』
今思うと、相当酔ってたせいもあったのだけど。
ニヤリと笑った睡の瞳と透明な声に、魔法をかけられたように、あたしは彼の手に堕ちた。
そしてその夜、あたしはほぼ一週間ぶりに、誘眠剤無しで、夢も見ず、死んだように熟睡したのである。
睡魔・・・いいえ、死神かも。終わっていく自分の生命を見送る時、
迎えに訪れる死の使いは、案外こういう安らぎそのものを纏って、ゆるりと現れるものなのかも。
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