『僕と稲荷神社』その弍

「あんた方何処さ♪ 肥後さ♪ 肥後何処さ♪ 熊本さ♪ 熊本何処さ♪ 船場さ♪ 船場山には狸が居ってさ♪ それを猟師が鉄砲で撃ってさ♪」

「主様。」

「んー? 如何どうしたの、右狐うこ左狐さこ?」

「その…柳玖様に本当の事を言われないのですか?」

「あのような物言い、しなくともあの御方ならば…。」

、だよ右狐に左狐。」


 鞠を突く手を止め、二人の少年を王蜜色の瞳で見やると、二人は不安と不満のない混ぜになった顔でこちらを見ていた。

 白銀の耳と二尾の尻尾。白髪に一房ずつ右狐は右に、左狐は左に、黒色に染まった髪が垂れている。右狐は深紅の水干、左狐は紫の水干を纏っている。


「ボク個人としてはね、これ以上ない程彼には良くしてもらってきた。だから…これ以上彼の枷にはなりたくないんだ。」

「「しかし…。」」

「うん、知ってる。彼はいつかきっと、理解してしまうだろう。元々勘が良くて聡い子だったからね? けどね、白狐…ちゃんと、解ってくれるハズだよ、他ならぬボクらの加護を受け続けて来た、『珀永久はくとわ』の神眼を持つ彼だからね。」

「そう、で…ございますね……。」

「無意識に『珀永久』としての御役目を理解して下さった、柳玖様ならば…。」

「「必ず、でござりましょう。」」

「きっと彼は応えてくれる。だからボクらも精一杯、もてなすとしようじゃないか。なァ…白狐らよ。」

「「御意。」」


 白狐二匹は狐の姿を取り、主たる彼の傍にはべる。お付きの二匹を撫でるコンちゃんの手は小学生のようお遊びの姿ではなく、神としての本来の姿を取っていた。

 二十歳前半のようなその男性はゆるやかに微笑むと、お付きの白狐を従え、社の奥に消えた…──。


 ***

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『僕』と『不思議』な物語 壱闇 噤 @Mikuni_Arisuin

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