2-11
◇◇◇
窓を開けると、密閉されていた部屋の空気がふっと動いた。
ソファーで寝たため背中が痛むが、致し方ない。ぐいっと背筋を伸ばすと、関節が悲鳴を上げた。
「さて、やるか」
時計盤は四時半を指している。
刀を手に取り、できるだけ物音を立てないように扉を開閉すると、修練場に改造されてある十六階に、足を向ける。
だが落胆とは裏腹に、
自然とつり上がっていた口角に苦笑しつつ、それを振り払うように柄に手をかける。
「──
鞘を横たえたところで視界をブラックアウトし、架空の敵を想像する。右足を後ろへ引き、重心は中央よりやや後ろ気味にし、十分に剣先を下げる下段の構えを取る。切っ先を跳ね上げ、刃先を右に向けつつそのまま振り下ろす。薙ぎ、刺突、払いを繰り返せば、服は水を含んで重みを増していた。霞んで見える銀の鈍い光が宙を乱舞し、残像をちらつかせる。
ようやく刀を納めたときには、喉の奥が痛いほどに乾いていた。絶えずこめかみを流れる汗を拭いつつ、少し前から感じていた気配に声をかける。
「ユリか」
「はい。朝食のご用意ができました」
「分かった。すぐ行く」
部屋に戻りすぐにシャワーを浴びた
ユリが何か言いたげにチラチラとこちらを見てくるが、
そこでようやく、ユリが口を開いた。
「
「──ッ!!?」
思い切りキュウリの欠片が気管に入ってしまい、言いようのない息苦しさと吐き気に襲われる。幾度か咳を繰り返し水を流し込むと、ようやく治まった。
「だ、大丈夫ですか?」
「……ッ、なんとか……って、違ェよ! 学園に通う!?」
「はい!
なぜか満面の笑みを浮かべ、
「本当は昨日から通うつもりだったのですが、いろいろと手間取ってしまいまして……あの、制服……似合っているでしょうか?」
そういえば、学園の女子もこのような制服を着ていたな、と思い出す。
黒を基調としたセーラー服で、鮮やかな赤色のネクタイが胸元を着飾っている。襟と袖のところには赤の三本線が入っており、厳かな印象が見受けられる。黒色のスカートのひだはきちんと整えられており、全くの乱れもない。
控えめながら、それでいてしっかりと強調されている胸の前で、モジモジと両手を動かすユリ。
なんだか
「……サラダ美味いな」
「えぇッ!? 無視ですか!!?」
「うるさい。さっさと食え。もう時間だ」
時刻は、七時五十五分。ホームルームが始まるのは八時二十分であるから着くのはギリギリになるが、そんなことはどうでもいい。
頬を膨らませているユリを横目に、
追憶のノスタルジア 奏佳(そうか) @nostalgia_1210
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