第14話 僕の可愛い可愛い妹

 伎人留学生がぽつぽつと蘇家にやって来る。

 その門前でうろうろと不審者のごとく彷徨いては、やって来る同郷の者達に声をかけられる人物が一人。

 右往左往としていると、彼はまた、やって来た同郷の留学生に声をかけられる。

「なーにやってるんだ、怜央」

「入らないんですかー?」

「楊凱、舜」

 怜央が振り向くと、つり目気味な青年と、少しだけ伸ばした髪を後ろで結んでいる少年のような友人がいた。怜央は彼らに挨拶をすると、首を振った。

「人を待っているんです。皆もう来ているから、先に入っていて」

 二人が門を潜るのを見送ると、怜央はまた通りに目を向ける。あぁ、待ち人はまだだろうか。

 この五ヶ月近く、可愛い妹と自身の生活のために必死に勉強をしてきた。その甲斐あって、泰連の滞在権利獲得の第一試練は突破できた。そのご褒美に利超が妹と会わせてくれると言ったのに……。

「言ったのに来ない……! これは何かあったに違いないのでは……!」

 昼前には来る予定だったのに、そろそろ太陽は真上にまで届く。

 心配して外に出て待っていても埒があかない。迎えに行こうにも、利超からはすれ違いになるからと止められていて動けない。

 うろうろと門前を彷徨く。あぁ、このやるせない気持ちはどうすれば。

 祝賀会は夕方からだ。それまでに来てくれれば問題は無いのだけれど……その時間になると、交流を深めるために招かれる泰連国の貴族の相手をしなくてはならないから、二人でゆったりとお喋りができなくなってしまう。

 怜央はあっちへ行ってこっちへ行って、妹の到着をそわそわと待ち続ける。

 そうやって待ち続けることしばらく。

 道の先から見慣れない二人組がやって来た。

 その珍しい二人組に思わず怜央は二度見する。

 一人は武官。度々外朝で見たことがあるその姿は、近衛羽林軍の出で立ちだ。

 そしてもう一人。ゆったりとした上等な衣を身に纏うその尊顔。一度……いや、二度、拝見したことがある。一度は泰連に来た時。二度目は、泰連への亡命を認めるという勅令を賜ったとき。

 怜央は信じられない思いで目を見張った。

 気のせいか、いや気のせいではない。

 道のど真ん中でどうするか。怜央は一瞬で解を導き出す。

 答。明ではないので気づかないふりで無視する。

「……」

 怜央が門前で木偶のように突っ立っていると、何故か珍妙な二人組は彼の前で立ち止まった。

 そのうちの、武官ではない方が怜央に声をかける。

「君。ここは蘇家の邸であっている?」

 なぜ自分に聞くのか、厄介事はごめんだ、自分には可愛い妹を待つ仕事があるのに……と思いながらも、上部だけはにこやかに取り繕って答える。

「はい。ここは蘇利超様のお屋敷でございます」

「そうか。君はこの屋敷の人?」

「……このお屋敷にご用でしょうか」

「ああ。……というより、蘇太師と、彼のところに居候している留学生に会いに来たのだけれど、呼んで貰えないかな?」

 蘇太師に用があるのはよくわかる。なんたって三槐なのだから。目の前にいる人が内々の話などするために訪問するのはまぁ理解できる。呼びつけないで、ほいほいと出歩いているのはよく分からないが。

 問題はもう一人。居候している留学生。すごく嫌な予感しかしないのだけれど。

 怜央はじっと珍客二人を見据える。一瞬だけ逡巡して、にこやかに対応する。

「お呼びしますね。ご案内しますので、中へどうぞ」

 お前を待っていたのではないのですけどね! と思いながらも、下手な対応は出来ないので望むままに中へと通すことにした。

 もしかしたら利超があらかじめ呼んでいたのかもしれない。それに、訪ねてきたこの方なら可愛い可愛い妹のことを色々と話してくれるかもしれないという下心も少しある。

 怜央は淡い期待と、外で可愛い妹を出迎えてやれないことに悲しい気持ちを交えつつ、広い蘇家の邸の奥を目指した。

 ところで何故、目の前にいる尊い人は何故女物の衣装に身を包んでいるのだろうか。甚だ疑問だ。




「これはこれは主上。如何されましたかな。この老いぼれ、今日ばかりは屋敷のことに手一杯でして、お相手できるのはわずかばかりとなりますが」

 利超の部屋に例の珍客を通せば、利超は招かれざる客のことを主上と呼んだ。怜央はやっぱりかと眉をひそめる。

 自分の勘違いだと思いたかったが、記憶に間違いはなかったようだ。と、なると一緒にいるのは主上付きの武官と名高い如宇澄だろうか。

 静月が利超と向かい合って椅子に座る。

 家人らしき女性がお茶を淹れて退出するのを見送って、静月が口を開く。

「もう一人呼んだはずだけれど……何も言わずそこにいるということは、もしかして君が居候の留学生だった?」

 怜央は利超の後ろの方に立っていたが、声をかけられ、静月の側に回る。膝をつき深く礼をとった。

「挨拶が遅れました。僕は蘇利超様にお目をかけて頂いている珀怜央と申します。まさか泰連王がお出でになられた上、自分のような者が指名されるとは思わず、名乗るのが遅れた事深く非礼をお詫びいたします」

「気にしなくていいよ。面をあげて。……蘇昭容も泰連語が上手だったけれど、君はそれ以上に達者だね」

「それはそうでしょうなぁ。怜央は長期留学生として何年も泰連で過ごしているのです。それで下手なら留学生なんぞやっておれんでしょう」

 感心する静月に利超が笑う。

 顔を上げた怜央は静月に 「君も座ってくれ」と言われ、利超の隣の椅子に腰かける。

 怜央が腰を落ち着けたのを見届けると、いよいよ静月は本題に入る。

「利超、蘇昭容のことなのだが……」

「なんです? うちの可愛い妹が何かいたしましたか。惚れてもあげませんよ」

「……」

「……」

 利超に話しかけたのに怜央が反応した。

 その反応速度に、静月だけではなくその場の全員に沈黙が降りる。

「……いや、そういったことではなく」

「それともうちの妹が可愛くないとでも? 伎国一の愛らしさは大陸でも通用するほどだと思っていたのですが、泰連王の目は節穴か」

「いや彼女は確かに可愛らしいけれど……いや、そうじゃなくてだね?」

 可愛いとか可愛くないとかではなく。

 話が進まず、静月の顔がひきつっている。急ぎの話をしに来たのにこれでは話が切り出せないと、肩を落とした。

「蘇太師……」

「失礼、これは妹君のこととなると少々どころかだいぶ阿呆になってしまうのだ。同席を願った手前、諦めることだな」

 肩を震わせ笑う利超を、静月がじろりと睨む。

 睨まれたところで利超は痛くも痒くもないから、目を細めて笑みを浮かべたままだ。

「主上、急がないと……」

「分かっている」

 宇澄の言葉に静月はため息をつく。

 焦ってもなにも始まらないと、冷静な思考を欠かないためにもゆったりと構えていたけれど、これはもう少し焦りを見せた方が良かったのかもしれない。

 静月は話を進めるために、懐から一通の文を取り出した。

 差出人はなく、宛名も書かれていない。

「これを読む前に一度聞こうか。蘇昭容は蘇家に来た?」

「ふむ……もう昼過ぎになるというのに報告はまだ受けていないなぁ。怜央はどうだ?」

「馬車を見送ってからずっと門の前に立っていますがまだ来ていません」

 朝から怜央の姿が見えないと思えば、ずっと門前でうろついていたらしい。利超はため息をつく。これなら御者に一緒に連れていって貰えば良かったかもしれない。

 そんな二人を前に、静月はやはり……と頷くと、文を示す。

「これを今朝、蘇昭容の護衛をさせていた宇澄が持って帰って来た」

「ふむ……」

 文を開けば流暢な筆跡で文字が綴られている。

「蘇家の使いと名乗った馬車を見送った直後、迎えに来た男から文を預かったといわれ、宇澄が近くにいた子供からこの文を受け取った。近くを捜索してみると、薬で眠らされた御者たちを見つけた。かなり強い睡眠薬だったみたいだから、彼らはこちらで保護しているよ」

 利超は文を開いてじっくりと中を確認する。

 ひとしきり目を通すと、その文を怜央にも渡す。

「……こんなものにうちの明が引っ掛かったと?」

 文を読む怜央の目が段々と据わっていき、読み終えた時には底冷えするような声を発するほどになっていた。

 文の内容は明らかに明を誘拐したことを匂わせる文章だった。

 取引の内容は留学生の強制送還。次の満月までに動かなければ、留学生の代わりに明を海へと流すという。

「強烈な排外主義者ですね」

 怜央は吐き捨てる。

 利超は今にも文を破り捨てそうな怜央から文を奪うと、もう一度じっくりと文を見た。

「それで? これを馬鹿正直に鵜呑みにしたと?」

 文を奪われた怜央は静月にその矛先を変えた。

 この手の取引は、応じたところで人質の命の保証はない。

 怜央の視線は鋭利な刃物のよう。

 静月は正面から一身に受け止め、ひたと見つめ返す。

「……だが実際にここへと来ていないんだろう? 蘇昭容がいない以上、これは信憑性が高いと言わざるを得ない」

 ただ、明を誘拐した犯人の意図が分からない。

 伎の留学生が泰連に帰化するのが受け入れられないのか、はたまた伎国に取り入るつもりか。だいたい目的はこの二つに絞られる。

 どちらにせよ、誘拐するのはわざわざ難しそうな明ではなく、そこらの留学生でよかったはずだ。それをしなかったのは何故か。

 明自身もまた伎人なのだ。彼女を伎人だと理解して敢えて誘拐したのか、それとも事の重大さを知らしめるための人質に最適そうな人物だとあたりをつけただけなのか。そこを見誤ると、最悪の事態になりかねない。

 静月は見えない紐の瘤をほどいているような感触がした。自分が正しく解を得ているのか分からない。もしかしたら検討違いな事を考えているのかもしれないという不安がのし掛かる。

 その不安を払拭するために、静月は教えを請いに来たのだ。

「蘇太師はこれをどう見る」

 利超は文から顔をあげると、ふむ……と自身の髭を撫で付ける。でもすんなりと答えはしないで、怜央に話を振る。

「怜央、お前はどう思う」

「手際が周到すぎます。前々から計画を立て、機を伺っていたと見るのが妥当でしょう。それで、場所は特定できているのですか? 文には場所も何も書かれていない。当然、追っているのですよね?」

 相手がこれから世話になる国の王だというのに、怜央は遠慮も何もなくばっさりと切り捨てた。

 その言い様に、静月があからさまに不機嫌になる。

「君の妹が大変だから、私がわざわざ出向いたというのに、そんな言い方で良いの?」

「脅すつもりなら徹底的にしないと侮られますよ。ま、でも愚問でしたね。貴方が今ここにいる事は評価に値しますから。僕たちから出向けば貴方に話を通すだけでも時間がかかる。なので間違いなくこの一手は最良の選択でした。案外、噂というのも宛にはできないものですね」

 怜央は不敵に笑う。

 静月としては、貶すのか誉めるのかどちらかにしてほしい。

「この一手を無駄にするわけにもいかないので早い内に手を打ちたいと思いますが……利超様、どうします?」

 怜央がちらりと利超に視線を向ける。

「……どうするも何も。することは一つだけだ。留学生を港に連れていくしかあるまい」

 文を折り畳むと、利超は微笑んだ。

 だが静月は利超から目を逸らす。笑ってはいるが、目が笑っていない。

「……連れて行ったとして、その後はどうする気だ。彼女の安全と留学生数十名の安全では釣り合わないし、そもそも留学生が納得しないだろう。彼らは蘇昭容が伎人とは知らないのだから」

 留学生は自らの意思で泰連に残ることを決めたのだ。そしてそれを国は条件付きで許可した。

 一度許可しているのに、それを取り消して港に連れて行くのだ。すんなりと連れていける訳がない。さらにいえば、国の決定を覆すために朝議にもかけなくてはならない。

 具体策の無い今、何の考えもなく明日の朝議にかけても良策を得ないまま時間を無為にするだけだ。

 当然、妃が一人消えたくらいで後宮は困らないという意見も出よう。蘇利超一人が損害と不名誉を得るだけで済む。天秤に架けるものは最初から決まっているのだ。

 それなのに、明を天秤にかけるべきではないと、静月の心が訴えている。

 訴えているから、最善を得ようと城を抜け出してここに来た。

「……泰連王、一応聞きますが、僕の妹をどうするつもりですか」

 怜央が見定めるように言う。

 きっと静月が明と留学生数十名では釣り合わないと言ったからだ。

 ここを間違えれば、怜央の信頼は得られない。

 静月は深く息を吸った。

 胸の奥まで吐き出して、面をあげる。

 自分の胸の内にくすぶるものを、慎重に言葉していく。

「勿論、助けるよ。私は何事にも無感動だと思っていたけれど、彼女を見ていると忘れてしまったものを思い出せるような気がする」

 怜央は目を閉じた。

「……そうですか」

 怜央の溢した呟きは、静かに静月の耳へと浸透してくる。

 その一言に何を込めたのか、静月には分からない。ただ、それは受け入れてもらえたような響きを含んでいる気がした。

 怜央は目を開くと、静月を見据え淡々とこれからのことを述べていく。

「僕らが後手に回っている今、あらゆる可能性を見捨てることはできません。けれど先にも言った通り、貴方がここにいる事実は得難いものです。妹を貴方の元へやるのは癪でしたが、少なくとも馬鹿ではなかったことに感謝しなければなりませんね。まぁ阿呆には違いありませんけれど」

 先程からの怜央の上から目線に静月はうんざりする。こちらが余所者の彼を見定めるのはともかく、どうして自分が見定められなければならないのか。

 その事を指摘したかったが、ここは我慢する。自分の事よりも、誘拐事件の方を優先するべきだ。

 静月が落ち着くために一口茶を飲む。

 茶碗を卓子に戻したところで、怜央が次の言葉をかけた。

「……利超様から聞きました。王子が敗れ、王弟が王位に着いたと」

 静月は驚いて涼しい顔をしている利超を見る。その報告は聞いていない。

「この段階で強制送還されれば、僕らは間違いなく反王弟派として処刑されるでしょうね」

 王弟が王位についた事が分かった今、おいそれと留学生を国に返すという選択肢は取りたくない。

 かといって何もしなければ明がどうなるか分からない。

 八方塞がりになった。

 知恵を貸してもらうためにここへと来たのに、それが裏目に出てしまった。独断でさっさと動いてしまえば良かったのかもしれない。

「ま、それは僕らが送還させられた場合に限ってですが」

 事も無げに言い切って見せた怜央に、静月は怪訝そうな顔をする。

「どういうことだ?」

「簡単なことですよ。行きたくなければ、行かなければいいのです。その上で、可愛い可愛い妹も返してもらうのです。僕みたいに愛が深ければ場所など関係なく四六時中把握していますから、相手の裏をかくのも容易いですよ」

 爽やかな笑顔でそんなことを言うから、思わず静月は顔をひきつらせた。利超も呆れた顔をしているし、宇澄は一歩身を引いた気配がした。

 そんな三者の反応を見た怜央は、その笑顔を絶やさないまま「冗談です」と言う。

 冗談じゃなかったらただの危ない人だ。

「僕も人間なので四六時中把握はできません。ですが大体の見当はつきます。その場を取り押さえて犯人と直接取引をすることは可能です。ね、利超様」

「そうだなぁ」

 話を振られた蘇太師はぬるくなってしまった茶を一口飲む。

 ずいぶん話し込んでしまっていたらしい。

 早くしないと祝賀会が始まってしまうから、そろそろ。

「主上よ。主上はどこに娘が隠されたと思う」

「伎国に行くのであれば港だろう。確か一番近いのは東南の……」

 港の名前を思い出そうとする静月を、怜央が一刀両断する。

「時間がかかりすぎる。陸路で行けば馬を乗り継いで夜通し駆けることのできる僕らは十分追い付けます。それに満月まで待つというのだから、少なくとも次の満月までは王都近辺に潜伏する可能性の方が高いです。うっかり追い越して姿を見失うなど、愚の骨頂」

 怜央は唇の端を上げた。

 なんだか仕草がいちいち利超に似ていて、静月の癪に触る。

「……陸以外を通ってどうやって港に行く」

「昔聞いた話ですが、春原国の故事にこういうのがあるそうです。急がば回れ。急いでいる時ほど、遠回りするのが最善なのですよ」

 怜央の言葉に静月はきょとんとする。

「どういうこと?」

 けれど怜央はそれ以上なにも言わない。今重要なのはそこではないから。

「ま、故事の意味はともかく。泰連王、皇帝ならば自分の国土くらい把握しておかないと足元をすくわれますよ」

 怜央が笑うが、全然目が笑っていなくて静月は目をそらした。

 地位を持ちながら胡座をかくなと、言外に言われているようで少し腹立たしい。

「さぁさぁ、さっさと動きますよ。泰連王は僕の指示通りに動いてください。そうしたらきっとうまくいきます。大丈夫、自分と可愛い明の命がかかっているので下手な手は打ちません。むしろ奴等に明をさらったのは悪手だったと知らしめてやりましょう」

 この留学生を敵に回すと厄介だと、静月は悟る。

 よくもまぁ利超がうまく手綱を握っているなと感心すらする。たぶん、彼を扱えるのは利超のような狡猾な者か、彼自身の原動力となっている明くらいか。

 これは何がなんでも無事に明を助け出さないと、後が怖い。

 一人で身構えている静月とは裏腹に、「ところで」と怜央が切り出した。

 全員が怜央に注目する。

 そして怜央が大真面目な顔でこう言った。

「泰連王は実は女性だったのですか?」

 宇澄と利超が吹き出した。顔を背けて肩を静かに震わせる宇澄と、笑っていることを隠しもしないでにやつく利超に、静月は半眼になる。

 静月はこほんと咳払いを一つすると、艶やかな薄紫の絹の袖をそっと持ち上げて、ゆっくりと首を傾けた。

 髪に差した歩揺ほようがしゃなりと鳴った。

「まさか王がそのまま外へと出歩く訳にはいかないだろう? 変装術としてはなかなかの出来だと思わない?」

 静月が僅かに口角を上げて、目を細める。

 大陸の美姫すら裸足で逃げ出したくなるほどの美しい静月の微笑みを見た怜央が、したり顔で頷いた。

「確かに。私も最初、こんな趣味をしたのが泰連王だとは思いませんでしたので」

「……」

 女装姿の時に、宦官から告白されたこともある静月は、思いがけない怜央の言葉にぴしりと固まった。妃の「月影」時の幽霊話と同じくらいに称賛の声しか言われなかった静月の愕然っぷりに、宇澄の腹筋が試される。利超は笑いすぎたのか涙が出てきていた。

 怜央は胸を張ってふっと笑った。

「明の男装の方が、少年らしさと少女らしさの中間にあるような神秘的な性別を彷彿させていましたし、何より庇護欲をそそる愛らしさがありました。それを思えば、美しいだけの泰連王はまだまだですね」

 頓珍漢な駄目出しをした怜央に、とうとう宇澄の腹筋が耐えられずに体をくの字に折ってしまった。

 静月は笑っている宇澄は後で罰則を与えようかと思案しつつ、変装術について駄目出しをしてくれた怜央へ今度個人的に話す機会を設けようと思った。

 実益を兼ねた趣味となりつつある変装術。極めるためにはこういった批判的な意見も聞くべきである。

 そして、泰連王であると知っても尚、物怖じせずに面と静月に意見する珀怜央という男はとても貴重な人物であるのだと知った。

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