傲岸不遜のグリモアール

幽玄の奏者

第1話 誕生!五年後!

彼を知る者は語る。彼は産まれた瞬間から神の寵愛を受けていた、と。それを信じぬものは居ない。何故ならば、彼はまごうことなき神童だからだ。


――――

アルシュトア歴309年。この国アルシュトアが創立されてから既に三百年の歴史が過ぎている。このアルシュトアが創立されたのは終戦直ぐだ。平和な世の中になった今。三百年も過ぎるのは当然と云えば当然なのかもしれない。


「オギャァァァァァ!」


産声が響き渡る。赤子は父親譲りの黒髪だった。歓喜の声が上がる。


「ルナシアよく産んでくれた」

「えぇ……。あなた、名前は?」


夫婦である二人の周りには数多の使用人が控えていた。それは、この家が裕福であることを物語っていた。 


「レイ。この子はレイ・アーカイブだ!」

「ふふっ……良い名前」


そんな夫婦を見ながら、レイと名付けられた赤子は思っていた。


(これが俺の親なのか……………)


レイは、前世の記憶を持ち転生しているようだった。何故なのか分からない。輪廻転生はまだ良いとしても、前世の記憶を持っていると困る。だって、赤子は……………。


(いや、こんな美人の胸を好きに出来ると思えば役得か?)


レイはそんなことを考えながら、周りに目を向けていた。


(使用人が沢山いる?それに部屋もベッドも大きいし……………まさか貴族の家系?)


だとすれば、不自由なく暮らせるということだ。おまけに、四歳ほどだろうか。母親と同じ赤色の髪をした美男子がいる。これが、長男だとすれば、家を継がなくても良いわけだ。大抵の貴族制度は世襲制だ。


(しっかし、イケメンすぎだろ……………)  


それは、兄に対してでもあるし、父に対してでもあった。呆れていると、レイはあることに気付く。


(なら、俺もイケメンってことか!?)


五年の月日が流れた。五年の間に色々なことがあった。ハイハイを頑張ったり、立つのを頑張ったり。


「おとうさま」


レイは呂律が回らなく、たどたどしいものの、言葉を話せるようになっていた。


「レイか。どうしたんだい?」

「べんきょう、したい」


その言葉を聞いた父――ラルフは嬉しそうに顔を綻ばさせる。

  

「なら、家庭教師を付けようか。レイは何のお勉強がしたいんだい?」

「魔術」

「ま、魔術かい?で、でも危ないしなぁ」

(やっぱ、異世界といったら魔法でしょ?)  


レイはこの五年でここが、剣と魔法の、所謂異世界であるこたを理解していた。だとしたら、魔法だろう。男の夢、ロマンだ。


「魔術」

「………なんで『魔術』だけハッキリ喋れるのかなぁ」

「分かったよ。考えてみよう」


溜め息をつき、最終的には折れた。だが、まだ確実に教えて貰えるわけではない。ラノベのように魔術本を呼んで天才だと騒がせれば良いわけではない。為るべく、騒ぎは起こさない。それが、前世の記憶を持っている俺の生き方だ。


「あ、レイ!」

「おにいさま」


十歳となったおにいさまことアルフレッドは既に家庭教師を付けてもらい、沢山のことを学んでいた。なんでも、槍の才能があるらしく使用人に騒がれていた。


「今日は何して遊ぶ?」

「あれ、しよう」

「え、ええー!あれ、をやるのかい?」


アルフレッドと遊ぶのは日課になっていた。前世の記憶を持っているといっても、全てを受け継いでいるわけではない。多少、自律しているだけだといっても過言ではない。

閑話休題。

さっきから口にしてる『あれ』は、簡単に言えば悪戯だ。この家の騎士の一人であるクロウを困らせるというものだ。幼稚な遊びだが、中々楽しい。


「ねぇねぇ、クロウ」

「レイ坊っちゃん、どうかしたんすか?」

「結婚、まだしないんですか?」


 若くて、気軽に話せる彼はメイドの一人と付き合っている。それを、知っているのは俺らだけだ。なんで、知っているかはまたいつか。


「いっ!?ちょ、ちょっと声が大きいっすよ!」

「クロウとーラ」

「あー!あー!分かりました、分かりました。今日は何すればいいんですか?」


これもいつものやり取りだ。名前を大声で叫ぼうとすると絶対にクロウは従順になるのだ。


「おとうさまに、くちぞえして」

「ええ?口添え……………ですか?」

「え、と。レイは家庭教師を付けてほしいみたいなんだ。魔術に興味があるんだって」 「なるほど、そうでしたか。まぁ、出来るだけやってみます」

「ありがとう」

「いえいえ」


そう。最初からこれが目的だったのだ。これで、俺は魔術を学べるぞ!



 




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傲岸不遜のグリモアール 幽玄の奏者 @03020118

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