エピローグ

 二日降り続いた雨が止んだ、三月の土曜日。


 すっきりと晴れ切った青空は心地よく、天気予報によれば風も穏やかで気温も二十度近くまで上がるらしい。


 そうなるともう、混み混みになるのが分かり切っている。


 制服に袖を通して、髪をひとつ結びにする。日焼け止めは塗ったし、化粧もオッケー。安全靴を履いて、つま先を床に打ち付ける。

 腰のポーチを確認。ペンライト、ボールペン、サインペン、ゲスト頒布用シールに、ミニノート。本日のショースケもオッケーだ。

 ロッカーに備え付けた小さな鏡で前髪をチェック。軽く笑ってみてから、ロッカーを閉めた。

 ロッカー並びを出て、歩き出す。


「ヒラ」


 声をかけられて振り返ると、私服姿の花ちゃんと剛くんが立っていた。


「あ、おはよー」

「おはよん。イチいり?」

「うん。花ちゃんと剛くんはこのあとだっけ?」

「うぃっす。今日は一緒の現場のはずっす」

「あ、だっけ。よろしくー、わたし今日リーダーだから」

「あーい。んじゃ後でー」


 ひらりと剛くんが手を振ってロッカールームへ消えていく。うーん、眠そうだ。


「今日めっちゃ混みそうー。あー、気が重い」

「それを回すのは、本日はわたくしです。助けてね、花ちゃん」

「好き勝手動いてやる」

「助かります」


 笑うと、花ちゃんもウヒッと笑い返してきた。ぱちんっと手を打ち合うと、そのまま花ちゃんもロッカールームへ入っていく。


 さて、そろそろ向かうか。


 歩き出す。オンステージ直前で、背の高い後ろ姿を見つけた。マキちゃんだ。


「おはようございます」


 駆け寄ってあいさつすると、マキちゃんも笑って挨拶を返してくれた。


「おはよ。今日はよろしくねー」

「はーい」


 横に並んで歩き出す。


 あれから、マキちゃんは何度もさと子さんと話をして、結局、正社員の話を受けることにしたらしい。


 そうなれば、このまま今の部署にい続けられるかどうかは会社次第になる。それは仕方ない。当り前のことだ。


 だから、マキちゃんと一緒にゲスコンをやってられるのも、もしかしたらあと少しかもしれない。それに関して、マキちゃんは困ったように報告してきたけれど、別にそれはいいかな、って思えた。部署移動は、仕方ない。でも、キャストとして一緒に働いているなら、場所が違ってても、いいかな、って思える。


 望み通りにいくことも、いかないこともあるけれど、でもま、そんなもんなのかもしれない。


 オンステージに入る直前の姿見で、最後に自分の姿をチェックする。マキちゃんも同じ仕草をしてから、ぽんっ、とわたしの背中を叩いた。


「さ、行きましょ、平澤」

「はい」


 わたしたちは並んで、オンステージに足を踏み出す。




 さあ。お仕事をはじめよう。

 青空を背景にしたこの巨大なステージで。

 全てのゲストにハピネスを届けよう。



 ――この、夢と魔法の王国より。





End.

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