第二話:美味しい林檎の贈りかた

プロローグ

「はぁ、うちの子可愛い」


 目の前で、背の高い女性が呟く。美しい横顔に、ほんのりと憂いさえ浮かべたまま。

 顔を手で覆うと、ふるふる、と小さく首を左右に振る。


「無理。可愛い。無理。尊い。しんどい。無理」


 語彙力失われた腐女子みたいなことを言う。

 わたしはちらり、と視線を横に向ける。マキちゃんは人肌よりやや冷めた温度くらいの笑顔を浮かべていた。


「――ねぇ、そう思わない!?」


 突如、ガバッとこちらを振り返ってきた彼女にわたしたちが出来たのは、お愛想笑いと心のイマイチ伴わない同意くらいなもんだ。


「そうですねぇ」


 ……だってそれ以外にどうしろと。

 目の前の女性はうっとりと頷くと、はぁー、と大きく息を吐いた。

 彼女の前にある、大きな大きな鏡にそっと手を添えて。


「鏡よ鏡よ鏡さん。世界で一番美しいのはだーれ?」

『それは白雪姫です、女王様』

「知ってるー! それ知ってるー! でーすーよねー!!」


 キャピッとでも音を立てそうな動きで大げさに頷き、ツンツンッ、と鏡をつつく女王様に。

 わたしもマキちゃんも、何も言うことは出来なかった。

 しいて言うなら、たぶん、マキちゃんもわたしに問いかけたいはずだ。


 ――ねぇ、ここ、白雪姫の世界よね?


 と。

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