やることすること教えること(1)

 招待客の人数さえ把握していないというんだから、うっかり王様ぶん殴ろうかと思った。

 それでもなんとか従者さんたちを収集し、おおまかな人数を全員で把握。舞踏会会場になるホールに入りきることを確認。


 ――まぁ、なんだ。小国、なんだろう、たぶん。ぶっちゃけ、ふだん相手している入場者数アテンダンスより少ない。まぁそれでも万単位ではあるので、普通の人ならぎょっとする人数なんだろうけれど、わたしたちはまぁ、慣れていた。


 さばける人数だ。


 まずはゲスト満足度、という概念を従者さん、メイドさんたちに叩き込む――大事な国の大事なパーティーだってんなら、満足度が低いと今後の政治にも影響が出るぞ、と。


 幸い、あいさつや仕草なんかはもー、さすがとしか言いようがないレベルに達しているので、あとは動きだけである。城内の図面を出させて、ゲスト動線の確認をする。入り口は一か所。王子に挨拶するのは年頃の女性のみだとすれば、それ以外は事前にはじける。大門をくぐった後、いったん城内に入る前に振り分けする。年頃の女性とその付き添い(一組につき一人までとする)はそのまま城内ホールへ、それ以外は前庭で余興を楽しんでもらおう。落ち着いたのち、ホールへ。そうすれば混乱は少ない。


 前庭での余興は楽師隊A、もう一組の楽師隊Bをホールに配置。前庭での飲料の提供スペースも確保。ここは広さを考慮して、一か所ではなく複数個所に分散しておくことにした。祭りの屋台みたいなもんだ。ここはそれほど時間をつぶすものではないが、前庭自体がなかなかシャレオツな感じだったので、あえて庭師数名を配置。うんちく語らせると、余興の一つにもなるし、目を楽しませてくれる景色はそれだけで時間をつぶせるはず。


 一通り、王子への挨拶がすんだあたりを見計らって、前庭の客もホールへ入ってもらう。


 無線が使えりゃいいんだけどそうもいかないので、ホールと前庭をつなぐ連絡係をひとり配置。ホールの責任者、前庭の責任者もそれぞれ仕事がスムーズそうなメイド、従者に割り振った。ここにもそれぞれ連絡係を随時ひとりつける。


 ホール内では飲食提供スペースは一か所に絞った。動線の混乱を少なくするためだ。ダンススペースの確保を大前提にするため、少し不便ではあるがホール内にある螺旋階段脇に飲食提供スペース、二階に簡単な休憩所として椅子を複数配置。前庭の飲食提供スペースは常時開放にした。これにより、厨房からホールへの移動は一か所に集中出来るし、前庭での提供スペースは外周にそって配置することによりゲスト導線を邪魔しないですむ!


 ――とまぁ、そんなことをざーっと早口で説明しながら決めていく。


 正直な話。正解かどうかは分からない。普段のゲストみたいに、動きがなんとなく読めるわけでもない。SV承認もないしほかのリーダーからの意見出しもない。だから、怖い。でも。

 やるしかない。


 それから。

 ショッピングバッグに詰め込んできたものを引っ張り出して、一つずつ使い方を説明する。


 ――予備備品各種。


「これはボーンといって、木の板。ロープをしまうときはこれに巻き付けておく。ロープを張るときは、ロープを左手で押さえながら、右手でボーンを回して少しずつロープをほどいてね。そうしないとロープがたわんで、人にぶつかるから。こっちは誘導灯。ここを押せば……こう、光るから。あ、ごめん、大丈夫、ビビんないで。動力は聞かないで、説明できないから。これをこうして上にあげて、回してクロスしたら、ラインカット。ゲストをそこで止めるとか、あと扉を閉めるとか、そういう合図にしてね。人の流れをコントロールしたいときは、左手を横にまっすぐ伸ばして、右手でこれをもって、頭上でゆっくり左右に振る。そう、そんな感じ、上手!」


 随時やらせてみたり、手本を見せたり。あと褒めたり。

 褒めるの大事。超大事。

 して見せて、言って聞かせてさせてみて、褒めてやらねば人は動かじ!!


「で、あとこれはサイリウム。半分に折ると光るよ。会場内が暗くなったら、ロープや階段にこれをつけて、けが人が出ないように。誘導灯はちょっとしかないから、他の人は念のためサイリウムを一本ずつ持っておいて。合図があれば、振って教えて」


 そして、一番大事なこと。

 わたしとマキちゃんは、知っている。『彼女』が一番大事だということを。

 門番に、告げた。


「遅れてくるゲストがいても、絶対に邪険にしないで。丁寧に扱って、中に入ってもらって。そしてそれが」


 ぴしり、と指を立てる。


「若い女性だった場合、わたしに確実に素早く、おしえて」

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