第2頁 You too are oddball!
デメルザ達は近くに集落がある事を信じ、闇雲に平原を歩き続けていた。しかし、どこまで遠くを見渡しても、草地と丘が空へと消えていくだけだった。そして、丘は思いの外高く、山に近い事が分かった。
「なぁに?埒が明かないじゃないの!」
進展のなさに痺れを切らしたマリーナが、苛立ちを含んだ口調で愚痴を漏らす。
「せめてガイドでも頼んでおけばよかったのに!デリエンスからもそうやって来た訳!?」
「いや、デリエンスはガイドいた。」
シーラが応じると、マリーナの怒りは一層高まった。
「バカじゃないの!?なんでその時みたいにしないのよ!!?」
マリーナはそう叫ぶと、その場にしゃがみ込んだ。
「もう限界!!足も疲れたし!!!」
シーラとオーシャルは呆れるばかりだったが、デメルザはそう黙ってはいなかった。腕を組み、マリーナの方へ向き直る。
「お前さ、足でまといになんなら早いとこ帰ってくんない?邪魔なんだよ。」
いつもは怒鳴ってばかりだというのに、こういった時に限ってはやけに冷静で、嫌味を含んだ怒り方をした。
「だから置いていきたかったんだよ。やっぱ温室育ちのボンボンに長旅は無理だっての。」
しかしこの言葉が、マリーナを立ち上がらせた。
「ねぇ。なんでそういう言い方しか出来ない訳?友達いなくなるわよ。」
「へぇ、あたしにお友達がいると思い込んでんのか!悪いけどあたしは天涯孤独。だから暗雲も1人で消したいんだよ。」
「ほら!その暗雲も、どうやって消すのか教えなさいよ!どうせ宛なんかないんでしょうけどね!!」
シーラは呆れ、オーシャルもめっきり無視をし、この不毛な言い争いに口出しするものはいなかった。が、それもすぐに破られる事となった。
「おい!お前ら!!」
草原の真ん中で立ち往生する4人を、数十人の兵が取り囲んだ。デリエンスやカシャールでの全身を覆わずに急所のみを守る鎧ではなく、体全体を金属で覆うものを身につけている。シーラとオーシャルは戸惑いを見せたが、デメルザとマリーナは苛立ちを覚えていた。
「ちょっと、今取り込み中なの!後にしてちょうだい!!」
マリーナは激しい剣幕でそう言うが、兵の1人──恐らく隊長だろう──は怯む事なく、厳しい顔つきで続けた。
「いや、これは重大な任務なんだ。今からお前──。」
「あぁ、うっせぇよ!」
今度はデメルザが口を開いた。
「取り込み中だっつんてんだろうが!このブサ男!……んだ、その服?時代遅れ過ぎるだろ!ファッションセンスの欠片もない奴が茶々入れてくんな!!」
この発言には、流石に隊長も顔をしかめた。また、シーラやオーシャル、マリーナから見ても、彼が「ブサイク」には到底見えなかった。鋭い眼光に高い鼻、血色のいい肌は髭で覆われており、頼もしさのある風格を持っていた。
だが──。
「だからもう!!いいから来いっての!なんでどいつもこいつもオレに無理させんだよ!」
彼の表情や口調が崩れた途端、その風格も砕け散った。その豹変ぶりに4人の表情は強ばった。男は構わず言葉を続ける。
「命令だとか何だとか言ってさ……。遠いんだよ!なんで馬車とか使わずに歩いて来させようとするんだ!!」
あんまり愚痴ばかり漏らすので、流石に心配になったのか、マリーナが口を開いた。
「あ、あの……。よろしければお力添えしますけれど。」
すると男はいじけたような顔つきで、口を尖らせて応える。
「じゃあ、お力添えして。バルサート国王陛下の命令なんだよ。お前らを連れて来いって。」
戸惑う4人に、男は意地の悪いしかめ面を浮かべた。
「あれ、自覚ないの?お前ら結構な変人集団っつって有名だぜ。」
デメルザはオーシャルをつついて、からかった。
「おいおい変人だってよ。残念だなぁ、オーシャル。」
オーシャルはデメルザの手を払い除ける。
「その変人に、お前も入ってんだぜ。」
「は?どういう事だよ。」
デメルザの表情が硬くなる。
「お前も
オーシャルがキッパリ言うと、案の定デメルザは怒り出して口論になった。シーラは呆れつつも黙って見つめ、マリーナはますますいじける男の様子を見て、叱るような口調で止めに入る。
「ちょっと!!協力要請そっちのけで自分達の事始めないで!デメルザは変人!!それでいいのよ!」
この時は誰も気づかなかったのだが、デメルザ「は」と言っている辺り、自分はそうでないと思っているようだ。
「で、つまりはお城まで来いという事ですね?」
マリーナの問いに男は頷いて答える。
「そう。結構歩くけど、まぁ我慢してついてきてほしいな。今、色々大変だからさ。」
男がそう言うと、デメルザの方に全員の視線が移った。デメルザは挙動不審を誤魔化そうとしつつ、目を泳がせて睨みつける。
「な、なんでこっち見んだよ……。」
「そりゃあ、美しくて偉くて素晴らしいデメルザ様に決断を任せるだろうよ。結局振り回すのはお前だろ?」
シーラが皮肉たっぷりに言い放つ。デメルザも口答えのしようがなかったのか、静かに唸るだけだった。
そして、数分後のサベナ城。バルサート王は玉座から立ち上がると尊大な態度で足先の床を見つめ、威厳ある声音で言葉を放った。
「よく来たな、異国の者達よ。余はアトメティア国王にして太陽の神、バルサート12世である。して、余の国に何用かな?」
バルサート王は言い終えるとしばらく黙り込み、すぐ横に立って見守っていた老婆に目線をやった。
「どうかな……?」
老婆はやけに真剣な面持ちだ。
「なんとなく外見の印象と合っていないと言いますか……、カッコつけてるのがバレバレですね。もう少しフランクにしてみるとか。」
「フランクか、なるほどな。」
老婆のアドバイスを受け、王は再び雰囲気を作り、口を開いた。
「お前達が噂の異国の者共か!お前達の事は既に聞いている。この俺がアトメティア国王、太陽の神のバルサート12世だ!……どう?」
バルサート12世は再び老婆に評価を求めた。老婆は少し唸りつつ答える。
「それはそれで威厳がありませんね。これから先ものすごく協力してくれそうな雰囲気醸し出していますし。というか、その“太陽の神”は絶対に付けなければいけないのですか?」
「付けたいだろ!!これあるのとないのじゃ、全然雰囲気違うだろ?」
バルサート王は子供のように反論した。しかし老婆は首を傾げる。
「いやぁ……。今時そんなの自称しないでしょう。国王は神だという思想自体、古いような気も──。」
「いいや、いいの!これでいいの!!どうせ何処かで時代遅れとか言われてるんだろうけど。」
デメルザ達は、サヴェナ城のある丘の前まで来た。4人は呆然と目の前の丘を見つめている。
「Great...!」
デメルザが思わず呟いた。4人の目の前には丘だけでなく、その丘の頂上まで何百段と長く伸びる巨大な階段があったのだ。
「じゃ、この先だから。」
隊長らしき男はすっかり元気を失くした様子で行った。一行の間に衝撃が走る。
「まさか、ここ上がるの?」
オーシャルが恐る恐る尋ねると、男は不思議そうな表情を浮かべた。
「どう見たってそうだろ。お迎えの空飛ぶ絨毯でも来ると思ったか?」
4人は露骨に嫌そうな顔で、渋々後に続いた。
アトメティア王国の国民は、皆この丘の上に町や村を構えて生活していた。どうりで、いくら草原を歩いても町らしきものが見えない訳である。そしてこのサヴェナ城は丘の頂上いっぱいにどっしりと構えられ、石製の神殿のような造りをしていた。城下町などはなさそうだ。
「丘の上に町ってのは個人的に真新しいけど、城はちょっと時代遅れだな。」
オーシャルが自分達を連れて行く男達に聞こえない程度で言うと、マリーナは慌てて人差し指を口に当てた。
バルサート王は納得のいく登場の仕方を思いついたようで、城に入ってくる物音を耳にするやいなや、興奮した様子で玉座に座った。
「さぁ来るぞ……!!」
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