第12頁 Do a duel with people who agree.
カシャール王国を流れる川から少し離れた平野を、2方向から大勢の人間が駆けていった。そしてその間には、2手に別れてしまったデメルザ&シーラとオーシャル&マリーナが、横に抜けようと必死に走っている姿があった。
だが、迫ってくる人間の壁は思っていた以上の長さで──。
「うはぁ!?こっち来た!!」
デメルザは走りつつも左右を交互に見て、愕然とした。こちらへ来る人々は武器こそ持っていないものの、鬼のような形相で迫っている。
「おい、ちょ!止まれよ!!」
シーラは大声で呼びかけるが、軍勢は止まることを知らない。
遂に2人は、双方から挟まれてしまった。
「ちょちょちょ!!分からない!状況が分からない!」
デメルザは慌てて叫びを上げる。ぶつかり合った人々は途端に怒声を上げながら殴り合いを始め、2人は更に混乱に巻き込まれた。
「やめろって!!おい、どうする?」
シーラの声が聞こえる。
「とりあえず抜けるぞ!余裕あるか──?なんだ今の?」
背後から唸るような声を聞きつけ、デメルザは振り向きながら叫ぶ。するとシーラは、真っ青な顔で目を見開いていた。苦痛に軽く身を屈めている。
「あ!?どうしたんだ、おい!」
デメルザの問いかけにも応じず、シーラは苦悶の表情を浮かべていた。声を出す事も出来ないようだ。デメルザは理解した。
「おい誰だ!シーラのタマタマ蹴っ飛ばしたの!!」
デメルザは動けずにいるシーラの手を引くと、人という人を掻き分けて左側へ向かった。
ようやく人混みを外れる頃には、シーラは地面に額をベタリとつける程にうずくまり、デメルザはいつの間にくすねたのか、少額の金が入った袋をたんまりと持っていた。
「シーラ、死ぬな。」
「……もう死んでる。」
「死人に口は無いんだぜ。」
殴り合いの塊そっちのけでそんなやり取りをしていると、平原に人影が現れた。それは、先程人の壁が迫って来ていた方角から、早歩きでこちらに向かってくる。
「アンタ達、何してんのよ?」
人影の正体は、とびきり美人な女性だった。綺麗な赤毛を1つにまとめ、ゆったりとした白いドレスに土色のマントを羽織っている。手に持った杖の先端には顔のようなものが掘られており、不気味な雰囲気を醸し出しているはずなのだが、バンダナのような赤い布が頭部分に巻かれており、不気味さは半減している。。パッチリとした鳶色の目は、まるで獲物を狙うかのように、ひしと2人を見据えていた。
「そこの彼はなんで死んでるのよ?」
彼女はそう言うと、シーラを見つめ始めた。全く視線が動かない。
「お前さんの友達がタマタマ蹴ったんだよ。」
デメルザは呆れ気味に言うが、女性は依然としてシーラを見つめ続ける。
「それだけ?それでこんなになる?」
「女には分かんねぇよ!!」
シーラは突然顔を上げると、彼女に怒声を浴びせた。目が潤んでいる。
「分かんないわよ。当然でしょ。」
相手をするのが面倒になったのか、彼女はようやくシーラから目を逸らした。
「いいから、もうどっか行って。こんな所に居られても迷惑だわ。」
女性が冷たい口調で言い放つと、デメルザが口を開いた。
「おい待てよ。お前らのせいで連れとはぐれてんだ。そこんとこ、どうにかしろよ。」
女性は眉間に皺を寄せて、デメルザを見つめた。明らかに気分を害している。
「ワタシのせいにしないでよ。アイツらが勝手に走ってったんだから。」
すると今度は、シーラが口を開く。
「じゃあ止めろよ。とにかく弟とはぐれてんだから、なんとかしてくれよ!」
女性はしばらく2人を交互に見続けると、
「来なよ。」
と言って背を向け、歩いていった。デメルザとシーラは顔を見合わせる。
一方、オーシャルとマリーナはと言うと──。
「ねぇ、彼女〜。頼むよぉ。な?」
オーシャルは目の前の女性に声を掛けていた。
「ダメよ。何度頼んでもお断り。」
冷たい態度で接する女性は、華奢な体格とは裏腹に、重そうな鎧を身につけていた。
「なぁ、どうしてもなんだよ。僕からのお願い!この通り!!」
オーシャルは頭を下げてみせるが、女性はそれでも取り合わない。
「アンタ、自分の立場分かってんの!?」
「いや、分かってるから言ってんだよ!!」
オーシャルと女性の間には、錆びついた鉄格子があった。オーシャルとマリーナは人混みに揉まれてから突然連れられ、地下牢に入れられていたのだ。牢の隅には、うずくまったマリーナがいた。よく見ると、ものすごいスピードで貧乏揺すりをしている。
「なんでこうなってんだよ、全く!聞いてないよ!」
「言ってないからね。」
オーシャルの愚痴を、こちらの女性も冷たくあしらった。
すると突然、牢の外の扉が開き、恰幅の良い鎧姿の大男が現れた。赤ら顔だが、彫りの深い顔立ちで、鉄格子を挟んで2人の囚われ人を見据える。
「何故ここにいるのか、分かっているな?」
男が問い掛けると、2人はあからさまに不機嫌な表情を浮かべて、首を横に振った。
「嘘をつくな。あの場に居ただろう。」
男は2人の意見を全く信じなかった。とうとう痺れを切らしたマリーナが口を開く。
「我々は旅の最中に、たまたまあの場に行き着いただけですわ。貴方方が突然押し寄せて来たのでしょう。」
マリーナのきっぱりとした物言いにも、男は動じなかった。
「そんな訳がないだろう。合図は通行人が居ないことを確認してからするように言ってあるんだぞ。」
男の言葉に、2人は一斉に顔を引き攣らせた。
「合図……?」
恐る恐るマリーナが言うと、男は涼しい顔で続けた。
「人が居なければ、“
マリーナは横目でオーシャルを見つめる。
その頃、デメルザとシーラは──。
「神殿取り壊しの抗議デモ?」
デメルザは呆れたように言った。2人は女性に連れられ、藁で出来た簡素な家に来ていた。周りには、独特な服装の人々が数人いる。よく考えると、先程の人混みは全員あの服を着ていたような気がする。
「王国騎士団がね、ワタシ達の部族の神殿を取り壊して、騎士団の宿舎を作ろうとしてるのよ。それに対しての意見が部族間で割れて、いつの間にかあんな事してたの。」
女性はやけに落ち着いた口調で話した。すると、部族の1人が彼女に詰め寄る。
「おい、ヴィスター。止めに行かなくていいのか?あのままじゃ、アイツら死ぬまで暴れてるぞ。」
ヴィスターと呼ばれた女性は、1つため息をつくと、そばにあった椅子に深く座った。
「勝手にやらせておけばいいわ。構っているだけ無駄。信仰を忘れなければどうという事はないでしょう。」
彼女は何故、こんなにも冷静なのか。
「いや、止めろよ。」
シーラも呆れて呟いた。
「面倒事には付き合いたくないわ。どうしてもって言うなら、アンタ達が行って来てよ。」
「お前、殴られたいのか?」
デメルザも流石に頭にきたのか、マリーナにも劣らぬ貧乏揺すりを披露していた。
ヴィスターはもう一度ため息をつくと、うんざりしたような目つきで2人を見た。
「分かったわ。あの
その言葉に、ヴィスター以外の全員が首を傾げた。
「賛成派と決闘をして。」
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