第9頁 No matter what you say, I will follow you!
デメルザ達3人は、屋敷を抜けた先の平原に立ちすくんでいた。と言うのも……。
「なぁ、おい。待ってやろうぜ。」
シーラがデメルザの腕をガッシリと掴む。デメルザは振りほどこうとしつつ、前へ進もうとしていた。
「なんで、あんなエンラソォ〜なじゃじゃ馬待たなきゃいけねぇんだよ!置いていったってバチは当たんねぇよ。なぁ?」
デメルザはオーシャルに尋ねる。オーシャルは割と真剣な表情で頷いた。
「全然問題ないと思う。」
「それを問題ないと思う事自体に問題があんの!」
シーラは呆れつつ、それでいてより強くデメルザの腕を掴んだ。それに伴って、デメルザの逃げようとする動きも激しくなった。
「とにかく!!アイツと一緒に居たいなら、あたしは抜きにしてくれ!顔といい声といい、全面的に嫌いなんだ、アイツ!!」
「──それはそれは。随分と酷い事言ってくれるじゃないの。」
「……あと、神出鬼没なとことか。」
シーラとオーシャルが振り返ると、やはりそこにはマリーナの姿があった。しかし、先程とは全く違う。綺麗にまとめていた髪は全て下ろし、青いワンピースに白いシャツ、赤いジャケットと庶民的ではないにしろ、貴族の面影など全くない身なりへと変わっていた。シーラは見とれ、オーシャルはひゅうっと口笛を吹く。
「なんだ。そっちのが可愛いじゃん。」
「どうも。」
オーシャルの賞賛をそっけなくあしらい、マリーナはデメルザに詰め寄る。
「いいわね?アンタがなんと言おうと、私ついて行くから!」
デメルザは眉間に皺を寄せて息を漏らす。
「かぁ〜っ!!この女は!」
「女を舐めないでちょうだいね!やる時はやるんだから!!」
「……あ?」
デメルザは唖然とする。シーラとオーシャルも目を合わせるが、オーシャルは睨みつけるとすぐに目を逸らした。マリーナは状況が理解出来ていない。
「何よ?」
デメルザはしばらく頭を悩ませてから口を開いた。
「あー……。この際だから、後腐れなくカミングアウトするね。えっと──、女子でーす。」
マリーナは納得した顔をすると、腰に手を当て、デメルザを気まずい表情で見つめた。
「……今のくだり、どのくらいやったの?」
「お前が朝、二度寝した回数くらい。」
「あ、思ったより無いわね。」
デメルザは深くため息をつく。
「もうさ、勝手にして!私知らない!!」
泣き出しそうな声でそう言うと、両手で顔を覆い俯いた。
「じゃ、勝手にする。私の事は、マリーナって呼んでくれればいいから。あと、あんまり気を遣わないでいいわよ。」
マリーナがシーラとオーシャルに微笑みかけるも、2人は浮かない顔をした。
「いや、元よりそんな気遣ってないから大丈夫。」
シーラが言うと、マリーナは目を丸くした。
「え?」
「俺ら、もっとヤバい奴とタメ張っちゃったから。」
「あ、そう。それなら楽だわ!」
マリーナはあくまでポジティブに捉える。
「それで、ツァルターに行くとかなんとか言ってたわよね?どうするの?」
3人は揃ってデメルザを見る。
「あ?ったく……。えっとな。」
デメルザは気だるげに話し出す。
「ホントは、デリエンスを北に向かって突っ切るのが早いんだが、アトメティアとのなんちゃらで北が通れなかった気がする。なんで、ちょっと遠回りになるが、カシャールを東に横切ってアトメティアに入った後、アトメティアを北に行く。それでいいだろ、メンドッチィけど。」
やる気のなさそうなデメルザに対し、マリーナはやる気満々だ。
「そのくらい何よ!!多少の苦労は付き物よね!マリーナなら出来るわ〜。」
ブツブツと自分に暗示をかけるマリーナをよそ目に、他3人は小声で話し合っていた。
「おいお前ら。ホントにアイツ、連れて行っていいのか?」
シーラとオーシャルは苦々しい表情で答える。
「ぶっちゃけて言うと……、俺ヤダ。」
「僕も。」
「でもほら、置いていくのは可哀想かなって。」
デメルザは肩を落とす。
「甘いなぁ〜。いいか?あたしのこの24年間の人生における知識によりゃあ、アイツ絶対にヤバい事するよ。断言する。」
オーシャルはチラチラとマリーナの様子を伺いながら話していた。
「いや、大丈夫。僕ら全員分かってる事だから、ソレ。」
「うーん……。ま、とにかくアレだ。隙を見て捨てよう。」
デメルザがそう言うと、シーラとオーシャルは突然態度を一変させた。
「あ、捨てんの。頑張ってね。」
「お前なら出来る!」
オーシャルは親指を立てた。
「おい待てよ!その戦法が通用すんのは、ボール片付ける係決める時だけだろ!」
「知らんよぉ、そんなのぉ!言い出しっぺがなんとかしろよ!」
オーシャルはからかうように言い放つ。3人共、だんだんと声が大きくなってきている。
「ちょっと!何捨てようとしてんのよ!!」
背後からマリーナの声が聞こえた。3人はうんざりして彼女を見つめる。
「いや、捨てようとしたのはコイツで……。」
シーラが言うと、マリーナはデメルザをキッと睨んだ。
「と、賛成した奴が申しております。」
デメルザがシーラを、横目で睨みつけながら言う。マリーナは苛立ちながらオーシャルを見つめた。
「いや、僕は──。」
「共犯者!!」
デメルザとシーラが同時に言い放った。マリーナは3人を睨みつつも、酷く傷ついた様子だ。
「まぁいいわ。どうせ私なんて、うるさいお荷物ですよーだ。」
そう言いながら彼女は、俯いてトボトボと東へ歩き出した。
「ほら言い過ぎた。」
シーラがこれ見よがしに言うと、マリーナは突然体を起こし、
「ほら!何モタモタしてるの!?早く行くわよ!!」
と、とびきりの笑顔で3人に呼びかけた。
「……やっぱもっと言ったれ。」
シーラが唖然として言うも、デメルザはやれやれと首を横に振った。
「いや、もうやめとこう。多分だけどアイツ……、キレたら怖い奴だ。」
「さぁ!!行くわよー!!!」
「ねぇ……。ちょっと休みましょうよぉ。」
マリーナはヨレヨレとした足取りで、3人から大分遅れをとっていた。
「かぁ〜!!ムカつく!」
デメルザは怒鳴りつけたいのを必死に堪えていた。オーシャルが、背中をさすってなだめる。
「アイツ何なの!?もっかい言うぞ、アイツ何なの!?」
デメルザの怒りは未だ急上昇している。シーラは腕を組んでその様子を眺めていた。
「落ち着けよ。お前がキッパリ断らなかったのが悪いんだろ。」
デメルザはいつも以上に深くため息をつく。
「それは……、まぁそうだけど。……つか、なんでお前らも当たり前のようについて来てんだよ?帰れよ。」
「だから帰らねぇっての!!」
オーシャルが叫ぶ。いつも通りの流れだ。
「帰らないって言うからさ……。」
シーラは物言いたげな表情でオーシャルを見つめた。オーシャルは彼と目が合うな否や、憎悪の表情で兄を睨みつける。
「お前、何ジロジロ見てんだよ!?気持ちわりぃな!!」
「えっ、ジロジロ見てたのか!?気持ちわりぃなぁ!!」
デメルザも便乗し、シーラは呆れて何も言えなかった。
「ちょっと!!まるで居ないかのように振る舞うのやめてくれる!?」
マリーナが息を切らしながら3人に追いつく。しかし、シーラ以外がまるで彼女が居ないかのように振る舞い続けた。
「なんか声が聞こえる。」
「聞こえない聞こえない。やめてくれ、あたし怖いのあんま強くない。」
オーシャルとデメルザがそんな会話をしながら、さっさと歩き去る。
「私、嫌われてるの?」
マリーナはシーラに尋ねる。シーラは一瞬戸惑うも、隠さず答えた。
「好かれてはないな。」
4人は歩き続けるが、一向に人間の気配がしない。町などあるはずもなかった。
「しまったな……。カシャールともなると、あたしも知ってる所ねぇや。」
その場に立ち止まったデメルザが呟くと、彼女とシーラ、オーシャルは一斉にマリーナを見た。
「な、何よ……?」
「今こそ、君がここに居る意味を見せる時だぜ。なんか知らない?」
オーシャルはマリーナ相手だと、些か言葉遣いが優しい。だが、マリーナは言葉を詰まらせた。
「え、えっと……。」
3人はじわじわと表情を強ばらせる。
「あ……だって、あんまり外に出た事ないから……。」
「さようなら。」
デメルザとオーシャルはまたも歩き出す。
「待って!ちょっと待って!!」
マリーナは必死に止める。デメルザは嫌々ながらも話しかけた。
「分かった分かった!いいからもう、ついて来るなら口閉じろ。」
その言葉を聞いて、マリーナは笑顔で頷いた。4人は再び歩き出す。
すると──。
「あ、川だ。」
デメルザが呟く。
「え、川!?マジで川!?よっしゃあああぁぁぁぁ!!!」
4人は跳んで喜び始めた。
その時、喜ぶ4人を見つめる人影があった。血塗れのズボン──。その人物はデメルザの姿を見た途端、ニンマリと口角を上げた。
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