第3章 In Kashar
第1頁 Welcome it is a traveler to Teber which the town of the flower.
リミアムスとユーシルの案内で、デメルザ達はカシャール王国へと向かう。
「扉を開けると別空間に出る時があるって言ったよな?それはカシャールでだけなのか?」
シーラが口を開いた。ユーシルが答える。
「“虚ろの者”ですか。いえ、似たような現象は、デリエンスでも目撃情報が出回っていますが、虚ろの者が関わっているというのはカシャール限定となりますね。同じなのかもしれませんし、似ているだけで全く違うものなのかもしれませんが。」
「カシャール行かなくてもいいんじゃ?」
デメルザが首を突っ込む。
「確実に奴の尻尾を掴まねぇと。折角行けんだし、行けるだけ行った方がいいだろ?」
シーラはいまいち腑に落ちない様子だ。
「オーシャルの気が済んだら、早い内に帰りたいんだけど……。」
「お前、僕が気ぃ済ますとでも思ってんのかよ!バカか!?」
オーシャルの発言に、シーラは眉を寄せる。
「口が悪すぎやしないか?」
「だぁーってろよ、このボケ!」
「チッ!!」
シーラが大きく舌打ちした。この兄弟の仲は、相も変わらず険悪だ。
カシャール王国との国境は、思ったより近くにあった。とは言っても、日は傾きかけていたのだが。
「じゃあ、話は合わせといたから、俺達はここまでだ。3人だけで大丈夫か?」
リミアムスが問うと、オーシャルがデメルザを見る。
「大丈夫なのか?」
デメルザはシーラを見る。
「大丈夫?」
「やめろ。俺を見るな。」
3人の茶番には目もくれず、ユーシルが冷静に話し出す。
「とにもかくにも、私達はこれで失礼致します。何かあったら、またデリエンスに戻ってきてくだされば、どうにかお力添え致しますので。」
「あいはい。」
デメルザの軽い返事と共に、3人はリミアムス、ユーシルと別れた。
3人は門をくぐる。
「ようこそ、旅の方。花の街“テベール”へ。」
見張りの兵が3人に告げた。テベールは珍しく国境に接した街で、「花の街」の名に相応しく、一目見ただけでも多種多様な花を見る事が出来る。花壇はもちろん、玄関前や壁飾り、更には街人の服装にまで取り入れられている。
「お?コレ、アトメティアの北部じゃないと咲かないやつじゃん。こんな所で見るなんてな!」
デメルザが民家の壁に飾られている、カゴに入った黄色い花を見て呟いた。
「改良に成功したってとこかな?」
シーラはそう言うが、あまり喜ばしくなさそうだ。
「嫌なのか?」
デメルザが尋ねると、肩をすくめて答える。
「別に。」
その夜は宿に泊まった。代金は当然──。
「あのさ、そろそろ払ってくんない?自分達の分だけでいいから。」
シーラは腕を組んで、2人を睨みつけていた。2人は聞こえないフリをする。そのまま無視して、オーシャルが話題を変えた。全員、小テーブルの椅子に腰掛けている。
「で?虚ろの者はどうやって探すんだ?」
「おい、無視する──。」
「とりあえず、奴に出会うには扉を開けなきゃならん。ひょっとしたらどっかの扉が、奴に通じてるかもしれない。」
「おい!だから──!!」
「あー、もう。落ち着けよ。テメェの愚痴は後で聞いてやるから、今はあたしの言う事を聞け。」
デメルザは機嫌の悪いシーラを制止すると、再び話を続けた。
「とにかく扉が多い所だ。たんまりありゃ、どれかにブチ当たるだろ!で、さっきしれっと聞いた話、この辺りには地方貴族様の屋敷があるそうな。」
デメルザの顔が意地悪く歪む。2人は顔をしかめた。
「まさか……。」
オーシャルが呟くと、デメルザは指を鳴らして答える。
「
2人はうなだれた。
「おい待て。どうやって入れてもらうつもりだ?“虚ろの者に会いたいので、お屋敷の扉を全部開けてみてもいいですか?”とか聞くのか?」
シーラは呆れた表情でデメルザを見る。
「いや。流石にコネがない所には、あたしでも交渉できねぇよ。それに、虚ろの者は一般には良いイメージねぇから、尚更だな。」
デメルザはテーブルにひじを付き、手の甲に顎を乗せる。
「なら、もう手は1つだ。」
シーラの表情はどんどん憐れむようになった。
「……忍び込むのね。」
デメルザは過去最高の笑顔を浮かべた。
翌日──。
「うわぁ……。」
3人は呆然と佇んでいた。例の地方貴族の屋敷へとやって来たのだが……、まだ庭しか見てえいないのに、思いの外警備が厳重だ。
「なんで兵士が2人いんのに、番犬3匹もいんの?正面口にケルベロスかよ。」
デメルザが愚痴をこぼす。
「まぁ、どうせこっから入るつもりはなかったろ?他当たろうぜ。」
シーラが言うと、3人は見張りに見つからぬよう、そろそろと回り込んだ。
「いまいち隙がないな、この塀。よじ登るのは難しくないけど。」
オーシャルが石造りの塀を見上げて言った。高さは見積もっても、3m程だが、石の凹凸を利用すれば、なんとか登れそうだ。
「じゃ、ちょいと時間を稼ぐかな。」
デメルザは来た道を戻ると、見張りの兵に近い茂みの中から、敷地の前を歩いていた男の後頭部に向かって
ゴンッ!!
「いった!!!」
男は後ろを振り返ると、見張り兵に詰め寄る。
「おい!何しやがんだ!!」
「は?なんだ貴様!?」
男と兵士達は口論になる。
「ハン!しめたぜ……!」
デメルザは嬉しそうに呟く。
しかし──。
「ワンワンワンワン!!」
番犬が一斉に吠え出した。3匹共デメルザの方を向いている。
「ん、なんだ?誰かいるのか!?」
「クソッ……!」
デメルザは犬を睨むと、石を反対側の門の柱に投げつけた。
コンッ!
「ん?」
兵士と男が音のした方を向く。その隙にデメルザは音を立てずに駆け出した。去り際に、番犬の1匹にも石を投げる。
「キャン!!!」
「なんだなんだ!!?どうしたんだ!?」
兵士が驚いて振り向くと、犬達は一斉に走り出す。追いかけてみると、3匹とも塀を見上げて吠え続けていた。
「誰かが忍び込んだな……。」
一方──。
「完璧にバレてんじゃん!どうすんだよ!」
シーラが小声で怒鳴る。デメルザの顔から察するに、あまり余裕がなかったようだ。
「ま、まぁ。入れたは入れたんだし?結果オーライだろ。」
「その結果も、じきにオーライじゃなくなるんだぞ。」
オーシャルも呆れた様子だった。デメルザは嫌そうな顔をして先へ進む。
「もういいから、行くぞ。」
広い庭を抜けてようやく屋敷へと辿り着いた。屋敷の中は大理石の床が、水のように景色を映している。
「いやぁ、助かった!都合良く窓が開いててよかったな!」
デメルザはやけに上機嫌だ。シーラは頭を抱える。
「なんでこんな事してんだろ?俺。」
「まぁまぁ、いいだろ?さ、片っ端から開けてくぞー!ブチ当たること祈れよー?」
3人は作業を開始する。。
30分後、3人はとある空き部屋に集まっていた。妙に薄暗く、埃が床一面に被さっている。
「まぁ、扉多い方がいいとは言ったけどよ……。こんなに多くちゃ敵わんぜ。」
デメルザがぼやく。後の2人も顔をしかめていた。
「どうする?手分けする?」
オーシャルが尋ねるが、デメルザは頷かない。
「いやぁ、手分けた所で効率上がるとは思えねぇな。全部開けたら、多分人生終わってるぜ。」
「お前がここにしたいって言い出したんだろうが!」
シーラが怒鳴る。デメルザも怒鳴り返した。
「だから!そんなに来たくないならついてくんじゃねぇっつってんだろ!!」
オーシャルも加わる。何故かシーラを責めていた。
「バカなのか、お前!?勝手についてきてんのはお前なんだからな!このクソボケ野郎が!!」
「いい加減に口閉じろ……!ガキん頃にお前の世話してやったの誰だと思ってんだ!!」
「関係ねぇだろ!!」
「敬意を払えってんだよ!」
「兄弟喧嘩ばっかしてんじゃねぇよ!!」
なんとも醜い争いである。
すると突然──!
「あら?誰かいるの?」
部屋の外から女性の声がした。今の話し声を聞かれてしまったらしい。
「うわっ!ヤベ……!!」
オーシャルが焦るが、もう手遅れだ。
「なんでこんな部屋に……?あの、入ってもいいかしら?」
「うぅ……、どうするよ!?」
シーラも慌てる。
その時、デメルザが突然、腰の短剣を引き抜いた。
「え?おい、何してんの?」
シーラの問いに、デメルザは真剣な表情で答えた。
「悪いがよ、お前ら……。余計な事言ってもらっちゃあ困るんだ。分かってるな?」
剣先を2人に向ける。
「えっ、ちょ──!!!」
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