第4頁 Why don't I like such a thing......

 5人は再び、集落間の平原を歩いていた。昼の日差しが照りつけるも、爽やかな風が吹くおかげで、暑さはない。

「次の目的地はトモサですが……。」

 ユーシルが言いかけると、すかさずデメルザが口を挟んだ。

「なんかダサいな、名前。」

「そういう事言うな。」

 リミアムスは不機嫌に言うと、今度は明るい口調に戻して話した。

「音楽好きか?あそこは結構騒がしいぜ?」

 デメルザが食いつく。

「お!それは好きだな!!評価、3から5に上がったぞ〜!!」

 オーシャルはボソッと呟く。

「……ウゼェな。」

 しかし、この女は地獄耳だ。

「聞こえてるぞー。」

 オーシャルは耳を塞いで聞こえないフリをする。そんな彼に、シーラは小さな声で話しかけた。

「気持ちは分かるぞ。」

「うるせぇんだよ。ボケ!」

 対応はいつも通りだ。シーラもそろそろ聞き流せるようになったらしい。

「チッ!!」

 そんな事はなかった。



 トモサは木造りの建物が並び、ラナシード共々のどかな雰囲気が漂う村だった。しかし、こちらの方が少々活気づいている。


 ギイィィィィ!!


 ……少々ではなかった。



 あちこちで楽器が音を生み出す。美しい音色もあれば、耳障りな騒音もある。大人も子供もみんな楽器を手にしていた。

「なんだ?祭りか何かか?」

 シーラが言うと、リミアムスは頭を掻いて答えた。

「いやぁ、いっつもこんな感じよ。ココ。」

 ユーシルも続けた。

「習慣ですからね。ココの。」


「まぁ、音楽家の歴史を一遍に見てるみたいでいいけどさ……。」

 デメルザは辺りを見渡しながら言うと、ある1人のギターを持った老人に目を止めた。……なんと、浮いている!

「1人、確実になんかの悟りを開いてるのは……、なんなんだ?」

「い、いっつもこんな感じよ……ココ。」

「習慣ですからね……ココの。」


 デメルザは老人に近寄って、声をかける。

「おーい、じいさん。ちょっと聞きたい事があんだがよ。」

 老人は目を閉じ、ギターの弦を1弦1弦爪弾くばかりだった。

「おい、じいさん!頼むよ。大事な用なんだ。」

 老人の行動は変わらない。

「ジジイ!!いい加減に──!!」


 その時だった。


「人の神聖な調べを、雑音でかき乱すでない!この愚か者が!!」

 老人は急に立ち上がり、デメルザにギターのボディを押し付ける。

「えっ!?ちょっと待て──おい!こっち来んな!!」

 デメルザは逃げ、老人はしつこく追いかける。

「……アレもいつもの感じ?」

 オーシャルが呟く。他の3人も唖然としていた。



 ラナシードを出たのが昼頃だった為、日が傾くのは早かった。そう言えば、昼食をとっていない。

「腹減ったよな……。飯食おうぜ、ちと早いけど。」

 リミアムスが切り出す。デメルザは突然ピンと背筋を伸ばしたかと思うと、へなへなとしゃがみ込んだ。

「そうだった……。すっかり忘れてた。もう歩けない……。」

 シーラは呆れ返る。

「いいからさっさと行くぞ。」

 4人は歩き出すが、デメルザはしゃがんだまま動かない。

「やーだー!!あーるーけーなーいー!!シーラ、おぶれ。」

「ふざけんな。」

「じゃ、オーシャル──。」

「あ、そこのお嬢さん!!この後空いてます?よかったら僕と……。」

 オーシャルはどこかへ行ってしまった。

「あー、えっと……。とにかく歩けん!!誰がおぶれぇぇぇ!!!」

 デメルザは子供のように駄々をこねる。リミアムスは行くべきか?とシーラに目配せするが、シーラは首を横に振った。ユーシルはさらさらそんな気はないようだ。


 するとシーラが何かを顔の前に出した。袋だ。振るとどんな音がするか、もう分かるだろう。

「デーメールザッ!!これなーんだ!?」

 デメルザは顔を上げ、シーラの持つ金袋を見る。その後の驚き様から、それは彼女のなのだろう。

「アッ!!?」

 デメルザは得意気な表情を浮かべるシーラを見つめる。

「フン!俺も少しはやるだ──ガッ!!」


 突如、シーラの顔面に、拳ほどに大きい石がゴツンとぶつかった。

「何してくれんだ、コラアァァァァ!!野郎ぉぉぉ!ぶっ殺してやる────!!!」

 デメルザ手身近な石を投げ尽くすと、鼻を押さえるシーラに殴りかかった。彼は鼻血を出しながら応戦した。後の2人はもはや言葉もなく見つめている。



 乱闘もようやくおさまり、4人は酒場にやって来た。ロットバーンズよりかは狭く、しかし賑やかな音楽が鳴り響く。どうやら披露の場所のようだ。座れない程ではないが、思いのほか人で溢れている。4人は適当な席に座った。

「だぁ〜、もう疲れた……。シーラのせいだぞ。」

「なんでだよ。」

 シーラが不機嫌な顔をすると、辺りからドッと、手を叩く音が響いた。演奏者が披露を終えたようだ。


「はぁ……。」

 すると見ていた人々が、突然ため息や愚痴を漏らし始めた。席を立って帰る者もいる。

「なんだ……?」

 デメルザが呟くと、ステージに上がってきた楽団が音楽を奏でる。


 ……だが。


「おい……勘弁してくれよ。」

 リミアムスがぼやく。他の3人、いや、その場にいた全員が呆れた顔をした。


 その曲は、死や絶望の悲しみ、嘆きを連想させるような、異様なまでにしっとりとした曲だったのだ。深夜ならともかく、夕食時の酒場では飲み騒ぎたいと言うのに、これではとてもそんな気になれない。

「またかよ……。」

「おい!いい加減、もう来んなよ!!」

「そうだそうだ!!」

 あちこちから野次が飛ぶ。


「おい、どうするよ?」

 シーラが尋ねると、デメルザは満面の笑みで立ち上がった。

「おい。どこ行く──?」

「これは、このデメルザ様の天才っぷりを見せつける時だぜ。最近、舐められてるっぽいしな!」

 そう言うとデメルザは楽団の方へ駆け出し、ギターを引いていた奏者を思いきり蹴飛ばして、そのままギターを奪った。突然の出来事に、辺りは沈黙に包まれる。

「……誰がカウント。あー、おい!シーラやれ!150くらいで!」

 シーラはいやいや、目を背けて手を4回叩く。


 シーラは叩くのをやめたが、そのテンポのままデメルザはギターをかき鳴らした。しかし、だんだんと客も乗ってきたのか、チラホラと手拍子が聞こえる。他の演奏者も、デメルザに合わせて音を重ねていった。


 いつしか、酒場は楽しい音楽でいっぱいになった。人が笑い、心の底から楽しんでいる。いい光景だ。

「なんだよアイツ!楽器弾けんのかよ!!」

 リミアムスが楽しそうに言った。意外な事に、ユーシルまでもが音楽を堪能していたのだ。シーラは機嫌悪そうに黙ったまま、腕を組んで背中を向けていた。

「どしたよ?」

 シーラは首を横に振り、そっと立ち上がって酒場を出た。


 外は異様に静かだ。静かすぎて、何やら変な音が聞こえる。

「なんでああいうの、苦手なのかなぁ……?」

 シーラはため息混じりに呟くと、空を見上げた。膨らんだ月の端が、また削り取られている。今夜は快晴だ。明日も晴れるだろうか?




 翌朝──。


「ウヴォオオオエエェェェ!!」

 オーシャルはまたもや、地面に這いつくばっていた。

「学習能力、皆無だな!」

 デメルザがからかい半分、呆れ半分に言う。

「うるせ──ウゲエェェェ!!!」


 空は晴れつつも、やはり涼しい風が吹き付け、朝からとても気持ちがいい。……この男が戻しなどしていなければ、だが。

「暗雲については聞いたのか?」

 シーラが尋ねると、デメルザは少しうなだれた。収穫はなかったようだ。

「ある程度聞いたがよ、あの時間酒場に行かねぇ奴は、外にも出ねぇ寝たきりばっからしいんだ。こりゃ、いくらやってもムダだな。」

 デメルザの表情から笑顔が消える。


 すると、村を回っていたリミアムスが、3人に駆け寄ってきた。後からユーシルも続く。

「おい!!お前ら、大変だよ!」

 リミアムスは息を切らしながら叫んだ。

「なんだ?死体でも転がってたか?」

 デメルザが尋ねる。

「物騒な事言うな!でもそうなっちまう所だったぜ。」

 シーラと、やっと回復したオーシャルも酔ってきた。


「実はな、アトメティアとの戦争被害が拡大して、ここから東へは一般人の立ち入りが禁止になっちまったんだ!」


「ウゴオォォォ!!」

 オーシャルがまた崩れ落ちた。デメルザは口をポカンと開け、消えそうな声で囁いた。

「デリエンス……。まだ、2箇所しか……。あ……。」

「おい!デメルザ、しっかりしろ!」

 リミアムスが彼女を揺さぶる。それをよそに、シーラが尋ねた。

「まいったな……。どうするか。」

 ユーシルが口を開く。

「南なら安全です。ここから行けば、“カシャール王国”へ辿り着きますが。」


 するとデメルザが立ち直る。

「カシャールは、確かデリエンスと同盟結んでるよな?割と簡単に通れるか。」

「そうだな。俺達もいるし、訳ないと思うぜ!」

 リミアムスが言うと、デメルザは顎に手を置いて呟いた。

「カシャールな……。ちと気になる事があるんだよなぁ。」

「“虚ろの者”ですか。」

 ユーシルが口にすると、デメルザは驚きの顔を見せる。

「よく知ってんな。」

「有名でしょう。」


 しかし、シーラは理解していないようだ。

「なんだそれ?」

 すかさずリミアムスが出る。

「知らねぇの!?カシャールでは、扉を開けるとたまに別の空間に繋がる時があって、そこに住んでる男の事だよ。なんかスッゲェ難しい質問をしてきて、答えるまで出してくれないらしい。」


 ユーシルが続ける。

「虚ろの者は、ありとあらゆる過去の出来事を知っていると言われています。まぁ、あくまで言い伝えですが。」

「あ、それで、暗雲のルーツを聞き出そうってのね。」

 納得したシーラに、デメルザが指を鳴らす。

「言い伝えでも試してみる価値はあんだろ?折角だ。行ってみようぜ。」

「分かったよ。」

 リミアムスが切り出す。

「じゃ、カシャールまでは俺達が案内するよ!」


「ウヴォオオオオォォォォ!!!!」

 オーシャルはまだ戻していた。

「……大丈夫か。お前。」



 一行は、カシャール王国へ向かう事となった。



〜第2章 完〜

To Be Continued...

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