第9頁 What targeted it……what it was this Demelza, a thing is your cause of defeat!!
リアは目の前の惨劇を、冷ややかな目で見つめていた。オーシャルは安心出来るかと思ったが、当然そうではない。
彼女も亡霊なのだから。
「残念です。」
リアはため息をついて言い放つ。
「本当に残念。こんな事になってしまうだなんて。やはり、よそ者など入れるべきではありませんでしたわ。」
2人は他の亡霊達の攻撃を防ぎながら、呆然と聞いていた。
リアの胸元がだんだんと赤く染まっていく──。そして真ん中に小さな穴があいたかと思えば、それもどんどん大きくなっていった。
「残……念……!ザ、ンネ、ン……!!」
リアは口からダバダバと血を吐き出しながら、白目を剥いて2人の方へ向かってきた。
「マ、マジか!?」
オーシャルは亡霊を突き飛ばして、その場を離れる。シーラは勇気を振り絞り、亡霊を建物の壁際に追い込んで頭を思いきり蹴り、
ガンッ!!!
壁に叩きつけた。打ちどころが悪かったのか、亡霊はズルズルと膝から崩れ落ちて、その姿を消す。
「うぅ……!ホントにゴメン!あの世で呪って良いから!!」
シーラはうろたえつつも、なんとか気を持って残った亡霊と交戦する。
オーシャルは攻撃を避けつつ、逃げ口を探していた。しかし、どこもかしこも村民の亡霊達で埋め尽くされている。
「おかしいだろ……。何でこうなるんだ?」
オーシャルはガタガタと震え、迫って来る亡霊に対しても後退りするのみ。
「あ……。」
向かって来る中に、リアの姿を見つける。最初に出会った時の彼女とは、まるで別人のようにおぞましい姿となっていた。
悲しくなる。怖くなる。2つの感情が混ざり合い、訳が分からなくなる。
が──。
「──仕方ない!」
オーシャルは鎖刃を振りかざす。長い鎖の先に付けられた刃は、数人程のの亡霊に傷をつけた。その内1人は首を斬られ、地面に倒れて悶えた直後に消え失せた。
「おい!平気か!?」
シーラがオーシャルの下へ辿り着く。かなりの人数を
「デメルザはどこ行ったんだ!?さっさと村出たいのに!!」
「倒しきって先へ進めばいい!!」
オーシャルの文句に一喝入れると、シーラはまたも1人の頭を蹴り上げた。鉤爪で攻撃は防ぐが、決して刺しはしない。
オーシャルが首に鎖を巻き付けて動きを止め、シーラがトドメを刺した事で、亡霊の数は残り1人となった。リアだ。
「ウゥゥゥ……。ウゥゥアァァ……!!」
リアは唸るとクルリと体の向きを変え、村の出口近くへと逃げて行く。
「なっ!出口!?」
オーシャルは驚くが、すぐにシーラが呼び掛ける。
「俺らが目指す所も同じだろ!いくぞ!!」
2人はリアの後を追う。
「ん、なんだ?」
走っている内に、周りの景色は変わっていた。いつ変わったのかは分からないが、風車で溢れていたはずの村は、鬱蒼とした森に変わっていた。しかし、どういう訳か一本道があり、2人はそこを走っていたのだ。
「どういうことだよ……。」
2人は驚いて足を止める。周りを見渡すと、目の前にリアと、もう1人の見知った人間がいた。
「ドルグ……。」
彼はおぞましい姿のリアの頬を撫でながら、2人の方を向く。
「殺したんですね。僕の仲間達。」
ドルグの口調は、前の気さくで明るいものではなく、暗く冷たい、憎しみを込めたものだった。
「人間は愚かな生き物だ。人間である以上、生きる事のありがたみを理解しきれない。その点、亡霊は簡単なのに。」
淡々と話し続けるドルグに、リアが問いかける。
「ア……、心臓。ワ、タシ、ノ……、シンゾ──。」
「リア。残念だけどね、ないよ。もう。」
ドルグは微笑む。
「海に捨てたから。」
リアはつんざくような悲鳴を上げる。するとドルグは、懐から小さなナイフを取り出し、リアの喉をかき切った。
ドシュゥッ!!
辺りに鮮血が飛び散り、女性の姿は失くなった。シーラもオーシャルも、恐ろしさに立ち尽くす。
「さて、どうしましょうか?」
ドルグは微笑みながら2人の方へゆっくりと向かってくる。
「村長は無事ですかね?どさくさに紛れて殺してしまったかも。そうしたら、貴方がたを亡霊にする事も、叶わなくなってしまいますが……。」
ドルグの指から、手首から、脚から、首から、目から、あらゆる所から血が流れ出す。
「ドウシマショウカ……?」
声音が変わる。ドルグの身体がバラバラと崩れた。しかし動く。まるで死体が動いているかのように。眼球の取れてしまった顔には、2つの大きな穴が開き、真っ赤な血を流しながらこちらを見つめる。地面に転がったまま──。
そして。
ドルグの手と指が、とてつもない速度で2人の方へ襲いかかった。2人は逃げるが、相手は早い!いつの間にか、逃げ道には首を失った胴体が、おぼつかない足取りで立っていた。
「なんでだよ……!」
オーシャルが叫ぶ。
その時だった──!
ズシャッ!!
といって、腹部に1本の横線が入り、胴体は真っ二つに裂かれた。崩れ落ちたそれの向こうに立っていたその人物は、その目は!シーラとオーシャルを最も安心させた。
「デメルザ!!」
デメルザ・ドゥリップは殺気立った目で剣を構える。そして重い口調で言葉を放った。
「お前の作戦は悪くなかった……。だが、1つ!お前は決定的なミスをおかした。」
デメルザはドルグの首へ向かって走り出す。
「標的にしたのが……、このデメルザ様だったって事が、お前の敗因だよ!!」
デメルザの怒声と共に、怒りを含んだ太刀筋が縦に描かれる。振り上げられた剣により、ドルグの首が宙を舞った。そして首は、剣で串刺しにされ、後ろの木にはりつけられる。
デメルザは剣を抜いた。そこにはこびり付いた血のみが残る。終わった──。
「なんだったんだ、アレ?」
森を抜けながら、シーラが尋ねる。デメルザは怒りを滲ませつつも、どうにか冷静に振舞っていた。
「つまりは、ドルグの奴が元凶だって訳だな。殺された腹いせかなんか知らねぇが、とにかく誰かよそ者を殺して、亡霊仲間を増やそうって魂胆だったらしい。村の連中は、全員共謀者だったみたいだな。」
オーシャルは目を見開く。
「誰から聞いたんだよ?んなの。」
「村長のクソジジイがブツブツ言ってた。“
シーラが少し考えてから口を開く。
「屍人化?」
デメルザはフッと笑った。
「ナプティアでは──あー、ナプティアだけでかは分かんねぇけど、人間が死ぬと、1度だけその魂はこの世に残留するって言われてるんだ。死んだ場所に残る説が有力だけどな。残留した魂はその場から動けないが、ある方法で蘇る事が出来るんだ。」
「それが亡霊か!」
オーシャルが口を挟む。デメルザはゆっくり頷いた。
「“
デメルザは一呼吸置いた。
「とんでもなく高度な術の内に、人間の身体を生成するものがある。何も無いところに1から作り上げるから、大抵の奴は出来ないんだが、まれに居るんだわな。で、それで作った身体には、残留してる魂を入れる事が出来る。こうして人間として蘇るんだ。一般的には“亡霊”って言われるがね。」
「だが、やはり技としては高度すぎる。作れたところで、ほとんどは不完全な肉体なんだよ。そんなものに死者の魂を入れたら、そりゃ人間じゃなくなる。死を意識するんだ。そうすると亡霊は、身も心も化け物になっちまう。術士の間ではこれを、“
「じゃあ、村長が術士だったのか……。」
シーラが呟く。今まで信じていなかったものが目の前に現れ、かなり混乱している。
「そうだろうな。もう分かったと思うが、実際にいるんだぜ。ドルグが村民を焼き殺したのは、もう800年位前の事らしい。森になっちまった元・村に術をかけて、それっぽく見せてたんだな。してやられたぜ!」
デメルザがイラつき始めた。しかし、今となっては返って落ち着く。
森を抜けると、空には既に赤い光が混じっていた。
「もう朝かよ!!」
デメルザは怒鳴ると、地面の小石を蹴り飛ばす。なんだかんだで、疲れが溜まってしまった。
「これからどうすんだ?」
シーラが尋ねると、デメルザは真剣な表情で返した。
「当初の目的は変えねぇよ。暗雲の手掛かりを探すんだ。」
「また暗雲かよ?なんでそこまで躍起になんだ?」
オーシャルの問いに少し眉を釣り上げた。
「そこまで深い意味はねぇよ。ただ、月1で現れては気温を下げまくって、外に出た奴を容赦なく消すなんてさ。普通に迷惑だろ。消したくなって当然。」
デメルザは真剣な表情を隠すように、いつもの意地悪い笑みを浮かべる。
「別に来なくったっていいんだぜ?親父、お袋、兄貴と怯えながら暮らしたっていいと思うし。」
オーシャルはムキになって言い返す。
「絶対やだね!死んでも帰らん!!」
「頼むから死ぬ前に帰ろうぜ。」
シーラは呆れて頭を抱えた。
「そうだな……。なら、“アレイデル”にでも行ってみるか。この先、西に歩けばすぐだぜ。確か。」
「確か!?」
「いーのいーの!!さ、行くぞ!!眠いけど行くぞ!!」
「おう!」
デメルザは元気良く歩き出した。オーシャルも軽い足取りで着いていく。
「元気だねぇ……。」
シーラもため息をついて歩き出した。
次の目的地は「アレイデル」だ。
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