第8頁 Will I die? Will I DIE?
男に連れられて、3人は小さな村へと入っていった。「リーウェイ」。大小の風車が多く取り付けられた建物が特徴的だ。辺りは静かで人通りも少なく、風車の回る音が響き渡ってのどかな田舎の雰囲気を醸し出している。外れの方には、小さな教会も建っていた。
「どうです?悪くないでしょう?」
男は自慢げに語るも、シーラとオーシャルは「カディナルタ」の時と同じような顔をしていた。
「いやだから、ロットバーンズとかヤーハッタとは比べちゃダメだっつってんだろ。」
デメルザが呆れて言うと、男は驚いた表情を浮かべた。
「えっ、そんな所からいらっしゃったんですか!?それじゃあ、寂れてるでしょう。こんな田舎……。」
「ひどいねぇ!」
デメルザは意地悪く2人を見て笑う。オーシャルはムッとして口を開いた。
「そういうデメルザはどこの生まれなんだよ。」
デメルザの表情が少し強ばる。彼女はしばらく黙ると、再び意地悪く笑って、口元に人差し指を置いた。
「夢の世界。」
「ハァ?」
「まぁ、それはそれはいい所だぞ〜。夢と希望で溢れた魔法の国だ!……てのは嘘。どこでもいいだろ。」
オーシャルは唖然としているが、デメルザは無視して鼻歌を歌い始めた。シーラは元より気にしていないようだ。
「あ、ドルグー!」
ふと、いつからそこに居たのか、1人の女性が現れた。そこそこ上等なドレスを着ており、髪も結って清潔感溢れる容姿だ。輝くように美しい。
ドルグというのは、3人を案内してくれは男の名前のようだ。
「リア……?」
ドルグは一瞬の間、怯えたような顔つきになるが、すぐに笑顔を取り戻した。リアは微笑みながら歩み寄り、ドルグの手を取る。
「もう、どこ行ってたのよ?見ないから心配したじゃない。」
「10分だけ出掛けてただけだろ。そんないきなり消えやしないよ。」
ドルグはリアの頬を撫でる。
「ところで、今日このあとおおぉぉあっ!?」
ドルグが話している最中に、オーシャルが彼を突き飛ばした。そしてリアの腰に手を回すと、優しい笑顔で話しかける。
「リアさん、初めまして。急でなんですが、僕とお茶でもいかがです?なんなら1日──。」
「人
シーラがオーシャルの脳天を殴る。オーシャルはそのまま崩れた。
「何すんだよ!アホが!!」
「何28人目の被害者出そうとしてんだ、お前は!まだ懲りないか!?」
「32人目だよ!!!」
シーラは目を見開きながら言葉を詰まらせた。デメルザは呆れた所ではない。
「ま、まぁいいのよ?気にしてないから。」
リアが気を遣う。ドルグも引きつった笑いを浮かべていた。
「そんなに、彼女気に入りました?」
シーラは凄まじい剣幕で答える。
「いいえ!結構です、こんな
「ほぉ……。」
2人から笑顔が消えた。
「で?お2人さん、どういう関係よ?」
デメルザが笑いながら切り出した。どうにか2人も笑顔を取り戻す。
「
リアがドルグの腕を掴んだ。ドルグの方は、少々照れている。
「まぁ色々あって、無い事にされてしまったんですけどね。」
「色々?」
デメルザが眉をひそめると、ドルグが焦り始める。
「あ!いえ!……別に。大した事ではないので。」
3人は怪訝な顔をする。ドルグはますます慌てた。
「あ、そうそう!この村にお泊まりになるのなら、村長に許可を頂かないと。こちらへ!」
そう言うとリアは、村の奥へと進んでいった。ドルグはどぎまぎしながら後へ続く。デメルザ達も、戸惑いながらついて行った。
一際大きな家の中に居たのは、背の縮みきった1人の老人だった。たっぷりと蓄えた髭で、口元が隠れてしまっている。ドルグとリアは足早に、座り込む老人の下へ歩み寄った。デメルザ達はどうしたら良いのか分からず、その場に立ち尽くす。
「お?おや、2人してどうしたね?」
「村長。実は──。」
ドルグが小声で話し始める。何を話しているかは聞き取れなかった。
「なるほど。ほれ、お客人。こちらへ。」
3人は互いの背中を押して、とにかく自分以外を先に行かせようとした。少し経ち、シーラが出た事で後の2人も前に出る。
「そんなに嫌がりませんでも。今晩はここへ泊まっていきなさい。こんなジジイが一緒でよければ。」
「え、何?お前も一緒なの!?」
デメルザは失礼にも眉を寄せる。シーラが彼女の肩を引っぱたいた。
「マジかよ……。まいっか。」
デメルザは不服そうに文句を言うが、誰も気に止めはしなかった。
陽が傾き始めた。オレンジ色の柔らかな光が、クルクルと回る風車を照らす。なんとも落ち着く雰囲気だ。オーシャルはゆっくりと村を散歩していた。向こうからシーラが歩いてくる。
「おい。デメルザはどうした?」
オーシャルが尋ねると、シーラは腕を組んで答える。
「村長に暗雲の事聴き込んでんだ。」
「また!?」
「割と、はた迷惑だよな。」
「お前よりはマシだろうがな!」
シーラはオーシャルの罵倒を聞き流し、美しい風景を眺める。すっかり日は暮れ、暗くなり始めていた。そっと口を開く。
「今日はやけに日が短いな。気のせいか?」
オーシャルは呆れ気味にある方向を指差した。
「アレ。山があるからだろ、どうせ。」
「あぁ……。」
一言返事をするシーラ。しかし、彼はある事に気がついた。辺りはとっぷりと暗くなっているのに、どこにも灯りが点かないのだ。彼は如何わしい顔で睨むが、やがてオーシャルと共に村長の家へ戻った。
家の中は真っ暗闇だ。かろうじて月の光が差し込み、デメルザと村長を見つける事は出来た。
「遅いぞ。早く来い。」
デメルザが急かす。真剣な声だ。
2人は暗い中、手探りで椅子に座った。村長が静かに話し始める。
「このお嬢さん──なんだそうですな。は気がついたようだが、御二方、分かりましたかな?」
シーラが眉をひそめて答える。
「灯りの事か。」
村長はゆっくりと頷いた。
「まず、お願いがあります。この村では絶対に、火を焚かないで頂きたい。それと、お腰の武器もあまり出さないで……。」
3人は驚く。火を焚くなとは、どういう意味だ──?
「この村は“亡霊達の集いの場”です!絶対に!!!お願いします!!」
「
デメルザは理解しきったような声を上げ、僅かに目を細める。
「亡霊……?」
シーラもオーシャルも困惑したままだ。村長は更に話を進める。
「以前、この村にはドルグという青年が暮らしていました。貧しいながらも明るい男でしたよ。そんな彼は、この村一の富豪の娘と結婚する事が決まったのです。リアという可愛いらしい娘でした。」
3人は黙って聞き込んだ。
「しかし、誰が流したのかは分からずじまいですが、“ドルグが他の女に惚れている”という噂が流れましてな。当然デマでしたが、リアの両親はこれを事実と思い込み、怒り狂ったのです。そして彼を──。」
老いた村長は気を落ち着かせるように深く息を吸った。
「──ドルグを殺害したのです。手も足も、至る所をバラバラにして。」
デメルザはそっと目を閉じ、シーラとオーシャルは息を飲んだ。たまらずオーシャルが割り込む。
「え、だって──。ドルグは、さっき──!!」
「ええ。生きています。生き返らせたのです。亡霊として。」
亡霊──。再び出たその言葉。
「不当な死だと思った私は、残留したドルグの魂を、新たに生み出した肉体に潜り込ませました。彼はこの世に蘇ったのです!」
村長は声を張り上げたかと思うと、すぐに肩を落とした。
「──しかし喜んではいられませんでした。」
「予想外でした。噂がデマだと証明するチャンスだと思ったのに、あろう事か彼はリアの心臓を抜き取り、彼女の両親を窓のない部屋に閉じ込めたのです。私がそれに気づいた頃には、一家は全員こときれていました。」
シーラは唖然とし、オーシャルは手を擦り始める。
「そして、彼は狂ったかのようにどこかへと消え去りました。そう思っていました。」
村長の息遣いが、だんだんと荒くなる。
「数日後、教会に村民が皆集まった時の事でした。どこからか、焦げたような臭いがしたのです。煙が上がっているという声もして……。避難しようとしても、もう手遅れでした。扉の鍵は閉まっていたのです。後で聞いた話、これもドルグの仕業でした。」
「え、じゃあまさか……。」
オーシャルは怯えながら、細々とした声を上げる。村長は目を閉じて頷いた。息遣いは激しくなる一方だ。
「そう、私も亡霊です。この村の者全員が。私はまず自分を亡霊にし、その後、村民も全員亡霊に、しました。また、ちゃん、と、やり直す、た、め──!!」
「おい!もう喋るな!!」
デメルザは慌てて叫ぶ。
──しかし、遅かった。
「あ、あ、死ぬのか?死ぬノカ?」
村長はヨレヨレと立ち上がる。3人は上手く行動出来ずに、ジッと彼を見つめていた。すると、恐ろしい出来事が起こった。
村長の手が、顔が!みるみる焼けただれ始めたのだ。
「マズイ!逃げるぞ!!」
デメルザはそう叫ぶと、家を飛び出した。シーラとオーシャルも慌てて彼女に続く。
外は相変わらず真っ暗で、膨らみかけた白い月が、こちらを見下ろしていた。しかしその視線の先にあった光景は、地獄のそれであった。
おびただしい数の村民が、皮膚のただれた村民の亡霊達が、凶器を手に3人を見つめていたのだ。
「こうなりゃ仕方ない……。全員ぶっ殺せ!!!」
デメルザは剣を抜いて叫ぶ。
「何を言って──!!」
「致命傷を与えれば、人間と同じように死ぬ!!一刻も早く殺せ!!早く!!!」
デメルザは亡霊の1人に向かって走り出した。
亡霊はナイフをデメルザに振り下ろすが、デメルザは軽く弾いて、亡霊の胸部に剣を突き立て、蹴り飛ばすと同時に抜いた!真っ赤な液体が溢れ出て、蹴られた勢いで亡霊はドサッと倒れた。
──その瞬間、亡霊の姿は消え失せ、地面に飛び散った血だけが残る。
デメルザは次々と亡霊を殺めながら、どこかへと行ってしまった。しかし、後の2人も見ているだけではいられない。亡霊はまだいるのだ。
「しょ、しょうがない!」
シーラは鉤爪を手に取り付けると、襲いかかる亡霊の攻撃を防いでいった。それだけでやっとなくらいだ。
「おい、オーシャル!何かやれ!!」
シーラは呆然と突っ立っているオーシャルに向かって怒鳴る。オーシャルは怯えながらも、鎖刃(便宜上、この武器はこう呼ぼう)を構える。が、やはり攻撃など出来ない。距離を置きながら辺りを見回すと、見覚えのある人影が。
「リア……!?」
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