Dark Clouds
第6頁 If you don't believe a fairytale with reality, what I speak will be only a fairytale for you!
第6頁 If you don't believe a fairytale with reality, what I speak will be only a fairytale for you!
──暗雲の日がやってきた。
「……さむっ!!ヤバい……。」
毛布を被ったオーシャルは体をガクガクと震わせ、暖炉の火に手を当てていた。もう昼間だというのに真っ暗で、昨日までの暑さが嘘のようだ。辺りが凍りついている。
「だからもう少し着た方がいいって言ってんだろ。寒がりが。」
シーラも火に当たっていたが、オーシャル程寒がってはいなかった。叱りを受けたオーシャルはムッとして、シーラの脚を蹴り飛ばす。
「おい!!」
オーシャルはそっぽを向いた。
シーラが呆れていると、部屋からデメルザが出てきた。服装がいつものままだ。
「お前それ、寒くないの?」
シーラが尋ねると、デメルザは軽い口調で答える。
「全然。こんなの平気だろうよ!弱っちぃな、お前ら!!」
デメルザはそう笑うと、暖炉の近くへ寄り、床に紙切れを広げた。──海図だ。
デメルザはどこからかペンを取り出すと、海図上の「ヤーハッタ島」の場所にペン先を当てた。そこから北東に向かって1本、真東に向かって1本線を引き、2本線の間を斜線で塗りつぶす。
「何これ?」
オーシャルが尋ねる。デメルザは笑顔のまま、しかし真剣な声音で話す。
「昨日のジジイの話から、暗雲がどこへ行ったかを割り出すんだよ。」
「ん?東北東じゃないのか?」
シーラの問いに、デメルザは呆れ気味に答えた。
「あの暗雲さんが、素直に真っ直ぐ飛んでる保証でもあんのかよ?道草だって食うかもしんねぇだろうが。」
シーラは少し落ち込んだ。しかしすぐに、ある疑問を抱く。
「じゃあ、それはなんだ?」
海図上には、もう一つ印があった。メイディア公国の東、「デリエンス王国」の西部から真南と南東に線が引いてある。
「何年か前に、別の奴から得た情報を書いたんだが……、クソッ!ズレてやがる!」
オーシャルは驚く。
「2人からしか情報得られてないのか!」
デメルザはため息をついた。
「17年間聞いて回ったが、当時暗雲を見てて生きてる奴なんてほとんど居ねぇんだ。で、折角集まった情報も食い違いますよ、と。」
「悪いな──。」
「だぁーてろ!!」
老人の謝罪を遮った。余程進展していなくて苛立っているのか。
「……すいません。」
再びシーラが口を開く。
「でも大体の位置は分かってんだろ?船でなんとか探せないのか?」
「暗雲の拠点を探すんだぜ。海は凍ってるだろうし、そんな中で船を動かすのは辛い。第一、あんな所船で探せるなら苦労しないぜ。」
オーシャルが口を挟む。
「拠点がどういう所かは、知ってんのか。」
デメルザはしばらく黙り込んだ。
「……知ってる。だが、位置だけが分かんねぇ。どの地図を見ても載ってないんだよ。」
「なんて所なんだ?」
シーラが問うと、デメルザは鼻で笑った。
「お前に話した所で、おとぎ話の世界だよ。無駄だな。」
「え?だって、現実の場所だろ?」
「だから!おとぎ話を現実と思えない奴に何を話したって、それはおとぎ話でしかないんだよ!あたしが追ってるのは現実だ!口出すな!!」
何故か怒り出すデメルザに、シーラは少し戸惑った。オーシャルはニヤニヤと笑いながらからかう。
「つまり、石頭に話す事はねぇよってさ。アホ。」
デメルザも同調する。
「そういうこった。アホ。」
シーラは顔をしかめた。
「……にしてもさ、寒くね?」
オーシャルは腕を擦る。
「だから重ねて着とけっちゅうに……。」
シーラはもはや微動だにしなかった。
「気をつけろよー。ひと月経てば、またこんなだからよ。」
デメルザは意地悪く笑う。
──翌日。
いつが夜かも分からずに寝ていると、いつの間にやら暗雲は消え去っていた。ナプティアは、再び暑さに包まれる。
「うぅえ……。気温差で死ぬ……。」
オーシャルの顔は血の気が引いて、体調も優れぬようだった。どこかへ出掛けていたのか、ヨレヨレと老人の家へ戻る。
「お!船の用意できたか!?」
椅子に腰掛けるデメルザは、いつにも増して機嫌がよかった。
「知り合いに頼んで、大陸までのを出してもらえるようにしたから。ただし、行き先は“カディナルタ”限定だとよ。都合が良いらしい。」
「まぁ、ヤーハッタから出られるならどこだっていいさ。」
「あと、費用は銀貨60枚だと──。」
「はあぁっ!?」
デメルザは驚いて、勢いよく椅子から立ち上がる。その顔は、怒りとも恐れとも読み取れた。
「流石ヤーハッタだな。」
シーラは冷静に呟く。
「チッ!……しゃーねぇか。お前らはどうすんの?」
「出来るだけすぐに、ロットバーンズにかえ──。」
「一緒にカディナルタへ行く。」
「えっ!!?」
自分の言葉を遮って言い放たれた弟の言葉に、シーラは愕然とした。
「この期に及んで、まだ帰らない気か!!」
オーシャルは苛立った表情でシーラを睨んだ。
「今僕が帰っても気まずいだろ。ちょっと期間を開けたいんだよ、分かんだろ?」
しかし兄は騙されない。
「一生帰らないつもりなんだろうが!」
「分かってるじゃねぇか。……つー訳で、同行しまーす!」
デメルザは眉をひそめていた。
「あんまり一緒に居たくないんだけど。」
「そういう事言わない!……だって、このままヤーハッタに居続けると、ちょっとヤバいんだもん。」
シーラは絶望してテーブルに突っ伏した。デメルザも頭を抱える。
「カディナルタ……。良くない噂を聞くけどねぇ。」
デメルザの目が据わる。
オーシャルの知人は、ロットバーンズの船乗りとは違い、なんとも胡散臭い人物達だった。何故か全員、古傷やあざがいっぱいだ。
「なんか泣きそうだわ、俺。」
シーラの声は若干、鼻にかかったように聞こえる。デメルザは彼の肩に手を置いた。
「気をしっかり持て。男だろ。」
シーラ、オーシャルに続いてデメルザが船に乗ろうとすると、船員の1人に止められた。
「おい。大陸に行きたいって言い出したのお前だろ?料金は前払いだ。」
デメルザは嫌な顔をするが、相手は屈強な男だ。デメルザも細い訳ではないが、シーラに腕相撲で惨敗した事もあり、ここは大人しく従った。
「えーっと、いくらだっけ?10枚?」
「60枚だ。」
男達は鋭く彼女を睨む。デメルザは怯まないが、少し警戒している。
「60は取りすぎだな。20枚ならいいぜ。それがダメなら乗らねぇ。」
デメルザは交渉にうってでる。
「ダメだ。60枚。」
「は?……えっと、30枚!」
「60枚。」
「……40枚。」
「60枚。」
「……50枚?」
「60枚。」
「だぁー、もう!!額、減らせよ!」
デメルザは苛立って叫ぶ。だが、船員達は全く動じる様子がない。
「いやだから、60枚じゃないとダメだってば。」
シーラとオーシャルは、静かにその様子を見ていた。
「何アレ。」
「すごいな、ヤーハッタは。ちゃっかりしてんねぇ……。」
シーラは死にそうな表情だ。
デメルザが折れて銅貨を60枚支払った事で、ようやく船が出航した。
「うぅぅぅ……。全財産の18分の1が……。」
デメルザは泣いていた。オーシャルは戸惑いつつ慰める。
「それならいいじゃん、全然。僕は全財産無いぞ。」
前と違って船員が充実しているだけあり、船の進みは快調だ。
「なんで2人だけで動かしたのに、あんなに進んだんだ?この前。」
「決まってんだろ、女神様が味方したんだよ。」
デメルザは唐突な笑顔でVサインを作る。
つい昨日の凍てつく寒さが嘘のようだ。海風が心地よい。風がないと焼け付くような暑さだ。
「カディナルタは治安いいよな?」
シーラが不安そうに尋ねる。デメルザは割と涼しい顔をしていた。
「安心しろ。少なくとも絡んでくる奴はいない。」
「よかった……。」
シーラは胸を撫で下ろす。デメルザは横目でじっと見た。
「さぁて、どうかね……。」
夜になると、船員達はゲームを始めた。本当に違和感なくデメルザも混ざっている。
「えっ!?またゾロかよ、ありえねぇだろ!」
ダイスの勝負だったが、デメルザは賭け事はとことん弱いようだ。どういう訳か、相手はゾロ目を連発する。
シーラとオーシャルは互いに背を向けて座っていた。シーラが一心に話しかけている。
「オーシャル、寒くないか?」
「うっせぇ!!」
やはり仲は良くない。
一行はカディナルタへと近づいて行く──。
「あ、オーシャル!流れ星だぞ!」
「うっせ──え、嘘。」
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